第3話

私も高校生になり、バイトなど始め、家に居る時間は少なくなった。当然、アルの相手をする時間も減った。


そんなある日、バイトの疲れからソファに横になってると顔のそばに何かが来た。

薄目を開けるとアルだった。

アルは厳しい目つきで


「お前、最近どこほっつき歩いてる」

「ワシをもっとでろ」

「母親も愛想ないと言うとるぞ」


と小声でボソボソと苦情を言った。

私はぼんやりと昔聞いた「マグロ食いたい」と同じ声だなー、なんて思った。

そしてアルを無理やり胸元に引き寄せると、嫌がるのも構わずで回した。



私は少し意識してアルとコミュニケーションをとる時間を増やした。だがアルは、私よりも、この頃に親が購入した自動掃除機ルンバに夢中になった。

いささか面白くないが、ルンバを追いかけ回したり、稼働中に上に鎮座ちんざするアルの姿を見るのは楽しかった。


それからしばらくして私は異変に気づいた。アルにではなく、ルンバにである。

人の呻き声に似た異音を発するようになり、円形の表面には人面を思わせる模様が浮かんでいた。最初はアルがパンチしたり長時間乗っかりすぎたからかなと思ったが、観察してると表面の人面模様の眼がパチリと開いた。しかも、その眼は昔見た鬼と同じく金色だった。

さすがに驚き、頭の中に「すぐに廃棄はいき」とか「おはらいすべき」という言葉が駆けめぐった─が、次の瞬間、アルがルンバの上に飛び乗り、シャッ!という威嚇いかくを発しながら前足でバシバシとルンバを叩いた。

ルンバは悲しげに「うぅ…」と洩らしたきり沈黙してしまった。

以降、ルンバから変な模様は消え、異音を出すこともなくなった。

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