第25話 二大イケメン、襲来す


 期末テストまで、残り日数は少なくなった頃。

 順調に四限まで消化し、昼休みに入っていた。


「よお、碧斗。三人の元カノは何してんだ?」

「ちょ、お前。大きな声で言うなって」

「わりわり、ちょっとからかっただけ」


 三大美女が元カノであることを、夏鈴と翔は理解している。

 不本意ながらも、二人には打ち明けることが出来たのだ。


「てか、夏鈴ちゃんは?」

「多分、小春とご飯食べてるかな。四限の時に言ってた」

「何で教室にいないんだよ。顔見れねー」

「さあな。一応秘密にしてるんじゃないか」


 夏鈴も、三大美女と仲良しであることを、翔と碧斗に打ち明けた。

 夏鈴自体、目立ちたい性格では無い為、秘密にしたいというよりも見られたくない為に外で昼食をとっているのだろう。


 そんな会話を挟みつつ、今日も今日とて、翔と談笑を挟みながら、昼食を取ろうとしていた時だった。


「……ええ!!?」

「……きゃあ!!」


 唐突に、女子達の歓喜の悲鳴が上がる。


「……なに? 急にどうしたの?」

「の、乃愛! なんでそんな普通なの……?」

「は、はあ?」


 意味不明すぎる悲鳴に、乃愛も頭が追いつかない。


「何言ってんのよ、弁当忘れた?」

「ち、ちがうちがう!」

「まじで……なに……?」


 何故にそこまで興奮しているのか。

 乃愛には理解できず、苦しんでいた。


 一方、少し離れた場所で昼食をとる陽葵も――


「ええ!? 急に叫んでどうしたの?」

「ひ、陽葵ちゃん……!」

「なになに! 今日も陽葵ちゃんが可愛いって!?」

「ん、そ、それはそうなんだけど! 違う!」

「え、ええ……?」


 元気印の陽葵も、唐突な女子達の悲鳴に困惑していた。


「どうした、急に悲鳴なんか上げ始めて」

「わかんねー。全員弁当忘れたのか?」

「どんな確率だよ……」


 翔と碧斗も、当たり前の様に困惑している。

 何の前触れも無く、急に悲鳴を上げる女子たち。

 困惑しない方がおかしい。

 

 そして教室を見渡すと、悲鳴の発生源を見つけた。


「……ってまさか、あれ?」

「……絶対そうだな」


 教室の前方のドア。

 ――名前も知らない二人が、教室を覗き込むように立っていた。

 一人は赤髪、一人は茶髪。


「乃愛、あれ見てあれ!」

「……はあ? なによ……」


 興奮するクラスメイトが指を差す方向を見ると、二人の男子がいた。


「……あれが、なに?」


 とはいえ、乃愛からすれば"だから何だ"としか言いようが無い。


「ええ!? あの二人、学園の二大イケメンだよ!?」

「……はあ?」


 クラスメイトに言われ、改めてその二人を見る。

 女子達の中で騒がれていたのは知っていたが、興味が無かった乃愛は、顔も名前も知らない。

 そんな二大イケメンが、B組の教室へと出向いたのだ。

 


「陽葵! あれ見て! 前!」

「ま、前? ……って誰?」


 こちらも、クラスメイトに言われるがまま、前方のドアへ目を向ける陽葵。


「だ、誰!? 二大イケメンだよ!?」

「あれが、二大……イケメン……?」


 乃愛と同じく陽葵も、騒がれていたのは知っていたが、興味が無かった為、名前も顔も知らない。


「そうそうそう! 心穏くんと優太くんだよ!」

「へ? りおん……? しゅうた……?」

「しおんとゆうた!!」 


 前方のドアに立つのは、赤髪の短髪を纏う心穏と、茶髪の爽やかな髪を纏う優太。らしい。

 


「……二大イケメンらしいぞ」

「だな。そういうことか」


 周りの女子達の興奮気味な声色と会話からも、翔と碧斗も前方のドアに立つ二人が何者か気付いた。


「てか、何しに来たんだろうな」


 二大イケメンが、このクラスに何の用だろうか。

 皆目見当もつかない碧斗は、そう呟く。

 自分に友達がいないから分からないのかもしれないが、このクラスに誰か親友でもいるのだろうか。


「さあな。あいつらも弁当忘れたんじゃね?」

「お前どんだけ弁当忘れてほしいんだよ」


 見当がつかないのは、碧斗だけではない。

 勿論、隣の翔もそうだ。

 

 ――すると、答え合わせをするように、前方に立つ二人はB組の教室に言葉を向けた。


「驚かせてごめん。このクラスのある人に用があるんだ」


 優太が声を発すると、女子達はそれに釣られて悲鳴を上げる。

 無論、碧斗からすれば、異様すぎる光景でしかない。


「多分友達がいるんだろ」

「だろうな。俺達には無縁の話だな。弁当忘れじゃなくてショックだけどよ」


 相変わらず、翔は弁当を忘れてほしいらしい。

 前方のドアに立つ生徒の口振りからも、このクラスに目的の人物がいることは間違いないだろう。


「なになに!? 優太くん、このクラスに友達いるの!?」

「ええ!?」


 とある女子クラスメイトから、優太へと質問が飛ぶ。


「いや、気になっている人がいてね」

「そうだ。俺もだけど」


 優太が言葉を発した後、心穏もそれに乗るように声を出す。

「気になっている人がいる」

 二大イケメンのその事実に、女子の悲鳴も、同時に上乗せされた。


「……てか、なんでみんな興奮してんの?」


 前の二人が一言一句口にする度、女子の悲鳴が上がる。

 そんな女子達に乃愛は疑問を抱き、共に昼食をとるクラスメイトへと質問をした。


「え、だってあの二大イケメンだよ!? し、しかも気になってる人がいるって……えええ!?」


 頬を真っ赤にしながら、クラスメイトは興奮気味に語っている。


「……絶対碧斗の方がかっこいい」


 聞こえないように、ボソッと呟く乃愛。

 やはり、二大イケメンなどに魅力など感じない。

 


「ちょちょ、興奮しすぎじゃない!?」


 こちらも、隣のクラスメイト、否、クラスの女子達の異様な興奮姿を見て、驚愕している陽葵。


「だ、だってあの優太くんと心穏くんだよ!? 気になってる人とかやばいでしょ!?」

「や、やばい? ええ?」

「やばいよ!! だってもし、陽葵ちゃんのことが気になってたらどうするの!?」

「どうって……うーん」


 指を顎に添えて、考えている素振りをする陽葵。

 無論、答えなど最初から決まっている。


「まーったく好きになるわけない! 陽葵ちゃんを落とすなんて無理無理!」


 若干頬を赤らめながら語る陽葵。

 頬が赤らめいた原因は、語りながら碧斗のことを考えていたからで、二大イケメンには興味も無い。


 クラスの女子達が歓喜の悲鳴を上げる中、前方の二大イケメンは言葉を続ける。


「その、気になってる人なんだけど」


 優太が、意中の人物を口にしようとすると、女子達の悲鳴も一気に上乗せされる。

「自分ではないか」と、期待し、高揚する女子達。

 そんな期待を、優太は一瞬にして断ち切った。


「――このクラスに、転校生はいるかな?」


 転校生。

 それは、流川碧斗しかいない。


「……は?」


 その言葉を聞き、碧斗も目を丸くして驚いた。

 名前も知らない、誰かも分からない人、そして、二大イケメンが、何故自分に用があるのか、と。

 騒いでいた女子達も、驚愕の表情を浮かべていた。


「……碧斗?」

「……碧斗?」


 黙って聞いていた陽葵と乃愛も、予想外すぎて、同じことを同じタイミングで呟く。


「いるのか? いたら教えてくれると助かるんだけど」


 優太に続き、心穏も碧斗を求める。

 起きていた歓声は、いつしか驚愕の沈黙へと変わっていた。

「気になっている人」が自分では無いことに、悲しんでいる女子生徒も少々。


 とはいえ、自分しか該当しないため、碧斗が黙っているのは得策では無い。

 そう考え、碧斗は返事をした。


「……俺だけど」

「あ、いたいた。ちょっといい?」


 優太の目には、苛立ちか、妬みか、その類の感情が含まれていた。


「いいよ。何だ?」

「ここで話すのもあれだからさ、別の場所に行こうよ」

「いや、怖いんだが……」

「大丈夫。――ちょっとした質問をしたくてね」


 先程の瞳とはうってかわり、今度は優しい微笑みを碧斗に向ける優太。

 若干怖いが、断る理由も無いので、碧斗は二人について行くことにした。


「なんだよ、話って」

「後で言うから。少し待っててほしい」

「そうゆうことだ。ついてこい」


 二大イケメンと並び、廊下を歩く碧斗。

 歩いてる途中も、女子の視線と悲鳴がチラホラと聞こえる。

 

 ――これ、もしかして俺に言われてたりしない?


「……お前、自分に言われてると思ってんのか?」


 心穏が、変な顔をしていた碧斗を見て問う。


「あ……いや。味わってんだよ」


 二大イケメンの特権に乞食して、自分に視線を送られていると思い込んでいたらしい。

 滑稽すぎるにも程がある。

 

「何してんだお前」

「面白いね、君」


 そんなバカ碧斗を見て、二人は至極真っ当な感想を述べる。

 そんな会話を挟みつつ、無人の教室へと入った。


 電気をつけると、はっきりと三人しかいない教室が照らし出される。


「……で、何だよ話って」

「まあまあ、そんなに緊張しないでよ。友達になりたいんだ」

「そーゆーことだ。何もしねーよ」

「急にそんなこと言われたら怖いだろ、普通は。……構わないけど、まず名前は何だ」

「僕の名前は加藤優太だよ。よろしくね」

「俺は高瀬心穏だ」


 優しく微笑む優太と表情を変えない心穏が、碧斗に向けて自己紹介をする。

 そして、碧斗が自己紹介を返そうとした時、心穏が割って入った。


「俺は……」

「お前、転校生だったよな?」


 心穏の声色は、少しだけ怒りが含まれていた。

 とはいえ、関わりも何も無い碧斗は、困り果てるしかない。


「……え、うん。そうだけど……何かしたか?」

「いや、最終確認だ。んで、名前は何だ? 」

「――流川碧斗。よろしく」


 碧斗の名前を聞いた瞬間、心穏と優太の顔つきが変わった。


「おい優太、こいつで合ってるっぽい」

「そうだね。噂通りの名前だ」


 噂通り。

 噂が何かというのも、碧斗には大体見当がつく。

 ――三大美女のことだろう、と。


「……本当の話は三大美女のことだよな?」


 二人の口振りからも、それは容易に想像出来る。

 でなければ、二大イケメンとも言われる存在が、碧斗を呼び出す訳もない。


「分かってくれてるなら話は簡単だね」


 想像通りだと、優太は答える。

 そして――


「――碧斗くんは、陽葵ちゃんとどういう関係なのかな?」


 優太が質問すると、隣に立つ心穏も、


「――お前、乃愛ちゃんとどういう関係なんだよ」


 と、追うように質問をした。

 

 ――碧斗は、どう答えればいいか悩まない。

 三人で帰った時、頼れる夏鈴と翔が言ってくれたことを思い出す。

「隠さない方がいい」と。

 聞かれて秘密にしとくのは、今日で終わりだ。

 ――現時点をもってして、覚悟は決まった。


「――俺は、あいつらの元カレだ」


 碧斗の瞳には、曇りひとつない。

 そんな瞳を見て、二人も嘘だとは思わなかった。

 ――むしろ、改めて戦意を宿した。


「そうなんだ。てことは、実行委員も、体育祭の色々も、全て計画通りだったってことかな?」

「そうだろうな。あいつらが勝手にやってただけだが」

「なるほど、ね」


 優太の顔からは、優しい微笑みは消えている。

 そして、黙っていた心穏が、横から口を開いた。

 

「おい流川、一つ言わせてくれよ」

「……何だ?」


「――俺らは、あいつらが好きなんだよ」

 

「……は?」

「僕は陽葵ちゃんが好きだ」

「俺は乃愛ちゃんが好きなんだよ」


 二大イケメンからの衝撃的すぎる告白に、碧斗は驚愕する。

 そして、心穏は言葉を続けた。


「――悪ぃけど、二人から離れてくんねえかな?」


――――――――


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