魔王候補者、TS異世界転移し、配信しながらコミュ力を磨きたい。

星七

プロローグ

 皆は「魔王」について知っているだろうか。

 魔王とは魔族を統べる王の事だ。



 では、「魔王のなり方」については知っているだろうか。魔王になるには、3つ方法がある。

 一つ目は、前魔王の血族である事だ。これは当たり前と言っていいだろう。

 二つ目は、現魔王を上回る力で倒す事だ。いわゆる、入れ替え戦という奴だ。

 三つ目は、生まれた時にステータスの高い魔族魔王候補者を魔王候補者しか通えない教育機関[コドク魔術学園]へと集め、三年間に及ぶ座学・実技訓練の後に卒業試験殺し合いをさせ、最後の1人を魔王にする方法だ。これは前魔王が子を残さずに死んだ場合に適応される方法である。

 大事な事だからもう一度言うが、この三つしか魔王になる方法は無いのである。


 そして、10日前、

 独身魔王が勇者に殺された。


 何で俺がこんな事を話したと思う?

 それは……


 

「いやだぁぁぁぁぁ!!!死にたくないぃぃぃぃ!!魔王候補者なんてやりたく無い!!」


 俺の代わりに魔王候補者になってくれる者を募集しているからだ。 

 ん?なりたい?おぉ!良いともかわってくれたまえ。


「坊ちゃん…イマジナリーフレンドに会話するのをやめてください。流石に私奴も悲しくなります。」


 部屋の入り口で待機している執事が話しかけてくる。俺が執事の顔を見るに呆れている。

 でも、それは仕方のない事だと思う。何故なら、俺が執事と対照的に部屋の奥でうずくまっているからだ。二日間も。


「だって!だってぇ!!」


「だってじゃないです。それはもう決まった事でしょう。」


 この執事、無情だ。思いやりの心は無いのか。

まぁ、そんな事はどうでもいい、今はこの現実から逃げるのが最優先だ。


「まだ、コドク魔術学園に入るのに一年も猶予があるでは無いですか。特訓する時間はありますよ。」


「力ならあるから特訓しない!絶対に!」


「ダメですよ、坊ちゃん。貴方には足りて無い力があるじゃないですか。」


 俺にはパワーならある。何なら、生まれてきた際の基礎ステータスは今までの魔王のどれよりも高い。

 そして、ステータスの上昇率も全魔王越えである。だが、執事の言うように足りて無い力がある。


 コミュニケーション能力だ。


 これだけは無い!断言できる。過去に同族の同い年に話しかけた事があるが、俺は「あ……えっと………ごめん。」しか言えなかった。

そして逃げた。結果、余計に話せなくなった。


「無理無理無理無理。オレ、ナカマトハナスノムリ。」


「急にロボットにならないでくださいよ。私奴には気軽に話しかけれるでは無いですか。」


「そりゃ、誰だって家族には気軽に話しかけれるでしょ!」


 物心ついた時には、母親は亡くなったらしい。らしいと言うのは執事に聞かされたからだ。

 そして、最近になって無期限外出していた父親も亡くなったらしい。これも執事から聞かされた事だ。

 だから、俺にとっては執事が唯一の家族だ。


「同族も私奴も無理だとすると強硬手段に出るしかありませんな。」


「言っとくが、この世界に俺が話す特訓が出来る環境など何処にもいないからな」


 執事は今の発言を聞いて顔が笑顔になった。

 なんか怖いな。


「分かりました。ないんですよね。」


「勿論だとも!」


「確認は取りましたからね。」


 そう言うと執事は用事ができたと言い部屋から出て行った。

 ちなみに俺は執事と話している間も微動だにせず、うずくまっているのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



2日後


 俺は寝ている間に目隠しをされ、執事に何処かへ移動されているのであった。

 

「この場を見たいならどうぞご自由に目隠しを外して下さいませ。」


 どうやら、ついたようだ。

 執事はいつも俺が好きなサプライズをしてくれるから次は何かとワクワクする。


 俺は「なら、お言葉に甘えて。」と言い、目隠しを外した瞬間広がるけし……眩しっ!


「うわぁぁぁ!!」


 目隠しを外し、光でホワイトアウトした視界を慣れさせている間に、ドンっと音が鳴り、俺の体は前のめりの姿勢でそれに落ちた。


「おい、執事!何してくれてんだ!コノヤロー!!」


 意外と落ちた場所は浅くて助かった。

 どうやら、ここは池のようだ。てか待て、俺の声なんか高く無いか?


「よしよし、坊ちゃん……いや、は随分と可愛らしくなりましたね。」


「お嬢様だと?ん?この水の色は……おい、執事もしかしてここって……」


「性反の泉ですよ。」


「性反の泉だとおぉぉぉぉぉ!?」


 説明しよう!性反の泉とは、魔族が悪事を働いた際に入れられる泉であり、中に入った者は性別が反転してしまう。そして、一生涯周りからいじられ続けてしまうと言う恐ろしい泉である。


「執事、お前今日中で解雇な!」


「ごめんなさい。坊ちゃん。でも、これが最善の方法なのです。」


「最善だと?この現状が?今、最もらしい理由を答えられたら解雇は取りやめにしてやるからな。教えてくれよ。」


 正直、苛立ちが隠せない程に出ているが、執事を家族権限で最後のチャンスを与えることにした。


「それは、次に案内する所で説明しても宜しいですかな?」


「もちろん、良いとも。」


執事にまた、目隠しをしてと言われたが執事と手を繋ぐ事を条件に承諾した。本来なら断るのだが、執事を信じることにした。


次に目隠しを外せと言われた時、執事の後ろで目隠しを外した。


「ここは?」


「ここは移界の間でございます。」


「移界の間?」


「はい、ここはコドク魔術学園の一室でございます。」


 え?ここってまだ入学してないよね。不法侵入でもした?裏ルート?執事って、結構反社の魔族だったりする?


「焦っておられますかな?ここは私のコネで使う事を許可してもらいましたので安心してくだされ。」


「いや、安心出来ねぇよ!!」


「それはさておき、性反の泉に突き落とした理由ですが、坊ちゃんに異世界へと行ってもらうためでございます。」


「いや、何でだよッ!!てか待て、は?え?は?why?」


「坊ちゃんが仰ったでは無いですか。この世界にはコミュ力を鍛えれる環境が無いと。つまり、他の世界なら良いと、……現地は取りましたからね。」


 あーやばい。終わった。魔族にとって仲間に嘘をつく事はしないのが暗黙のルールだ。破った者は魔族領から追い出されると言うのを昔、近所の者が話しているのを小耳に挟んだ。


「いや待て、それは性反の泉に突き落とした根拠になっていないぞ!!」


「今から移動される異世界について長い説明になるのでゆっくりと聞いてくだされ。その異世界では・・・」


 簡単に内容を訳すと、今から行く異世界はダンジョン内での配信が主な仕事。その仕事はトーク力・コミュ力・探索力が必要。

 だが、ある国、美形ならトーク力・コミュ力無しで人気になる。特に美少女だと大人気になる。

 坊ちゃん、人気者になり、トーク力磨け。と言う事らしい。

 

 いや、何だその馬鹿げた理由は。あり得んだろう、性別が変わっただけで人気になるものか。

 仮にそうだとしたら、俺は超人気者になるのでは!?

自分で言うのも何だが凄い美少女にもなったのだ。


「でも……まぁ、ありがとう執事。」


 皆んなもそうだと思うけど、仲間と話すのは出来なくても、仲間にちやほやされるのは大好きだ。そんな機会を作ってくれた執事には感謝しきれないな。


「ほっほっほ。褒めても護身用の剣しか出ませんよ。」


「助かるよ。執事。」


「聞き忘れそうになったが、俺は何日間異世界にいけば良いんだ?」


 重要な事を聞き忘れていたな。まぁ、二ヶ月くらいだろう。


「約一年くらいですかな。帰る時は念話魔術で事前に伝えといた方がいいですかな?」


「一年!?あ、あぁ…頼む。」


 一年!?、多すぎやしないか?うーん……耐え切れるか?まぁ、出会う奴らにもよるけど、話せないかもしれん。


「ま、とくに聞きたい事も、準備も必要ないでしょ。なら、俺はもういけるぜ。」


「でしたら、ゲートを開きますので少しお待ち下さいませ。」


 執事は俺の知らない呪文を唱え始めた。所で、今感じるこの違和感は何だろう。

 まず、第一に人気者になっても殺される可能性があるんじゃないのか?

 そして、第二に人気者って人の気がある者の事を言うんだろう?じゃあ、今から行く世界は人間の巣窟ってことか?まぁ、いいか当たって砕けろ精神で行こうじゃないか。


「準備が出来ましたよ。坊ちゃん。」


「お、出来たか!」


「この世界に行く際の助言なのですが、言葉遣いには気をつけて下さいませ。」


 あぁ、そうか、女になってるんだった。

坊ちゃんって、言われ続けたから、忘れていたよ。


「分かった。任せてよ!」


「それでは行ってらっしゃいませ。私奴は今の世界で坊ちゃんを待っております。」


 今、思ったんだけど、今から行く異世界の敵の強さってどれくらい何だろう。ま、いっかどうせ俺強いし。

 そうして、俺はゲートをくぐって行った。

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