6. 生まれ変わったお婆ちゃんの魔導車

 無事運転免許を取得した翌日、お爺ちゃんから呼び出された。

 いまのお爺ちゃんは街の代官であるカーライル様の配下で働いている。

 普段は働いている時間なんだけど、一体なんだろう?


「お爺ちゃん、来たよ」


「おお、ルリ。よく来たのう」


「うん。最近はお爺ちゃんとも朝と夜しか顔をあわせなかったけど元気にしてた?」


「儂は元気じゃぞ。それに、ようやく頼んでいた物も届いたしな」


 お爺ちゃんが部屋の奥を指さすと、そこには大きめの金庫があった。

 ただ、金庫の表面はぼろぼろで、切ったり焼いたりしたあとがある。

 どれも表面しか傷ついていないみたいなんだけど。


「あれは儂がエッセンス家に残していった魔導金庫じゃ。父上め、なんとか開けようとしたようじゃが、どんな手段をもっても開けられなかったようじゃな」


「そんな頑丈な金庫だったんだ」


「まあ、溶岩の中に放り込んでも溶けないしのう。さて、開けて中身を取り出すとするか」


「わかった。私はそれを見ていればいいの?」


「お主も手伝うんじゃよ。それ、手を貸せ」


「あ、うん」


 見たこともない金庫を開けるのにどうやって手伝うのかと思ったが、どうやらお母さんのネックレスとお婆ちゃんの指輪が鍵の一部になっているらしい。

 なくても開けることは不可能じゃないらしいんだけど、それには複雑な手順が必要になるんだそうな。

 実はすごいものだったのかも。


「さて、開くぞ」


「そうだね。中にはなにが入っているの?」


「つまらん孫じゃの。もう少し驚いたらどうじゃ」


 いや、驚けと言われても。

 指輪やネックレスが鍵だっただけで十分に驚いてるよ。


 ともかく、金庫の扉は開いたようなのでお爺ちゃんはその扉を開ける。

 金庫の中から出てきたのは金貨や宝石などの財宝と小型のグリップに発射装置が付いた魔導具、つまり魔導銃だ。

 財宝はわかるんだけど、なんで魔導銃まで金庫の中にしまわれているんだろう?


「お爺ちゃん、この魔導銃ってなに?」


「婆さんが若い頃に使っていた魔導銃じゃ。非情に高性能な魔導銃のため、駆け落ちする前に儂が預かり金庫に保管したのじゃよ。これは、兵士数百人を相手にしても楽に勝てるほどの銃じゃからな」


 兵士数百人を相手に勝てる銃、それは確かに危険かもしれない。

 だけど、これはどうするんだろうか?


「この銃はルリが持っておけ。婆さんの銃じゃし問題なかろう」


「ええっ!? 問題あるよ! 魔導銃ってモンスターには効かないんでしょう!?」


「時として人間の方がモンスターより恐ろしいこともある。護身用として肌身離さず持っておけ」


 うう……。

 お爺ちゃんに押し切られるようにして私は魔導銃を受け取った。


 魔導銃は魔力を変換して弾丸に変え飛ばす銃なんだけど、魔力を変換する際の問題でモンスターには非情に効きにくいのだ。

 モンスターの体内にある魔石と反応してどう……と聞いたことがあるけど、詳しいことは覚えていない。

 とにかく、対人専用の武器である。


 そのあと、お爺ちゃんは金貨を袋に詰めると、私を連れて街へと繰り出した。

 あれ、そういえば、お婆ちゃんの魔導車は?

 私はずっと運転教習所通いだから見てなかったんだけど、乗って行かないのかな?

 衛兵は付いているから大丈夫だろうけど、どうしたんだろう?


 屋敷を出てからずっと不思議に思っていた私をお爺ちゃんはひとつのお店に案内してくれた。

 私もよく来たことがあるカーショップだ。

 お婆ちゃんの魔導車に必要な物を買い足すのかな?


「いらっしゃい! お、ヴェルの旦那、来ましたね」


「うむ。孫がついに免許を取れたからのう。それに、儂の個人的な金も届いた。甥に建て替えてもらっていたレストアと改造費用をようやく支払えるというものじゃ」


「それはよかった。しかし、カーライル様が建て替えてくれているんですし、そのままでもいいんじゃ?」


「親しき仲にも礼儀あり、じゃ。費用は儂が払うからカーライルには頭金を返しておいてくれ」


「わかりました。それでは、総費用金貨3000枚になります」


 金貨3000枚!?

 そんなにあったら豪邸が建つし、慎ましやかな生活をしなくても一生困らないよ!?


 私が目を白黒している間にお爺ちゃんは袋から白い金貨を30枚出して並べた。

 お店の人が数えている間に聞くと、あれは『白金貨』という物で金貨100枚の価値があるらしい。

 よっぽどのことがない限り庶民では使わないらしいが、こういう大規模な商談では使うこともあるようだ。


「……確かに、白金貨30枚受け取りました。すぐに持ち帰りますか?」


「その前に乗車テストをしてからじゃ。乗って帰ってから不具合が見つかっても困る」


「その時は無料でサポートするんですがね。まあ、こちらへどうぞ」


 カーショップの奥に案内されると、ガレージの中にはたくさんの魔導車が並んでいた。

 でも、そのほとんどが街や整備された道を走るためのオンロードカーでオフロードカーはほとんどない。

 そんな魔導車たちの一番奥、魔導車に囲まれるようにして1台のオフロードカーがあった。

 お婆ちゃんの魔導車だ。

 間違いなくお婆ちゃんの魔導車だと思うんだけど見た目は全然違う。


 まず、車高が高くなった。

 よく見ると、タイヤが大きくなっておりより頑丈そうなタイヤになっている。

 これならより険しい道でも走れそう。


 次に屋根の上にライトが並んでいる。

 これなら暗い場所でも明るく照らして走れるね。


 あと、車体の色。

 茶色だった車体が深い青色に塗られている。

 今度はお爺ちゃんの趣味らしい。


 なんだかいろいろと追加されてるけど、お婆ちゃんの魔導車が新しく生まれ変わったんだ!

 早く乗ってみたいな!

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