6.一人の戦い

 目の前に現れたのは僕よりも体の少し大きい真っ黒な魔犬だった。

 僕は急いで目の前に現れた魔物の情報を見る為にスキルを発動した。



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名前:ブラックハウンド


レベル:1

筋力:166

体力:144

耐性:21

敏捷:89


スキル

毒唾ヴェレーノ・サリーヴァ

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 ステータスを見ればアーブルの時より全体的にやや高いように見える。

 恐らくだが強さはやはりボスのアーブルの方が上なような気もする。

 アーブルは対多数戦闘、さらには遠距離攻撃を用いた魔物だった。

 だからアーブルは極端なステータスをしていた。


 だがこのブラックハウンドは違う。

 もしかしたら対多数戦闘も心得てるのかもしれないがきっと単体戦闘に特化しているはず。故に全体的にステータスが高いのだ。

 さらに毒唾ヴェレーノ・サリーヴァというスキルはきっと毒系なのだろう。


 こんな強敵だが勝ち目はある。

 なぜなら僕はレベル1にして五階層ボスを倒しているからだ。

 きっとまたどうにかなる。


「アウォォォォォン!!!!!」


 ブラックハウンドは四足歩行でこちらに接近してくる。

 僕は回避をすることも考えたがそればかりでは戦いを終わらせることは出来ない。 

 だから今回はカウンターを喰らわせることにした。


 ブラックハウンドは前足の片方を振り上げる。長く鋭い爪が勢いよく僕に近づいてくる。

 

 ――ここだ!!!!!

 

 ブラックハウンドの足が僕に接触するよりも先に剣を突きつける。


 スパッッ!!


 剣先が半円を描くよう振るとブラックハウンドの攻撃を仕掛けてきていた片足を切り裂くことが出来た。

 ブラックハウンドは痛みで吠えながら三本足で僕から少し距離を取ってきた。


 これなら行ける。僕一人でも勝てるぞ!


 僕はブラックハウンドに休む暇を与えるわけにはいかないと思いリュックを地面におろして走り出した。

 その時ブラックハウンドは頬を膨らませ何かをしようとしていた。

 僕ははっきり言って完全に油断していた。勝てるという確信をしてしまったばかりに。


「!!!?」


 ブラックハウンドの口から得体のしれない液体が放たれる。

 そして僕の左腕にその液体が微量ながらかかってしまった。

 気づいた時にはもう遅かった。

 左腕に猛烈な痛みを感じるとともに動かすことができなくなっていた。

 走っていた僕は足を止めどうにか痛みをこらえる。


 だが幸いなことに液体がかかったのは左腕だ。

 まだ足にも顔にも右腕にもかかっていない。ならまだ戦える。


 僕はきりっとした顔つきでブラックハウンドを睨みつけ再び走り出した。

 同じくブラックハウンドもこちらに走ってくる。


 ここで決める。決めれなきゃ僕の負けだ。


「おらぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!!」


 ブラックハウンドは飛びかかる様に少しばかり地面から足を離し近づいてくる。

 最初こそは驚いたが僕はすぐに冷静になりブラックハウンドの腹部へ剣を突きつけた。

 そしてそのまま片手ながらも力を全力で注ぎさらに深く深く剣を突き刺していく。

 

 グサッ!


 ついにブラックハウンドの腹部に剣の大部分が突き刺さり動きを止めた。

 ブラックハウンドは徐々に姿を消し少しばかり大きい魔石を落とした。

 僕はそれを掴みリュックの元へ向かう。

 

 リュックの中に魔石を入れたのちブラックハウンドにやられた毒をどうにかしようと思い念のために持ってきていた回復薬を部位に垂らす。

 すると多少の痛みは残っているものの回復薬をかける前より痛みは引いている。

 そしてリュックを背負った僕は来た道へと歩き出した。


「今日はもう帰ろう」


***


 ダンジョンを出ると既に外は真っ暗になっていた。

 今日倒した魔物の魔石をギルドに持っていこうと思ったがさすがに疲れたので持っていくのはやめ家に帰ることにした。


 そう言えばブラックハウンドを倒したけどステータスはどれだけ上がったんだろう。


 気になった僕はステータスを確認するために歩きながらステータスパネルを表示させる。



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名前:エト・アルハドール


レベル:1

筋力:163

体力:134

耐性:122

敏捷:81


スキル

能力明晰ステータス・クラリティ

特殊能力適応スキル・アダプト


適応

*弱毒耐性

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 なんだこの【特殊能力適応スキル・アダプト】っていうスキルは……。

 それに適応っていう新しい項目まで増えてるし。

 もう一回ダンジョンに行って検証したい。気になってしかたがない。

 でも流石にもう時間も遅いし明日にしておくとしよう。


 ***


 それからしばらく歩いた僕は家の近くまでやってきたのだが家の前に明らかに不審な人物が立っている。

 頭には赤いリボンのついたカチューシャをしている。どう見ても変人だ。

 

 恐る恐る近づいていくと不審な人物はこちらの存在に気づいたようで歩いてくる。


「もしかしてもしかして君がエトって人? どれだけ外出してる気? 私相当この寒寒い外で待ってたんだよ!」

「…………」

「ねぇ、聞いてる? もしかして無視!?」


 これは本当にやばい人だ。

 ここは別人という程で一回家の前をスルーするしかない。

 急げ、僕。


 どうにか変人を通り過ぎる事ができたのだが服の首後ろを掴まれてそれ以上進むことが出来なくなってしまった。


 やめてくれやめてくれ。

 僕は変な人に絡まれるようなことはしていないのに。


「ちょっと君がパーティーメンバーを募集してるエトでしょ!」

「えっ、パーティーメンバー?」


 もしかしてこの圧倒的不審な人物は僕の出していたパーティーメンバー募集の紙を見て来てくれたってことなのか?

 いやぁまさかそんな変人いるわけ……ってこいつは変人だ。 


「何? その若干馬鹿にしてそうな表情は。良いから早く入れてよ」

「え?」

「だってここがパーティーの拠点なんでしょ」


 あぁ……そうだった。

 てかこういう変人対策として面接方式にするべきだったか。

 いや、今やるか。


「まだパーティーに入れる気はないです」

「はい?」

「ずばりここで今から抜き打ち面接を行います」

「そんなの紙に書いてなかったじゃん!」

「抜き打ちなので。やらないというならどうぞお引き取りを」

「あぁ、もう! わかった、やるから! 早く中に入れて。凍え死んじゃう」


 僕は少し引き返し家の扉を開けて変人を中に入れた。








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