4:味付けチャレンジ

「まずは砂糖をスライムに付着させてみようか」

「わくわく」


課程を子供のように目を輝かせながら見守る彼から謎のプレッシャーを味わいつつ、僕はスライムに砂糖を付着させてみる

するとスライムの体は先程までの弾力を失い、みるみる内に固くなってしまう

叩いてみるとあら不思議。スライムは軽く叩いただけでヒビが入り、粉々になってしまう


「なにこれ…」

「砂糖に水分吸われたとか?」

「ほんのちょっぴりだよ?流石にあの水分量を吸収しきる程じゃ」

「ナメクジだってちょびっと塩かけたら死ぬだろ。そんな感じだって」

「食べ物の話をしている時にその例えを出すのやめてくれる?」


スライム君はちゃんと綺麗なんです!雑菌なんてないんです!

ナメクジなんかと一緒にしないでくれませんかね!?


「なんか、怒ってる?」

「怒っているよ。全く、なんで食事中にばっちいものの話するかな〜」

「でも俺たちが食ってるの、その辺の魔物だぞ」

「…」

「…」


「土神君、何か言ったかな?」

「だから、俺たちが食べてるの、その辺の」

「何か、言った?」

「…いえ、なんでもないです」

「それならいいんだ。さあ、スライムにどうやって味をつけられるかできる限り試していこう。あ、砂糖で粉々になったスライムは君が食べていていいからね」

「むごむご」


ちょっとだけ余計な事を言いがちな口を飴みたいなスライムで塞いでもらい、僕はその間に色々と試行錯誤を繰り返す

その横で、土神君はスライム飴をどうやら堪能してくれているらしい


「おー…あ、これ飴っぽい。コロコロできないけど」

「形成してないからね」

「手持ちの道具じゃ、流石に丸くはできないな。ナイフはあるけど刃こぼれを起こしそうだ」

「ナイフ、あるんだ」

「特典でついてきたぞ。この銃もだけど」

「便利だねぇ…」

「天使も何かあるんじゃないのか?ステータスから持ち物。そこに転移特典の道具が収納されている」

「確認してみるね」


本当に、どこまでもゲームみたいで変な感じだ

実はゲームの世界に飛ばされましたと言われた方がしっくりきそうなのだが、この疑問はひとまず置いておいて…アイテムの確認だ


「あ、いいものあったかも」

「なんだ?」


表示されているアイテムをタップすると、利き手が自然と「何かを握り締めている」形をとる

そしてその空白の中に、タップしたアイテムが出現した


「包丁」

「ひっ!?急に出すな!こっちに向けるな!危ないな!?」

「ごめんごめん。握った状態で出てくるとは思わなくて。土神君のナイフとかは違うの?」

「俺は空中に出てきたぞ」

「僕はさっき見てくれた通り、握り締めるモーションが付いてきた」

「なぜか仕様として組み込まれているってことなのか?」

「うん。嘘みたいだけど、信じて欲しい」

「信じるさ。こんな時に嘘を言う必要を感じないし…動きもなんというか、何かに取り憑かれたみたいで正直怖かったぞ…?」

「そんなにヤバかったんだ…」


彼の視点だと、僕が急に腕を上げて包丁を握り締める一連の流れを側で見せられた挙げ句、急に包丁を向けられたといったところか

…普通に怖そうだ


「ちなみにだが、包丁以外には何かなかったのか?俺は銃の他にナイフと麻酔付き投擲針が入っていた」

「便利だねぇ。僕は…後は串とトングがあるよ」

「なぜそのチョイスなんだろうな…とか、気になる部分は山ほどあるけれど、串はどれぐらいの長さなんだ?」

「出してみるよ」


今度は串の欄に触れて、串を実体化させてみる

今度は土神君が言うとおり、空中で出現してきた


「…なぜ」

「なんでこれは空中に」

「も、もしかしたら包丁だけの特殊行動か何かかもしれないな。実はその包丁、普通そうに見えるが実は特別な包丁かもしれないし」

「ええっと、道具の詳細って見られるの?」

「ああ。ステータス画面に名前が表示されているだろ?それを長押し」

「ありがとう」


情報を得るため、言われた通りに名前を長押し

包丁のステータスが表示されてくれるが…


「なにこれ」

「なんだ?」

「名称がね「一生刃こぼれすることなく何でも切れる超頑丈な神包丁」って凄く長いことになってる」

「便利そうだけど頭悪そうな名称の包丁だな。若干むかつくし今すぐ破壊したい」

「我慢してね。むかつく代物だとしても、使い道はあるんだから」


おそらく、神というワードに反応をしているのだろう

この世界にやってきた原因は神様のせいらしいし、神と聞くだけで何かちょっとイラッとするのかもしれない


それにあの変なモーションは、神様が与えてくれたものだから付いてきたとか…色々と考えることができる

つまり「神」とついているだけあって、特別な道具だとか

ゲームみたいな環境に異世界転移

それに加えて…神補正付きのチートアイテムと言ったところか

目覚めた瞬間に魔物に殺され賭けていなければ、小説とかアニメとかでみる異世界転移らしく楽しめたのだが…それはもう遠い夢の話になってしまったな


「とりあえず、何でも切れるっぽいしさ。大事に使おうよ。大事に使わなくても問題なさそうだけど」


武器として使えないのが滅茶苦茶残念な部分だけど、調理道具としては不便さを覚えることはなさそうだ


「でも、切れたところでスライムは水になるし、どうしたらいいんだろうな」

「砂糖を練り込めば固くなるし、やっぱり味なしで食べるしかないのかな」


二人で頭を捻りながら、スライムに味をつける方法を考える

どうにかいい方法がないだろうか


「なあ、天使」

「なにかな、土神君」

「スライムを凝固させず、砂糖を混ぜ込む天才的な方法を思いついたかもしれない。とりぜずトライアンドエラーの精神で試そうぜ」

「いいよ。まずは何をするの?」

「砂糖水を作るぞ。水を汲んでくるから待っていてくれ」

「うん」


土神君は立ち上がり、川へ水を汲みに行ってくれる

すぐに戻ってきてくれた彼が差し出した水入りペットボトルを受け取り、僕はその中に砂糖を入れ込んだ


「これで砂糖水の完成だね。結構甘くできたかも」

「うん。いっぱいあるしこれなら実験し放題だ。いやぁ。砂糖出し放題で助かったな」

「そう、だね…しかも水は水源さえ確保できれば常に二リットル用意できるしね」


二リットルのペットボトル。普通は絶対に持ち込まれないだろうし、学校生活で持ち込んでいる人をこの人以外見かけたことがないのだが、この場では非常に助かった

大量の水をストックできるし、こうして大量に砂糖水を生成できているのだから


「ところでさ、土神君」

「なんだ?」


スライムに砂糖水を含ませながら、話をする

慎重な作業を求められているような気がするのに、雑談をしていいのだろうか

そういう疑問はあるけれど、無言で進めるより緊張感を抱かずに済むから、僕としてはこの方がいいのでそのまま進めていく


「なんで君は、二リットルのペットボトルなんて持ち込んでいるの?」

「自販機の五百ミリリットルのペットボトル飲料=スーパーで売られている二リットルのペットボトル飲料。こっちの方が多くてお得だ。お財布に優しい」


すーぱー?なんだろうか、それ

何か凄いところか何かなのだろうか

とにかく、飲料系のものが販売されている場所としておこう


「なるほど。でも、すーぱー?で五百ミリリットルのペットボトルを買うって言うのは駄目なの?安くないの?」

「ゴミが増えて、ごみ袋を買わないといけないタイミングが増えるだろ」

「ごみ袋って出すものなの?」

「ああ。決められた曜日に、決められた場所にゴミを出す。天使の家って、もしかして…」

「あ…ええっと、その」


あんまり家の話はしたくなかったのに、成り行きでここに辿り着いてしまった

答えないといけないよな。こんな流れになったのは僕が話し下手だからだったわけだし

「お手伝いさんに片付けて貰っているから、よくわからない」としか答えようがないけれど

…どう考えても、金持ちアピールでうざがられそうだよな


「業者を雇って毎日引き取って貰っているとか?!」

「へ?あっ…た、多分?」

「天使の家って凄いんだな〜」

「そうかな…」


周囲は僕の家を凄いと言う

誰もが知っている食品会社の子供

ご両親も誇りに思うような、立派な子供

…正直、演じるのに疲れた


誰もが知っている会社を経営している両親の間に生まれただけの、普通の子供

周囲が見ているからと必要以上の努力を強いられて

ストレスで食事が喉を通らなくなったり、体調を崩すことが多かった

兄たちはその課題を受け入れ、彼らなりに努力して大成した

けれど僕はそれに耐えきれなかった


同時にスライムの吸収量が許容を超えたらしい

ペットボトルからこぼした砂糖水は吸収されることなく、地面へと滴り落ちた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る