並列魔法

  ルインコングが、動きだす。


「は、速い!?」


 しかし、その速度はさっきまでとは比較にならない。

 メリーネほどではないが、それに準ずるスピードだ。それでいて、パワーもタフネスも健在。


 強化されたルインコングが真っ先に狙ったのは、もっとも近くにいたメリーネ。


「きゃあっ!?」


 急に速度が上がったせいで、メリーネの想定を上回ってしまったのだろう。

 ルインコングの拳に対しなんとか剣を間に挟んで受け止めたようだが、無理な体勢を強いられたメリーネは踏ん張りが効かず殴り飛ばされ壁に激突した。


「ルル!?」


 次に狙われたのはスラミィ。

 メリーネのようにルインコングの拳に対応することができず、正面から殴られて一撃でノックアウトされてしまった。

 グリフォンの姿を維持することもできず、青いスライムの姿で倒れ伏す。


 次に狙われたのは――俺だ。


「ネロ! 使え! 『劫火槍』!」


「は、はいい!! 『ソウルタッチ』!」


 ネロのソウルタッチがルインコングの動きを止め、その隙に劫火槍をとにかく放ち続ける。


 しかし、ネロの予想通りソウルタッチの効き目がさっきよりも薄く。

 炎の槍が2本命中したところでルインコングの硬直は解かれた。


「ドラララララララララ――!!」


 ドラミングによる衝撃波で炎の槍がかき消されるが、それを無視してひたすら劫火槍を繰り出し続ける。


 劫火槍を放ち、ルインコングがドラミングでかき消す。

 俺だけが一方的に消耗する戦いだが、少なくともこれを続けている限りルインコングを釘付けにできる。


 こいつに自由に動かれたら、接近戦などできない魔法使いは簡単に殺されてしまうからこれでいい。


「さて」


 ちら、と吹き飛ばされたメリーネを見る。

 どうやら壁にぶつかった衝撃からか気絶しているようで、ぐったりとしている。

 死に関わるような怪我はなさそうだが、服に血が滲んでいるので無事とは言えない。

 エリクサーはあるが、早めに助けにいきたいところだ。


 スラミィの方は不死だから心配はいらない。

 フィロソフィーズスライムは仮にスライム種共通の弱点である核を粉々にされたとしても、時間が経てば復活するだろう。


「さっさと決めるか」


 魔力負荷の魔道具をオフにし、魔力圧縮も取りやめる。

 制限がかかっていた魔力操作や魔力制御が万全の状態に戻った。

 こっからは全力だ。


「そ、そのレヴィさん……勝てるんですか? メ、メリーネさんたちが戦えなくなってしまいましたが」


「ああ、勝てる。心配はいらない」


 不安そうにするネロに、きっぱりと答える。


 魔力がかなり減っているとはいえ、それでも依然として普通の魔法使いの数倍の魔力は残っている。

 ルインコングを倒すには、十分だ。


「ど、どうしてすぐに、た、倒さなかったんですか? ひ、1人で倒せるなら最初から倒せばよかったんじゃ」


「経験を積ませるためだ」


 俺がルインコングをさっさと倒さなかったのはメリーネやスラミィに戦闘経験を積ませたかったから。

 たとえルインコングを俺1人で倒せたとしても、この世界にはこいつ以上の強さを持つ敵はいくらでもいる。


 そんな奴らと対峙して生き残るには俺1人の力じゃ絶対に足りない。

 近い将来、魔族が本格的に動きだす。

 そのときに備えて、メリーネたちには強くなってもらいたいのだ。

 今から用心しておかないと、俺の命だけじゃなく多くの人間が犠牲になってしまうのだ。

 そんなこと、認められるわけがない。


 俺は死にたくない。

 それは死亡フラグに満ちたこの世界で、死亡ルートしか存在しない悪役である俺の心の底からの願いだ。

 しかし、だからといって俺が生きていれば他人が何人死んでも構わないなんて思うことはない。

 俺が生き残り、家族や大切な人を救け、なるべく多くの人が明日を迎えられる。


 そのために、強い人間を集めて備えておく。

 これは未来を知る転生者である俺がやるべきことだ。


「終わらせようか」


 経験を積ませるという目論見は、メリーネとスラミィが戦線離脱した以上終了だ。

 これ以上戦う理由もないからさっさとルインコングを倒してしまおうか。


 劫火槍の連射でルインコングを牽制しつつ、同時にもう1つ魔法を構築していく。


「! ま、まさか! へ、並列魔法!」


 2つ以上の魔法を同時に使用する並列魔法は、高等技術の1つだ。

 同じ魔法を複数ではなく、まったく違う魔法を同時に放つ。


 これができる魔法使いはあまり多くないらしい。

 だが生き残るために必要だと思った俺は、努力して身につけた。

 それが今、役に立つ。


 ルインコングは俺の劫火槍を合計で5回も受けた。

 すでに、かなりのダメージを負っており劫火槍の一撃すら受けるわけにはいかない状態だ。


 だから、ドラミングをやめるわけにはいかない。

 劫火槍を打ち消し続けなければ、死ぬのがわかっている。


 つまりこのルインコングは、俺が並行魔法で劫火槍を放ち続けている限りその場から一歩たりとも動けない。

 だから、この魔法は避けれないだろ。


「焼き斬れ――『レーヴァテイン』」


 手の中に出現した炎の剣を振るう。

 すると、炎の剣はその剣身を距離があるルインコングにまで届くほど伸ばし、その巨体を真っ二つに斬り裂いた――

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