第16話 黒の衣装を身に纏う

 蘭ちゃんは立ち上がると、魔法で着替えた。

 あ、そっか。もう放課後だもんね……なんて、そういう意味じゃなくて。

 本当は、私にその正体を教えてくれるために、わかりやすく着替えてくれたのだろう。

 その、異形たる姿を見せるために。

「よく御覧なさい。これが私の本当の姿よ」

 人間にはない角、黒い翼……。

「蘭ちゃん、悪魔なの?」

「そうよ。これが、私の最大の秘密。……我が家は、人間界にやってきた悪魔の一族なの。もう何百年と人間と一緒に暮らしているから、ほとんど人間のようなものね。だから、地獄に帰ることも出来ない……。完全に人間になることも出来ないし、中途半端な一族、なんて、悪魔だと知っている人達や悪魔達からは言われているわ……」

「す……」

「す?」

「すっごーい! 蘭ちゃん悪魔なんだ! かっこいいー! 世が世ならプリンセスくらい行けたんじゃないの!? ねえねえ、その翼見せてよ! うわぁ、すべすべぇ……!」

「や、やめなさい! 勝手に翼を触らないでっ、ひぃんっ」

 翼を触ると、蘭ちゃんは倒れこむ。

「ら、蘭ちゃん!?」

「気安く、悪魔の翼に触るもんじゃないわ……っ」

 顔が赤い……。目もなんだかうるうるしてるし、そんなに、嫌だったのかな……。

「ごめんなさい……」

「……あなたまで、穢れてしまうわよ。こんな翼に触ったり、私なんかと関わっていたりしたら」

 ぼそっと何か呟いていた。

 でも、私には何のことかわからないし、ところどころしか聞こえなかった。

「それにしても、あなた、そんなに驚かないのね……。悪魔なんて、もう神話時代のものなのに」

「あはは……。それにしても蘭ちゃん」

「何かしら?」

「えっちぃから、早く着替えてください。とりあえず、これで隠して! 大丈夫! 私、そんなに見てないから! 胸の谷間とか!」

 私は制服の上着を蘭ちゃんに掛けて後ろを向いた。

「……!? あ、あなたどこを見ているのよ! 何を聞いていたのよ! 馬鹿なの!? それに着替えなんて、一瞬で終わるわ」

 蘭ちゃんは指を鳴らすと、魔法で着替え終わったようで、私に上着を返してきた。

「……これ、返すわね」

「あ、うん。あの、蘭ちゃん」

「何?」

「あなたの目的って、何……?」

 どうしよう。人間の殲滅とかだったら。

 でも、蘭ちゃんはとっても艶っぽく笑みを浮かべてこう言うのだった。

「あら、そういうことは、まだ私の口からは言えないわ。あなただって、たくさん隠し事をされているのでしょう? なんとなく、纏っている雰囲気とかでわかるのよ。異世界から来たことも、もちろんね。人間はわからないけれど、私達のようなものにはわかるの。注意した方がいいわ。――さあ、帰りなさい。ここはあなたのような人はあまりいない方がいいのよ」

「どうして」

「どうしてって、その内わかるわ。あと、普通にもうすぐ夜だけれど、一緒に暮らしている方々はあなたを心配しないのかしら?」

「あ! ご、ごめん! また話そうね! 蘭ちゃん!」

 私は慌ただしく、蘭ちゃんの部屋から出ようとした。

「……また、か。でも、人間なんて、信じられるものじゃないわ」

 そう言っていたのを、私には少しだけ聞こえていた。

 でも、聞こえないふりをして、私は部屋を出て家に帰るのだった。

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