第11話 涙目

 「あのね、すずめのところに、おっさんSCレディースU15からメールが来たの」

 ナナはいっしゅんドキッとする。


 「どうだったの、チュンチュン」

 「うん、『合格とさせていただきます』って書いたあった」

 「すごい、チュンチュンおめでとう」

 ナナの声が少しうわずる。


 「ありがとう。ナナはどう、メール来た?」

 「んん、まだ……、来てない」

 「そっか。だいじょうぶ、ナナにもぜったい来るよ」

 「そうかな、そう思いたいよ」

 ナナは不安げに言う。すると、すずめが次のようにおうえんしてくれた。

 「だいじょうぶ、ナナ。おっさんSCからメール来たら、すずめのところにもでんわして」

 「うん、わかった。れんらくする」

 「じゃあね、ナナ」

 「バイバイ、チュンチュン」

 ナナはしずかに受話器をおいた。


 「まだ、来てない」って言ったとき、いまにも涙が出そうだった。

 パパは書斎、ママは買い物、タクはまだ帰ってきてない。

 ナナ以外にだれもいなくてほっとする。

 くやしいけど、チュンチュンが合格してよかった。

 ナナも早くそうなりたい、メール来るかな。


 ナナはテレビのほうへもどって行く。

 そして、シャイニングイレブンのコントローラーのスタートボタンを押した。

 ゲームスタート。でも目が涙目になって画面がよく見えない。


 そうじゅうする選手のプレーがうまくいかず、

 「へたくそ!」

 と、言ってしまう。自分がはじめて意識した「へたくそ」だった。

 これを二回もれんぱつしてしまう。

 そして、おもわずコントローラーを床のじゅうたんに投げつけ、

 「ちきしょっ」

 を何回もさけぶ。ついに涙が出てきちゃった。


 「ただいま」

 タクが制服姿で帰ってきた。

 「お帰り」

 ナナは目をぬぐって、しらふのフリをする。


 じっとナナの姿を見つめるタク。そして、いっしゅん目をそらしながら、ニヤリとして、

 「塾に行ってくるわ」

 それだけ言うと、タクは塾のテキストがはいったリュックサックに持ちかえる。

 そのままげんかんをを出て行った。







  

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