19 承諾と決裂
「ラムダ様の魔力を見てまさかとは思っていたのですが、あなたはここに来るまでに一度も門番たちに反応されなかった……と、仰っていましたよね?」
予想外の質問に固まったが、ラムダの代わりにメテオラが肯定した。
ヒオノシエラは二回頷き、わかりましたと静かに言ってから、立てた人差し指をすっと天井へと向けた。
「アプラゴニアについての問答に私は満足しました。門番を立てているのは今の時代の住民に選択権を渡すためで、ここまで登って来られ、私が納得する話をした貴方がたは、九階の宝物庫と十階の封印装置室に行く権利がございます。宝物庫にはリモクトニア由来の宝と、アプラゴニア由来の宝があります。持っていって構いません」
「マジで!? 機械族の部品ある!?」
「ありますよ、メテオラ様の召喚獣に使えると思います」
「ヨッシャ〜〜!! 行こうぜラムダ!!!」
大喜びのメテオラを、ヒオノシエラが一旦制した。
「メテオラ様、申し訳ありませんがラムダ様には頼みがあるのです」
「え? ラムダに?」
「はい。できれば……この塔を再封印し、すべて元に戻そうと思われるのであれば、ラムダ様にはここに残って頂きたいのです」
ラムダははっとして、ヒオノシエラの指差す天井を見上げた。
最上階は、封印装置室。ロウはそこにいる。そして自分も残れと言われている。
理由は一つしか思い付かない。それを補強するようにヒオノシエラが説明を続ける。
「ロウ様も、そのために来て頂きました。理由は不明なのですが、貴方がた兄弟の魔力の質は、数億年前の機械類を動かすための魔力に酷似しているのです。この塔の機械族たちが貴方に反応しなかったのは、そのためです。自分たちに命令をする側の存在だと判断したのでしょう」
ラムダはやっとすべてが納得できた。なかばスッキリともして、つい笑い声が漏れたほどだった。
目の端に、立ち上がるメテオラが見えた。
今度こそ宝物庫に行くのかと思ったが、焦った顔でヒオノシエラを凝視していた。
「それは、なんつーか、全然説明になってなくね?」
「メテオラ?」
「こいつの弟は無理矢理連れて来られたんだろ? それはおかしいじゃねーか、町が凍ってる理由もわかんねーし、」
「あれは応急処置です」
ヒオノシエラは落ち着いた表情でメテオラを見つめ返す。
「ご覧の通りに、一帯は極寒になりました。放置すれば死ぬと判断し、一旦時間停止魔法をかけさせて頂きました」
メテオラは何かを言おうとするが、結局渋い顔で口を閉じる。確かに、メテオラが時間停止魔法の類だと話していたなと、ラムダは思い出す。
あれはヒオノシエラがやっていたのか。悪意でもなく、緊急の事態の対処として。
ならもう、ラムダが聞きたいことはあと一つだ。
「その途中でロウをたまたま見つけて、声を掛けたのか?」
問えばヒオノシエラは頷く。
「姿を見せ、経緯の説明を掻い摘んでさせて頂きました。ロウ様は私の話を聞いて、お兄様……貴方ですね、ラムダ様が塔に向かわれたことを非常に心配してらっしゃいました。再封印のための手伝いをして欲しいとの頼みにも、快く応じてくださり、ここまで来て頂けました」
ヒオノシエラは更に説明を加える。
ロウはシェルヌに戻って来るはずのラムダにこのことを伝えて欲しいとも頼んでいたが、封印が解かれたことによる侵入者が相次いで、各階門番に遠隔で魔力を注いでいるヒオノシエラはなかなかシェルヌへ行けなかった。
その間に自分とメテオラが来て、順調に進み続けたから、塔に留まり相手をした。
ラムダを見て兄だとはほぼ確信した。だから今伝えている。
同時に、ロウよりもラムダの方が魔力の質が機械族に向いているとわかったため、このまま留まって欲しい。
それなら、ロウは塔を降りても問題はない。
辺り一帯の寒さも、二日もすれば落ち着くはずだ。
ラムダは息をつき、ヒオノシエラではなく、メテオラを見た。なんとも言えない顔をしていた。驚いているのか焦っているのか、口を半開きにしてラムダの顔を見つめていた。
異様に魔力の相性がいいと言っていた理由もわかったし、困惑しているのだろう。
それにしても、ぶっ殺して懸賞金をもらおうとしていた相手に大事な頼み事をしなくてはいけなくなるとは。ラムダは苦笑した。
「メテオラ」
「な、なんだよ」
「ロウを連れてこの塔を降りて、シェルヌまで送ってやってくれねえか」
頼んでから、ヒオノシエラを見る。
「俺が残る。でもとりあえず、最上階のロウのところに行ってもいいか?」
「はい、もちろんです。案内が必要であればついていきますが」
「構造が他のフロアと変わらねえなら必要ない。その封印? ってのは、何をすればいいんだ?」
「所定の位置にいるだけです。魔力は吸われ続けますが、特に苦痛はないかと」
「メシとかどうなってる?」
「転移魔法で私が運びます、お好きなものは虫ですか? ロウ様がそう仰ってましたが」
「なんでも食う、任せる」
「承りました」
ラムダは頷き、立ち上がった。
「行こうぜ、メテオラ」
「……」
「メテオラ?」
メテオラはラムダではなくヒオノシエラをじっと見ていた。
ヒオノシエラも、メテオラに視線を向ける。
「どうされましたか?」
「……あのさー……」
「はい」
「ここであんたをぶっ殺して、塔もぶっ壊して、ラムダと弟くん連れて行ったら、どうなる?」
ラムダはぎょっとする。ヒオノシエラも少し目を見開いてから、さきほどまでとは違う種類の笑みを浮かべた。
氷のように冷淡な微笑みだった。
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