2つですよ

 ローウルフを倒すと、その場に宝箱が現れた。

 遠い目をしていたメリーネだったが、それを見た瞬間にその表情はぱっと明るくなる。


「レヴィさま! 宝箱っ! 宝箱ですよ! ダンジョンの宝箱って本当にあるんですね、わたし初めて見ました!」


 宝箱を前にわいわいとはしゃぐメリーネ。

 その気持ちは俺もわかる。何たって宝箱と言えばダンジョンの醍醐味だいごみの1つだ。

 俺もゲームではこの宝箱を目当てにダンジョンを何周もしたというもの。


 この世界のダンジョンは、ダンジョン自体に宿る魔力を用いて魔物を生む。

 そして、それと同じような理論で宝箱も生成する。


 階層のどこかか、あるいは今回のようなボス討伐報酬として宝箱が出てくるらしいのだが、俺たちはローンウルフの討伐報酬として初めて宝箱と遭遇したのだ。


「速く、速く! 開けましょうレヴィさまっ!」


「待て待てメリーネ、わかってる」


 俺は宝箱の前にしゃがみ込むと、メリーネは俺の後ろから覗き込むように身を乗り出してきた。


「よし、開けるぞ――」


 期待に心を躍らせ、俺は意を決して宝箱を開いた。


 その宝箱の中に入っていたのは、指輪だった。


「指輪ですね、綺麗です……」


 銀色の指輪には精緻で美しい模様が刻まれており、青色の小さな宝石がはめ込まれている。

 メリーネの言う通り、とても綺麗な指輪だった。


 そんな指輪が、宝箱の中には2つ入っていた。


「レヴィさま、2つありますね!」


 メリーネが指輪ではなくなぜか俺を見ながら言ってくる。

 これは、俺に何かを期待しているのだろうか。


「2つですよ」


 じーっとまっすぐ俺を見て、念を押すようにもう一度同じことを言うメリーネ。

 いったいなんなんだと思ったが、少し考えて合点がいった。


「メリーネ、欲しいのか?」


「……欲しいですけど」


 メリーネはそう言って頬をふくらませて不服そうな顔をするが、なんでそんな顔をするのかよくわからない。

 俺の考えは間違っていたわけではないだろうに。

 ともかく、メリーネが欲しいというなら俺はそれでも構わない。メリーネにあげてしまうか。


 俺は宝箱の中から2つの指輪を取り出して、その両方をメリーネに手渡した。


「ほら。やるよ」


「むー」


 すると、メリーネはさらに拗ねたような顔をする。

 なんでだ。


 俺が頭に疑問符を浮かべていると、メリーネは諦めたようにため息をつく。


「まったく。レヴィさまは女の子の気持ちが本当にわからないですね」


「えぇ……そんなこと言われても困る」


 俺は男なんだから、女子の気持ちなんてわかるはずがないだろう。

 前世では彼女がいたことはなかったし、それどころか女子と関わることなんてほとんどなかった。

 そんな俺に女心を理解しろなんて言われても、難しすぎるのだが。


 困惑する俺に、メリーネは片方の指輪を差し出してきた。


「レヴィさま。2つあるのですから、わたしたち2人で1つずつ分けましょう?」


「そういうことか」


 どうやら正解は、2つある指輪の片方だけをメリーネに渡すことだったらしい。

 それにしてもこれが女心なのか。

 たしか、前世でも女子は男と比べてやたらとシェアという言葉を好むらしいと聞いたことがあった。

 なるほど、それと同じというわけだな。


 俺はこうして、新たな知見を得ることができた。

 女子はものを分け合うことが好き、と。覚えておこう。


「レヴィさま、明後日の方向に考えてるんだろうなぁ。わたしはただ、お揃いにしたかっただけなんだけど……はあ、前途多難だ」


「ん、何か言ったか?」


「いーえ、何でもありませんよー。レヴィさま、その指輪はわたしだと思って大切にしてくださいねっ」


「いや、指輪は効果が有用であれば大切にするが。さすがにこんなものよりメリーネの方が大切だろ」


「!?」


 なぜか突然顔を真っ赤にして固まるメリーネを置いておき、俺はさっそく指輪を着けてみることにする。


 ダンジョンの宝箱から手に入る装飾品は、そのほとんどが魔道具だ。そのため、この指輪にも何らかの効果があるはずなのだが。


 指輪を邪魔になりにくそうな左手の中指に着ける。

 すると、頭の中に指輪の効果が浮かび上がってきた。

 なるほど、ダンジョン産の魔道具はこうやって効果を知るのか。不思議なものだが、わかりやすくていいな。


「効果は、温度調節か……! これは、いきなりすごいものを引いたな」


 この指輪は周囲の気温に関係なく自分にとって快適な温度に感じるように、体の周りの気温を調節してくれるらしい。


 この効果があれば季節に関係なく過ごすことができ、体調を崩すリスクも減る。

 さらに、この指輪があれば氷河や火山の火口に行っても問題なく活動ができるようになるだろう。

 そんなところ行くかと言われたら多分行かないが。


 そして俺にとってこの指輪はかなり重要な意味を持つ。

 なぜかというと、俺の魔法は火属性がメインだからだ。火魔法というのは、当然ながらかなりの熱を持つ。

 そんな魔法を多用するとなると、あたり前のことだが使用者の俺としてもかなり暑い。


 今まではわりと暑さを我慢して使っていたのだ。

 しかしそれを解消できるとなると、ものすごく助かる。


「まずいな……この指輪、もしかしたらメリーネより大切かもしれない」


「えっ!? レ、レヴィさま!!???」


「冗談に決まってるだろ」


「もー!」








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