タイムトラベル転生者—異世界のゲーム知識と神々の力を合わせてみたら凄いことになったので過去から未来を改変していこうと思います—

脱兎

第一章 転生者の知識編

第1話 ハードな異世界転生

 なんでこんな世界に来てしまったのか。

 荒れた廃墟の中の通路をふと考え事をしながら歩き続ける。


 周りには複数人の見窄らしい格好をした人が一緒に歩いている。誰も彼もが疲れ切った表情を顔に浮かべている。


 そりゃ、悲観的にもなるよね。こんな世界じゃ。周りの様子を見て、また同じ考えが過ぎる。


「おい!タラタラ歩いてないでさっさと進め!ちっ。ったくこのどもが」


 僕たちの後ろについて歩いてくる、褐色肌の頭に角を生やした『魔人族』の男がこちらを煽りながらそうぼやいた。


 この世界での僕の名前はログ。ここは僕からすれば異世界、ウォンダという名前の世界だ。


 僕は元々、地球という星の日本という国に住んでいたはずだ。平平凡々と何不自由なく生活し、趣味のゲームに没頭していた人生だった。理由は思い出せないけど21歳の時にたぶん日本で死んでこの世界に転生した。

 日本での記憶を思い出したのは4年前、この世界では15歳の時だ。


 なんで記憶が蘇ったのかはわからない。わからないけどかなりショックを受けたのは覚えてる。日本で生きていた時はゲーム、特にRPGが大好きだったし、よく異世界物のラノベも読んでいた。ファンタジーが大好きだった。


 そんな僕が転生したこの世界。たしかに憧れのファンタジー世界だったんだ。


 だけど僕が転生した人族はさっきの魔人族達の奴隷だった。この世界には魔力や魔法といった僕が憧れる物が存在するのに僕たち人族には魔力がなく、魔法が使えなかった。


 それでさっきの魔人族の発言となるわけだ。人の形をしているだけの人モドキ。僕からすればお前らのほうが人の姿をした怪物だといってやりたい。


 ..とにかく記憶が蘇った僕は、なぜ人族は魔力がなく、魔法が使えないのか。人族に伝わる古文書を住んでいた町中で探して片っ端から読み漁った。その古文書も魔人族に見つかると没収されてしまうため、持っている人を探すのに苦労したもんだ。


 それでわかったことは、かつて神代と呼ばれた時代があり、その時代では魔法ではないが人族は神々から授かった力を使えていたこと。

 魔神という神が悪魔を引き連れてこの世界に侵略し、この世界の神々と魔神の間で戦争が起きる。結果として神々が滅ぼされてしまったこと。

 いまこの世界を支配しているのは魔神であり、その配下に悪魔とその眷属として魔人が存在すること。


 そして魔人は戦争の際に神を裏切り、魔神についた人族であることや、戦争に敗北した僕ら人族は魔人族の奴隷として今も生き永らえていることだった。


 ..ハードモードが過ぎる。


 これが僕が調べた結果、最初に思った事だった。過去に起こった出来事を詳しく把握することは出来たがそれだけだ。


 それからもどうにか魔力は手に入れられないのかと調べたが結論は悪魔の眷属にならなければ魔力を扱うことが出来ないという事実。奴隷の身分ではどうにもならなかった。まあ、なるわけがない。


 何も状況が改善しないまま年月だけが経ち、今は強制労働者として魔人族に連れられて、神代では神域だった遺跡に資源の回収作業にきている。

 旧神域では当時の建造物に使用されていた鉱物など、上質な資源を多く回収出来るからだ。


 そんなことを考えながら歩いていると後ろについて歩いていた人族の男性が躓いて転んだ。

 

「..おい。さっさと立って歩け。まだ次の現場は先だぞ!」

「..うぅ」


 もう数日、碌な食事も与えられず水だけを飲んで力仕事をしてる。みんな体力の限界だ。一度倒れてしまったらそう簡単に立ち上がれるわけがない。釣られるように周りの人も次々とその場にへたり込んでしまう。


「はぁぁ。もういい。いま動けないやつらは用済みだな」


 魔人族の男はそう口にすると、掌を起き上がれなくなった男性に向ける。


火球フィアボール


 魔法の詠唱と共に掌からバスケットボール大の火の玉が出現し、そのまま倒れている男性へ放った。


「あがぁぁぁ!」


 火の玉にあたり、叫び声を上げながら火に包まれて燃える人族の男性。あまりにも急な出来事に僕は呆然と見ていることしか出来なかった。


「くくく。よく燃えるなぁ。お前らもよく燃えてくれんのか?」


 狂気に目を染めた魔人族の男は愉悦に歯止めが効かなくなったのか、次々と倒れている人達に向かって魔法を放ち始める。


 まずいまずいまずい!何だこれ。完全にハイになってる..このままじゃ巻き込まれる。


 僕は慌てて近くにあった瓦礫の影に隠れた。魔人の男は倒れている人たちに魔法を放つことに夢中で僕に気づいていないようだ。


「ははははは!動けないやつはいらねーなぁ!燃えろ燃えろ!」


 笑い声を上げながら凶行を続ける魔人族の男の様子を隠れながら見ていて、僕は沸々と怒りが込み上げてきた。

 

 何なんだ。動けなくなっただけでこの仕打ち?奴隷ってこんな。気付くと僕は瓦礫の近くに落ちていたレンガのような岩を両手に抱えていた。気付かれていないうちに一気に魔人族の男の背後に回り、岩を抱え上げる。その瞬間、この世界で感じてきた理不尽に対する感情が溢れ出してきた。


「ふざけんな!!」


 振り上げた岩を魔人族の男の後頭部に振り下ろした瞬間、自然と声が出た。ゴッ!という鈍い音を立てながら岩で魔人族の頭を殴打する。


「がぁっ!?」


 不意打ちの形で頭を殴打された魔人族の男はそのままうつ伏せの体勢でその場に倒れ込む。僕はハッとなり、魔人の様子を伺うと白目を剥いて気絶しているようだった。


「み、みんなは?」


 僕は魔法を受けた人たちが気になり、周りを見回すとそこは焦げた死体が散乱する悲惨な現場と化していた。あんまりに悲惨な光景と緊張の糸が切れた関係なのか、急に吐き気が襲ってくる。


「う、うぉぇぇぇ..」


 僕はその場で戻してしまった。少しすると吐き気も落ち着いてきたけど、その場で座り込んで再度周りを見回した。


「本当にひどい世界だよ..どうすんだよ。これ」


 どうしていいかわからず思わず独り言を呟いてしまった。これからどうするか。そんなことを座りながら考えていると急に悪寒が襲ってきた。


「!!」


 僕はなんとなく上を見上げた。そこには僕ら人族からすれば魔人族なんて比じゃない恐怖の象徴である『悪魔』が宙に浮きながらこちらを見下ろしていた。


「これはどういう事でしょうねぇ?」


 『悪魔』。造形は人族とそこまでの違いはないが、人族とは明らかに違う真っ黒い肌、黒髪に赤い眼、2mを超える高い身長、背中に生える蝙蝠のような翼。人とは違う、そのどれもが僕を恐怖に駆り立てる。


「..まったく。与えた仕事も碌にこなせないとは。出来損ないの眷属ですねぇ」


 悪魔は倒れている魔人の男を見やり、そう口にする。


「で、そこの君にこの出来損ないはやられたと。うんうん。非常に、非常に不愉快ですね。家畜風情が」


 悪魔は僕を視界に収めるとそう、額に血管を浮かせながら話しかけてくる。


 す、すごい悪寒が。確実に怒ってる..これはいよいよまずい..


「穢らわしい。圧死してしまいなさい。【重圧ドンク】」


 そう悪魔が魔法を詠唱した瞬間、僕を中心とした狭い範囲に上から重力のような圧力が降り注いできた。


「あぁぁぁ!」


 お、重い!!座り込んでいた姿勢から強制的に地べたに這いつくばる姿勢にさせられる。身体が軋んで悲鳴を上げる。


 その時、通路の床が経年劣化で脆くなっていたようで亀裂が生じ始めた。


 え?これ、崩落するんじゃ?と思った瞬間に僕が倒れていた部分の床が砕け、下に向かって崩落が始まった。


「おぁぁ!?」

「ちっ。床が古くなっていましたか。・・まあ、家畜1匹、どうでもよいですね」


 お、落ちてる!雪崩のように崩落する石材に巻き込まれながら下に落下していく僕。崩落の途中で石材に頭を打ち、目の前が真っ白になった。



***



 全身が痛い..ん!?助かった?僕は気絶していたみたいだ。倒れたまま、まずは身体に異常はないか確認してみる。打ち身による痛みだけで動かせなくなった箇所などはなさそうだ。


 次にそのままの姿勢で周囲を見てみる。どういうわけか下に落ちたはずなのに薄っすらと明るい。僕は崩落する前に倒れていた床と一緒に下に落ち、そのままその上で倒れているようだ。


「…助か、助かったけどさ。これ、僕詰んでないか?」


 悪魔まで出てきて、この状況。例えここから無事に出られてもそのあとどうするんだって話だ。本当に今生はハードモードだ。ひとまず動いて状況を確認しよう。


「い、痛てて。完全に全身打撲だよ」


 僕は立ち上がり、再度身体の確認をする。痛みはあるがちゃんと動ける。周りを見回してみると通路のような所の途中に落ちたようだ。


 上を見上げると落ちてきた場所はすでに崩落で塞がっている。通路もせき止めたような形になっており、反対方向には進めなくなっている。


 進める方向を見ると明かりが少し強くなっているような気がする。外に繋がっているということだろうか。


「ひとまず、向かってみよう」


 薄っすらと明るい通路を進んで見ると少し開けた部屋?のような場所に辿り着いた。よく見ると壁が薄っすらと光っているように見える。


「外じゃないのか..」


 外に出たところでねとは思うものの、想像と違うと残念な気持ちになる。ここ以外いける場所もない僕はひとまず部屋を調べてみることにした。


 ここは昔、神域と呼ばれた場所。そんな場所だったところだ。何かがあるかもしれないという期待が込み上げてくるのは仕方がない。


 ん?壁ぞいを歩いていると一箇所、僕と同じくらいの高さの石板のようなものが壁に埋め込まれているのを見つけた。


「何も書いてないけどこれは?」


 そっとその石板のようなものに手を触れてみる。触れた瞬間、


「うお!?」


 石板がぼんやり光りだした。これは!これは!!今まで諦めていたファンタジーへの憧れが沸々と蘇ってくる。


「おおお!どんどん光りが強く….」


 目の前が真っ白になり、身体全体が宙に浮いているような感覚に包まれる。


 宙に浮いていたような感覚からしっかりと地面を踏み締める感覚が戻ってくる。ほとんど一瞬のことのように感じる。視界も徐々に晴れてきた。


「一体何が..」


 え、ここどこ?僕が立っている場所は先ほどの薄暗く何もない部屋ではなく、どこからか太陽のような光が暖かく降り注ぐ場所だった。何が起こったのか。


 まず上を見上げる。どこかの建物の中の中庭のような場所なのか、空が見えた。次に周囲。うん、長閑な庭だ。ここはどこかの中庭のようだ。後ろを振り向くと、


「…」


 背中まで伸びた綺麗な銀髪、髪の色と同じ銀眼の超美女が無表情でこちらを見つめながら立っていた。しばらく無言で見つめ合い、


「「だれ?」」


 まったく同じ疑問を抱いてたみたいだ。




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