猫耳護衛騎士

 ミストの店では色々あったが、なんとか目的の魔道具を手に入れることができた。


 腕輪型の魔道具でこれを着けている間魔力に負荷がかかり続けるという魔道具だ。

 魔力は負荷をかけて圧縮したり使用することで総量が少しずつ増えていく。

 これは、その強度をより高める魔道具である。


 この魔道具で負荷をかけることで、魔力圧縮による魔力増強は効率化。

 さらに魔力を扱うことも難しくなり魔力操作や魔力制御がかなり難しくなるが、難易度が上がった状態で魔力を使用していくことでより技術が高められる。

 まさに筋肉の代わりに魔力を鍛えるダンベルと言える代物である。


 便利なものという魔道具の基本の真逆を行く、不便を与える魔道具。

 マッドであるミストでもさすがに作ったことはないらしく、店には置いてなかった魔道具なのだがわざわざ作ってくれた。


『無いなら作ればいいのです〜!』

 なんて言って1時間で用意してくれたのだから、本当にすごい魔道具師である。


 また、負荷強度を調節することも可能だ。

 弱から超強までの4段階で、超強だと魔力に負荷がかかりすぎて体が常に鈍い痛みに襲われるようになる。


 ちなみに購入した直後からすぐに着けた。もちろん強度はマックスでやっている。

 痛みはなかなかしんどいが痛いだけでは死なないのでこの先の俺の運命を考えたら安過ぎる。

 これで強くなれるのだから、最大効率の超強以外ありえない。


「レヴィさま、あれをこっそり買ってたりしないですよね?」


「買ってないぞ」


 ミストの店を出て屋敷に帰ると、メリーネは真っ先に俺に確認してきた。

 よっぽどあれ――魔力貯蔵の魔道具を警戒しているらしい。

 あとで日を改めてメリーネにバレないように買いに行こうとしてたけど、ちょっと考え直そうかな。

 買ってから万が一バレたらと思うと少し怖い。


「……なら良いのですが」


「俺が買ったのはこれとメリーネのやつだけだ」


 メリーネの頭の上には髪と同じ色の猫耳が生えていた。

 もちろん、もともとメリーネに猫耳なんてなかった。


 これは、猫耳型の魔道具だ。


 掃除しているときにメリーネが見つけたらしく、ずっと気にしているようだったので買ってやった。

 この魔道具自体には聴力を補正する効果と、夜間に視力を補正する効果の魔法がかけられている。

 猫と同じような聴力と夜目を手に入れられる魔道具というわけだ。


 騎士であるメリーネにとってはかなり有用な代物だろう。


「レヴィさま……あの、ありがとうございます。わたし、猫が大好きなんです。大切にします」


「気にするな。護衛が強くなるのは、俺にとっても好都合だからな。俺のためだ」


「それでもです。嬉しいです」


 メリーネはそう言って控えめに微笑んだ。


 それにしても猫耳が似合うな。

 小柄なメリーネが猫耳を着けると小動物感が増す。

 率直に言って可愛い。俺は前世では犬より猫派だったのだ。当然ながら、猫耳も大好きだ。

 それにメリーネは顔もめちゃくちゃ良いし。


 猫耳美少女騎士の護衛とか俺は前世でどんな徳を積んだのだろうか。

 いや、未来が絶望しかないレヴィに転生してしまった時点で徳もなにもなかったな。


 死亡フラグ満載のこの世界を俺は1人で生きて行けるなどとは思っていない。

 俺の強化と並行してメリーネにも強くなってもらうのも良いかもしれないな。





 次の日の朝から俺はさっそく魔力量を本格的に鍛え始めた。

 まず魔力負荷の魔道具の強度は超強で固定。

 これは風呂に入るときも、寝るときも、貴族としての勉強をしてるときでも常につけっぱなしだ。


 寝るときなんかは最初のうちは痛みでなかなか眠れずに苦労した。

 しかし、それも1ヶ月くらい経てば問題なく眠れるようになったから今では余裕だ。


 魔力負荷の魔道具をつけているだけでは当然終わらない。

 これをつけた状態で常に魔力を圧縮し続ける。

 魔力圧縮はかなりの集中力が必要な作業だ。

 しかし魔力負荷の魔道具によって集中力が阻害され、魔力圧縮の難易度が劇的に上がる。

 さらに、負荷をかけ続けられている魔力は扱いがかなり難しくそれにも苦戦する。


 しかし人間は慣れるもの。

 加えて言えば俺は天才だ。魔力負荷の中で魔力圧縮をすることには、1週間で慣れたので今では余裕だ。


 2ヶ月立つ頃には魔力圧縮専用の思考を分割することに成功。

 これにより歩きながらでも、飯を食べながらでも、勉強をしているときでも魔力圧縮を常にできるようになり魔力増強が加速する。

 さすがに寝ながらの魔力圧縮はまだできないが、俺も人間なのでこればっかりは仕方なかった。


 魔力負荷の魔道具による負荷状態での魔力圧縮、思考分割によるその平常化。

 それにより俺の魔力増強システムの下地が出来上がり、俺は生きているだけで魔力が増える体質へと進化した。


 となれば俺は次のステップへと移行する。


 それは魔法だ。

 どれだけ魔力があろうと、優れた魔法を扱えない限り宝の持ち腐れである。

 もちろん、天才魔法使いである俺は魔法を使える。

 しかしより強力な魔法を習得したかった。


 ゲームで敵として現れたレヴィが使っていたのは、主に火属性の派手な魔法が中心だった。

 高火力、広範囲で殲滅力に優れた強力な魔法だ。

 高火力の全体攻撃を連打して、こちらの回復が間に合わないうちに圧殺してくる鬼火力のボス。

 それがゲームでのレヴィだった。


 その戦い方は強い。ただただシンプルに強い。

 だけど、それじゃダメだ。だってその戦い方をしているゲーム内のレヴィは何をやっても死ぬのだ。

 他の魔法――より強力な、俺だけの最強魔法を覚える必要があった。


 そうしてこの世界でどうあがいても死亡ルートしかない俺の運命を跳ね返す、最強を目指した特訓の日々が始まってから3ヶ月。


「今の魔力はざっと、3ヶ月前の30倍くらいか――」


 めちゃくちゃ成果が出まくっていた。

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