第8話 砂漠で死にかけた!

 俺たちはマダニートの街から南東へと進み、アオリカ大陸にある砂漠地帯へとやってきた。だが砂漠を旅する準備など全くしてこなかったので、たちまち水不足に陥ってしまう。


 俺たちは何だかんだでもう三日も水を飲んでいない。


「こうなったら最後の手段じゃ! トヨーコ、頼みがある! お前のピー(モザイク音)をくれ!」


 何を血迷ったのか、突然ヤライソがそんなことを言いだした。


「おい、いくら死ぬほど喉が渇いているからってそれはダメだ! 悪いことは言わない、それだけは止めておけ!」

「背に腹は代えられんじゃろうが! どうせ飲むならお前さんやシコルのより、ババアとはいえトヨーコの方がまだマシじゃ!」

「ババアは余計よ! でもあたしは別にいいわ。その代わり高いわよ。50000ゴールドはもらわないと」


 ご、50000ゴールドだって!? 


 パンツ売りのメスガキのパンツだって35000ゴールドだったのに、それよりもさらに高いじゃねーか! トヨーコのやつ、ここぞとばかりにふっかけてきやがったな。


 いくら命の危機が迫っているとはいえ、ババアのピー(モザイク音)に50000はありえん。それどころか、50000くれると言われてもお断りだ!


 まぁメスガキのなら考えなくもないが。――って、そうだ!


 俺はふと、ヤダーハンの城下町にあるメスガキがいる聖水屋のことを思いだした。そこでマリーサとかいう店員から聖水をもらってあったのだ。


 JC1くらいに見えるマリーサは、艶のある青い髪をサイドポニテにして、胸はとても控えめなくせに態度だけはやたらとでかい小生意気なメスガキだった。


 俺を見て、やれクソざこだの氷河期だの散々煽り散らかしてきたので、こっちも負けじとわからせてやったんだっけ。


 最後にはすっかり従順なメス犬のようになり、帰り際にサービスだとか言ってそいつの生搾り聖水っていうのをもらった。


 小瓶に入った人肌の温もりがする黄金色の液体は、やっぱりどう見てもにしか思えず、結局怖くてずっと使わずにいたのだった。


 今、手持ちの液体と呼べるものはもうこれしかない。ババアのを飲むくらいなら、まだマリーサの生搾り聖水の方が遥かにマシだ。


「むむっ! コドージ殿、それは一体何ですか!?」


 ヤライソがトヨーコに金を払おうとしている隙に、こっそり聖水を飲もうと小瓶を取り出したところ、運悪くシコルに見つかってしまった。


「あ、いや、こ、これはその……、ただの聖水だよ?」

「ややっ!? それはヤダーハン城下にある聖水屋『あばてぃ~ん♡』の小瓶じゃな??」


 今度はヤライソが小瓶を見てすぐさま反応した。


 ちょ、聖水の小瓶を見てお店の名前までわかるって、さてはこのジジイ、あそこの常連だったな。


「しかもその色味は、マリーサちゃんの聖水じゃろう!?」


 見ただけでそこまでわかるんかーい!


 てか、何でわかるの? 怖いわこのジジイ……。


「そんなお宝があるならば話は別じゃ! 40過ぎのババアのなんかよりマリーサちゃんの方がいいに決まっとる! おい、ワシにも一口飲ませてくれい!」


「コドージ殿、わ、私にもその聖水を一口でいいので飲ませてください! ハァハァ……」

「メスガキの聖水なんて本当は飲みたくないけど、もうそんなこと言っている余裕なんてないわ! それ、わたしにも一口ちょーだいよ!」


 そう言ってシコルやヤライソ、そしてトヨーコまでもが手に持つ小瓶に群がってきた。


「ちょ、おい、止めろっ! こ、これは俺のものだ! 放せ、コラ! え~い、放せっての! ……あっ」


 奪い合いになったせいで手がすべり小瓶が落ちてしまった。その拍子に瓶のふたが開いてしまい、黄金色をした液体はそのまます~っと砂漠の砂に吸い込まれていった。


 あああああ! 最後の希望がああああああああああ!!


「おい、お前ら、何てことしてくれてんだよ!」

「あぁ、マリーサちゃんの聖水があああ! んがっ! ぶふぉ! ご、ごほごほっ!」


 ヤライソが聖水のしみ込んだ砂漠の砂を口の中に入れてはむせ返っている。


 もうやだ、このジジイ……。


「あぁ、もう終わりだ。私たちはここで死ぬのですね……」

「あ、あたしはこんなところで死ぬなんてごめんよ! こうなったら、自分で自分のを……」


 俺もここまでかと思い遠い目をしたその時だった。視線の先に何やら蜃気楼のようなモヤが見える。そのモヤの揺らぎの中に、城のような建造物が浮かび上がっているじゃないか。


 ついに幻覚が見え始めたかと思ったのだが、俺たちは一縷の望みを託してそのモヤの中に見える城へと向かったのだった。

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