第36話 ヴィロー改造大計画!

「さて、ヴィローを元に戻すパーツは全部ここにある。でも、リリちゃん込みでもパワーが上のアイツに勝つには、手が足らないよねぇ」


「ええ、そうなんです、アカネさん。そこでヴィローとも相談して大改造をしたいと思っています」


【では、皆様。そして宙船中枢マザー様。私とマスターが考えたプランを意見具申致します】


 敵の神話級ギガス「イシュヴァーラ」。

 この船の知性によれば、それは移民船団でも旗艦クラスに装備されていた特注機体。


 そらの向こう、人類の生まれ故郷。

 そこでヴィローと同じ神話で語られた最強の破壊神シヴァ。

 その異名が「イシュヴァーラ」。

 どうりで強い訳である。


 ……破壊神VS修羅神。どっちが強いか勝負だ!


【ヴィローチャナ。その提案は、かなり厳しいものと思われます。貴方の基本骨格すら触らないといけないのですよ?】


【マザー。私はもう二度とマスターやリリ姫の涙は見たくないのです。その為なら、私自身はどうなろうとも構いません!】


 ヴィローは船の知性に対しマザーと呼ぶ。

 確かにリリやヴィローにとっては「母」に等しい存在なのだろう。


「マザーさん、今は時間が惜しい。それにアタイも色々と試したいプランがあるんだよ。バケモノ相手にするんじゃ、こっちも普通じゃいられない。旦那の言う改造プランはアタイも賛成だよ」


「男にゃ博打を打たないといけない時が何回もある。今がその時! 大事な女を奪い返すんだから、そのおぜん立てに普通じゃ無い手を打ってやるのも親心だと思うぜ」


 アカネさんやレオンさんも僕らの案をマザーさんに推してくれる。

 本当にありがたい話だ。


【分かりました。では、今から早速構造計算から開始します。やるからには一切手加減はしません! イシュヴァーラ如き、片手で捻り倒せるくらいに仕上げて見せます。トシ様、アカネ様、レオン様。そして多くの整備員の方々。我が子を守る為にお力をお貸しくださいませ】


「おー! こんなすげぇモノに触らせてもらえるんだ。俺達に取っちゃ逆に感謝ですぜ、マザーさん。それに、俺らはリリちゃんの笑顔をもう一度見たいんだ!」


「あ、ありがとう、皆さん。僕、絶対にリリを取り返し、皆さんを守って見せます!」


 そして僕らのヴィロー改造計画が開始された。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「マザーさん。両胸のプラズマキャノンはアレを二個仕込むのに邪魔だから撤去しない? その代わり腹部キャノンを分解光線砲ディスインテグレーターに変えると火力不足にはならんと、アタイは思うんだ」


【私が思うに、イシュヴァーラは私よりも多い副腕を飛ばしてくるのが実に卑怯です! マザー、私の副腕も飛ばしてみたいのですが?】


「腰部や肩部のスラスターを大きくするのは良いけど、腰に刀差せないよね。何処におく? 後、僕としては前腕部は肘から指先まで凶器にしたいな? 脚部の蹴りも使いこなしたいし」


「俺が思うに、一発大きな技でドッカンとぶっ飛ばしてやりたいな!」


【皆様、アイデアを沢山お出ししてくださるのはありがたいのですが、それを一個に組み上げるのは大変。まずはプランを纏めましょう。特にヴィローチャナ。貴方本人が一番無茶を言ってます】


 ワイのワイの、ヒトと機械が頭をそろえて改造談義。

 ロマンと夢を出すヴィローやアカネさん。

 比較的現実的なアイデアを出す僕。

 ドッカンだけのレオンさん。

 それを必死にまとめるマザーさん。

 そこにアカネさんの部下さん達も加わり、談義の終焉に二日間程時間を要した。


【では、このプランを元に骨格部品から選別します。なお、足らない部品や強度不足になりそうな部品は新規製造します。後、お望みの部品や機体があるなら供与しますよ】


「マザーさん、ありがとね。これでリリちゃん奪還作戦の目途が立つよ。後はトシ坊。アンタはコクピット内で仮想戦闘訓練シミュレーションだ。ヴィローの旦那、イシュヴァーラのデータから戦闘パターンは掴んでいるんだろ? そこから仮想データを作るのさ」


【はいです。おそらく奥の手以外の攻撃手段は前回の戦闘で出させたと思います。また、マザーにあった過去データからもイシュヴァーラの攻撃手段は把握しました。幸いな事に操り手パイロットの腕は大したことはありません。ワイズマンとやらは魔法使い系の方でしょうが、物理で殴れば負けないです!】


「アカネさん、ヴィロー。宜しく頼みます」


「じゃあ、俺は整備員のお手伝いだな。重い荷物運びは任せな!」


 そこから、僕らの逆転作戦が最終局面を迎えたのだった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「アカネ姐さん! ラウドが大変な事になってますぜ!」


「どうした。え! そう来たかよぉ」


 ヴィローの組み立て直し初めて四日目。

 僕たちの元に情報が入って来た。


「イシュヴァーラ、治ったのですか」


「おそらく完全復帰だろうね、トシ坊。通信文から見て、あの浮遊装甲も復活しているみたいだし」


 共和国筋の情報によれば、貴族連合内に威力偵察を掛けていたギガス一個大隊が、たった一機の空を飛ぶギガスによって全機撃破されたとの事。

 そして、壊滅した部隊はラウド領境にほど近い位置で敵と遭遇したらしい。


【おそらくですが、イシュヴァーラの次なるターゲットはラウドかと。アカネ殿、マザー。私の改造はあのどのくらいで終わりますか。私が戦場に間に合わなければ、何の意味もありません!】


「そうだねぇ。残るは外装と細かい調整だけだから最低二日。調整は移動中でもできるけど、ここからラウドまでは一週間。ノンストップ移動でも三日以上はかかる。そこを、どうしたもんだか?」


 アカネさんは、事態の深刻さに青い顔。

 いくらヴィローのパワーアップが間に合ったとしても、ラウドの街が焼き払われた後に到着したのでは何の意味も無い。


 ……ちきしょぉ。他に何か策が無いのかよぉ。


【トシ様、そしてヴィローチャナ。貴方がたに覚悟はありますか?】


「マザーさん。僕、そんなの最初からあります!」

【私にも覚悟はあります。絶対にリリ姫を奪還してみせます!】


 マザーさんの問いに、僕とヴィローは即答する。

 覚悟なんて、とっくの昔。

 リリにもう一度逢えるなら、どんな事でもやってやるつもりが僕にはある。


【でしたら、貴方がたに『この子』をお預けしましょう。操縦は……。そうですねぇ。微調整も含めてアカネ様、レオン様にお願いします。後、残る整備員の方々のお世話は、私が責任を持って行いましょう】


 そこから、僕らは突貫作業に入った。

 ラウドの街を救うため。

 そしてブラフマンの野望を止めるため。

 リリを助け出し、もう一度この手で抱きしめるために!

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