第13話 迷宮設計と命の女神

 クレディオス様とクロニア様と今後の事を話し合い、クロニア様に少し神術の相談をしたあとはウォーラ様との稽古でがっつり身体を鍛え、一日を終えた。



「さてログ坊、迷宮ダンジョンがどんな場所かは何となくイメージ出来てるが、具体的に教えてもらえるか」


 テチノロギス様は腕を組んで僕の説明を待っている。

 今日もクレディオス様の部屋に集合だ。クレディオス様とテチノロギス様の二神が集まり、迷宮ダンジョンの設計を行うことになった。


「そうだ、テチノロギス様。迷宮ダンジョンの説明の前に絵を上手く描けるようになる技能スキルを作りたいです」


「絵で説明してくれるって事だね」


「ですです。僕の世界の遊戯に出てくる迷宮ダンジョンというのは特殊な場所と説明しましたが、色々な種類があるんです」


「そういうことなら任せておけ。サクッと作ってやるぞ」


 ・・・数十分後、技能スキル【絵画】を覚えた。

 『絵画』を覚えたことで頭に思い描いた絵をそのまま黒板に描くことが出来るようになった。すげー便利。さすが技能スキル

 僕は洞窟型、遺跡型、草原型、森型、山型など思いつく迷宮ダンジョンのパターンを黒板に描いていく。


「こんな感じで色んなパターンがあるんですよ。行く手をモンスターという仮想生物が阻んできます。昨日お話した迷宮ダンジョン内にだけ存在するような仮想の生物です」


「色んなパターンがあるんだな。俺のセンスの見せ所だぜ。ただ、ウォンダにある場所を実際に造り替えるとなると場所を食うな」


 そう。実際にリアルな場所を使って作ろうとすると場所が限られてしまう。


「そこでですね。僕の世界では異空間や亜空間という場所に迷宮ダンジョンがあるパターンもありまして」


 ここでクレディオス様をチラ見する。この何でもありであろう神様であれば出来るはず。

 出来るんでしょ?という煽りを込めた視線を向けて話していると、


「ふっふっふ。ログ君。何だい?その挑戦的な眼差しは。ボクにとって異空間を作り出すことなんて他愛もないことだよ」


 はい、ドヤ顔で乗ってきました。


「流石です、クレディオス様。じゃあ迷宮ダンジョンは異空間に造るようにしましょう。ウォンダにはそれぞれの迷宮への入口だけ造る感じで」


「うんうん。じゃあ神殿の一室を迷宮ダンジョン管理用の部屋にしてしまおうかな」


「オヤジ、迷宮ダンジョンの様式パターンはわかったし、早く造ってみてえ。早速準備してくれよ」


 テチノロギス様は待ちきれないとばかりにクレディオス様を急かしている。


「構造以外にも参考にしてもらいたいことがあって・・」


『ログ!ちょっと私の部屋にきてくれ』


 話の途中で僕の頭の中にウォーラ様からの【神託】が飛び込んで来た。


「クレディオス様、テチノロギス様。すいません。ちょっとウォーラ様に呼ばれてしまいました」


「いいよいいよ、行ってあげて」


「おう、こっちは進めておくからよ」


 ひとまず迷宮ダンジョンの設計をニ神おふたりにお任せして僕はウォーラ様の訓練場へやに向かう事にした。



***



「ウォーラ様ー。どうしたんですか?」


 ウォーラ様の訓練場へやの扉を開けながら僕は声をかけてみるが中は真っ暗だ。もうこの時点で嫌な予感しかしない。


 訓練場へやの中に踏み入ると、一気に部屋が明かるくなる。

 ..ほらね。変なのがいるよ。明るくなった視界に訓練場へやの中心で佇んでいる異様な存在が飛び込んできた。

 端的に言って、キモい。僕より少し高いくらいの背丈、二足歩行の真っ白い人型マネキンのようなもの。異様なのは4対のワキワキ動いている手とやたら筋肉質な身体だ。


「え」


 暴力的なキモさに愕然としていると瞬時に僕の目の前に現れ、2つの拳を引き絞ってきた。

 咄嗟に腕に神力を集め、ガードを固める。フック気味に2つの拳が僕に炸裂し、そのまま横に殴り飛ばされる。

 衝撃で飛ばされるが勢いを利用して身体を捻り、倒れ込まないようにうまく着地することが出来た。


 いきなり過ぎて困惑するが、殴ってきたことは確かだ。さっきまで僕がいた場所から何故か動かないキモマネキンに掌を向けてトリガーワードを念じて神術を行使する。

 キモマネキンの周囲に氷霧が発生し、そのまま周囲もろとも氷結させる。

 氷の神術、【氷結フリーズ】だ。ウォーラ様との模擬戦では一発で気を失ってしまったのでお披露目出来なかったアクイス様との力作だ。


「ふぅ」


 ビキンっと周囲もろとも凍りついたキモマネキンを見張りながら一息をつく僕。


「やるじゃねーか、ログ」


「ウォーラ様?」


 やるじゃねーか!じゃねぇ。いつの間にか現れたウォーラ様のほうを見やり問いかける。と、、、


「あら。ウォーラちゃん、まずはごめんなさいでしょ?」


 女神が降臨されておりました。艶のある黒髪をサイドアップにまとめた黒い瞳の超絶美女がウォーラ様の横に立っていた。

 どストライクである。女神様はここにおられたか。お胸様の戦闘力も凄まじく、ウォーラ様と同等、いや、ウォーラ様を太陽と表現するならばこの方は月と表現することが出来る。

 今までの出来事を瞬時に忘れるほどの衝撃を受けていると、


「お前はまたどこ見比べてんだ?」


「はっ!?すいません!二神おふたりのお胸様が太陽と月のようだと思ってしまい」


「あら。お胸様って。そんなにストレートに言われたの初めてね」


 咄嗟にお胸様だけの印象を伝えてしまった!ファーストコンタクト最悪じゃないか。


「ラヴィエ、こいつはお胸大好きな奴なんだ。堂々と見てくるから気持ち悪くはないけどな」


 この方が命の女神、ラヴィエ様か!しかし今は、


「ウォーラ様、語弊のある言い方はやめてください。僕はあなたがお許しを出してくれているから堂々と見てるんです」


 そう、ここだけは修正せねば。


「あら..」


「「ん?」」


 僕とウォーラ様の会話を聞いていたラヴィエ様が首を傾げながら僕を見つめて黙ってしまった。

 え、ちょっとそんなに見つめられると緊張するんですけど。こてん美女は反則です。


「じゃあ私も許しちゃうわ」


「..なんで?」


 あれ?ベクトルが違うだけでウォーラ様と同類?この流れは一体。それよりキモマネキンの話はどこいった。


「おい、ラヴィエ。ログは私のだぞ?」


「僕は物じゃないからね?」


 そこの脳筋女神!僕を物扱いするんじゃないよ。


「ふふふ。また言い返されてるわよ、ウォーラちゃん。いいじゃない。この子、面白そう」


 ラヴィエ様から慈愛に満ちた眼差しを向けられているはずなんだけど猟奇的な視線も同時に感じるのは何でだろう。

 まあ、お胸様ガン見権を頂けたのは素直に感謝したい。


「ラヴィエ様、ありがとうございます。一瞬混乱しましたが、すごい嬉しいです」


「いいのよ。あ、自己紹介しなくちゃね。私はラヴィエ。よろしくね」


「はい!僕はログといいます。よろしくお願いします」


 命の女神のラヴィエ様、ウォーラ様に劣らない濃ゆい女神様だな。



「それで、ウォーラ様?このキモいのは何なんです?」


「あん?次キモいっていったらぶっ飛ばすぞ?私とラヴィエの力作だ!」


 理不尽な..襲わせといてなんて言い草。ラヴィエ様はキモマネキンを覆っている氷をコンコンしている。


「アクちゃんの力を本当に使えるのね。これが神術、面白いわねぇ」


 神術を見るの初めてですもんね。アクちゃんってアクイス様のことかな。とそれよりも、


「ウォーラ様、力作だけじゃわかんないですよ?これは一体なんです?想像はついてますけどちゃんと教えてください」


「しょーがねぇな。こいつは昨日、お前が話していたモンスター?ってやつをラヴィエに協力してもらって作ってみたんだ。いい感じだろ?」


 全然だよ。全然いい感じじゃない。なんであんな腕を増やしたのか、なんでマッチョなのか、ツッコミどころが多すぎる。


「ダメダメですよ!何ですか、あのワキワキ動く腕は?あと本数も。もう一回言います。キモ過ぎです!」


「テメェ..また言ったな!もう許さねぞ!顔かせや!」


「上等ですよ!そもそもいきなり襲わせといて。今日という今日は一発殴ってやる!この理不尽女神が!」


 こればかりは譲れない。僕とウォーラ様は取っ組み合いの喧嘩を始めてしまう。

 ちなみにもちろん一方的だ。僕の拳はかすりもせず、逆にウォーラ様の拳がガンガンぶち当たる。

 かなり手加減してくれてるんだろうけど一発一発意識飛そうなんですけど。


「..羨ましいわ。あんなに感情むき出しで語り合えるなんて..」


 ウォーラ様のアッパーが顎に入り、宙を舞ったとき、僕の視界に恍惚とした顔のラヴィエ様の姿が映った。

 何かを言っているようだったがそのまま意識が途絶えた。



***



「いいですか?僕がこれからモンスターについて、絵で描くのでそれを参考にしてください」


「おう。わかったよ。参考にさせてもらうわ」


 気絶から目が覚めて少し反省した。ちょっとムキになり過ぎてしまったよ。ウォーラ様も同じようですごい素直に僕の意見を聞いてくれる。


 技能スキル【絵画】でゲームで定番のモンスター、魔物と言われる者たちを描いていく。『小鬼ゴブリン』、『豚鬼オーク』、『粘魔スライム』などなど。

 【絵画】のおかげではあるけれど、かなりの画力でモンスター達を描くことが出来ている。


「これが僕の世界の遊戯で登場する、モンスターというやつらです」


「・・・」


「ウォーラ様?」


 ん?ウォーラ様が驚愕の顔で固まってるんですが。


「か、かっこいいじゃねえか!!」


「「!!」」


 急に叫ぶウォーラ様。ちょっと。僕とラヴィエ様、ビクっとしてしまったよ。急に叫ばないでください。お願いします。


「なるほどなぁ。これがモンスターってやつらか。どいつもこいつも凶悪そうで強そうじゃねーか」


「この世界では見たこともない姿、形ね。こんな生物も存在するのね」


「あくまでも遊戯の中での生物なので想像の生き物ですよ」


 ウォーラ様は相当お気に召したらしい。ラヴィエ様には補足をしておく。


「これを参考にしてもらえればと思います。引き続きお願いしますね」


「おう。任せとけ。よーし!やるぞ!ラヴィエ」


「はいはい。お手伝いしますよ。ログちゃん、またこっちにもきてね」


「もちろんです!ラヴィエ様には神術の件でご相談したいこともあるので」


「あら。じゃあ早く相談にきてね。待ってるわ」


 これで安心して二神おふたりにお任せ出来そうだ。


 僕は迷宮ダンジョンの設計が途中だったのでまたクレディオス様とテチノロギス様の元へ戻ることにしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る