第5話 龍栄の親孝行?

12月、龍景がカバの妻を連れて結婚の挨拶にきた。

龍景はカバの要望に四苦八苦して年内に間に合うか焦っていたが、先月、龍希が龍景を補佐官の1人に任命したことでカバの態度が変わったそうで年内に嫁入りが実現した。

予定どおり来月からカバ族との取引を始めることになったが、龍景はすでにカバ妻への不満がすごい。

早々に離婚されても困るから愚痴を聞いてガス抜きしてやらねぇとなぁ。

あーめんどくせぇ。

それに龍海の再婚も決まった。



~族長執務室~

「龍海様の奥様は熊族長のいとこの次女カリナ様です。来月に嫁入りされる予定で龍海様には屋敷の改修を進めて頂いています。」

竜夢は上機嫌だ。

「龍海も同意してるんだろう?」

龍希は浮かない顔をした龍海に尋ねる。


「え?はい。族長の承認は頂きましたし、息子の龍緑も結婚しましたので・・・私も、補佐官筆頭が独り身では格好がつきませんし。」


「俺は気にしないけどな。別に無理しなくていいぞ。離婚したがってる奴は他にもいるし。」

「ちょっ!龍・・・族長!変なこと唆さないでください!」

竜夢が焦りだした。

「無理強いしたら俺みたいにとっとと離婚するぞ。」

龍希は気にせず肩をすくめる。

「族長、勘弁してください。少々若い妻に緊張しているだけで、結婚が嫌なわけではないのです。」

龍海は肩の力が抜けたようだ。


「ふーん、ならいいや。」

「もう!焦らせないでください。あ、そうです。先ほど熊族から正式発表がありました。今の族長は来年1月に引退し、族長の長女が後を継ぐそうです。」


「ん?結局、族長長女か?」


「ええ、ですが龍海様との縁談でカリナ様の兄を支持する勢力が強くなっていますので、これからどうなるか?見物です。」

竜夢は悪い笑みを浮かべる。

「ん?なんでそんなタイミングで族長は引退するんだ?」


「ふふ。龍栄様の最後の親孝行ですわ。」


「へ?」

「エイナの遺言です。龍栄様が相続した熊族領内の別荘と熊族の至宝の腕輪を熊族長に売り付けてほしいと。それもかつて先代族長がエイナに支払った結納金と同じ額で。」

「は?同じ?」

龍希は驚いた。


父は紫竜の相場以上の結納金を支払ったと聞いたが・・・


「ええ。浮気して婚約破棄した熊の族長への最後の嫌がらせですよ。怖いですね。女の恨みは。」

そう言う竜夢はとても楽しそうだ。

「な、なんで龍栄殿は熊のことは完全に忘れてるのに、そんなくだらないことに付き合うんだ?」


「あの方の悪い癖です。」


竜夢は肩をすくめる。

「癖?熊のため?あ、いや父上のためってことか?」


「いいえ。単に面白がってるだけです。」


「へ?」

龍希は面食らった。

「何が面白いんだ?」

龍希は竜夢に尋ねるが、

「ふふ。龍希様はとてもまっすぐお育ちになりました。竜湖と孔雀の奥様に感謝なさいませ。」

「あ、ああ。」


答えになってないが、凶悪な笑みを浮かべる竜夢にそれ以上聞く勇気はなかった。


「熊の族長は多額の買い戻しの責任をとって辞任せざるを得なくなったのです。辞任に追い込んだ筆頭は後継者の長女です。族長のバカ妻は大騒ぎしたそうですけど。あんなバカがうちに嫁に来なくて良かったです。亡竜音様に感謝ですわ。」

「もういい。下がってくれ。」

龍希は竜夢を追い出した。


龍海があんな顔をしていた理由が分かった。

女は怖い。

熊と父との縁談1つのためにどれだけの裏工作をしたのやら。


龍希は少しだけ死んだ熊に同情した。少しだけ。



「あの・・・族長、少しご相談が。」

1人残った龍海が恐る恐る話しかけてきた。

低姿勢の時の龍海の相談はめんどくさい。


「嫌だ。もう竜夢の話で腹一杯だ。」


「そうおっしゃらずに!大丈夫です。怖い話ではございません。あの、明後日、息子とその妻が来てくれて一緒に食事をするのですが、妻には何を用意すれば喜んでくれますかね?」


「はあ?知らん。」

龍希は拍子抜けした。


「いや、真面目なご相談です!結婚の挨拶に来てくれた時には随分と息子の妻を緊張させてしまって。私には娘がいないので気のきいた話もできず・・・せめて何か喜んでくれるものを用意したいのです。」

「龍緑にきけ、んなもん。」


「息子も妻を喜ばせる方法が分からんと頭を抱えております。龍希様の方が一緒にいた時間が長いではありませんか!」


「使用人の好きなもんなんて知るか!俺の妻なら分かるだろうが・・・」


「では奥様にお伺いしても?」


「んなくだらないことで俺の妻を煩わせるな」


「大事なことですよ!大切な義理の娘なんですから!」


龍海は怒りだした。めんどくせえ。


「え~どうせ芙蓉の好きなものと同じだろ。12月は・・・なんだったかなぁ。えーとえーと、あ~そうだ!黄虎の光玉だ!」


龍希は思い出した。

「光玉ですか?」


「ああ、雪の積もった庭のデカイ木に光玉を入れたカラフルな提灯を飾ったら妻は喜んでくれたんだ。提灯は光玉より一回り大きい丸いやつ。

ニニが思い付いたやつだが、なんか人族のクリスマスツリー?とかいうのに似てるらしい。妻がそう言ってた。

あ、あと食い物なら牛族のソフトクリームだな。あいつも妻と同じで甘い物が好きなんだ。」


「おお!ありがとうございます!早速用意いたします!」

龍海は大喜びで執務室を出ていった。


『やれやれ。なんで息子の妻を喜ばせようとするんだ?別によくね?

あ~でも、父上もそうだったな。いまだに桜以上の贈り物ができてないことが悔しい!竜湖のやつ、なんで俺じゃなくて父上に教えたんだよ!』


龍希は新婚の時のことを思い出して、ふと嫌な予感がしたのだが、気づかなかったことにした。


しかし、3日後、龍希の嫌な予感は的中した。


「なんで俺じゃなくて父に!?俺の妻なのに!」


激怒した龍緑の文句を2時間も聞く羽目になったのだ。

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