英雄女学園の伝説教師~教え子たちが俺を崇拝し甘やかす最強最狂集団になった~

相野仁

第1話「最強の魔法使い、先を求めて転生する」

「この肉体もさすがにそろそろ限界か」


 とつぶやいて衰えた自分の肉体をチェックする。


 俺(トラディオ)が歴史上最強魔法使いと謳われるようになってからどれだけの歳月が流れただろうか。


 寿命を延ばす魔法は開発したが、老衰を完全に克服する手段を見つける前に、リミットが訪れてしまった。


 こういう場合に備えて「転生の秘法」を開発しておいて正解だったな。

 一応長寿の知り合いには「通信魔法」で伝えておく。


 他の連中にも扱えるレベルの道具や装備は手がかりとして残すので、自由にさせていい。


 俺が残した魔法や道具を研究し、さらなる高みにのぼってもらいたい。

 転生する時代はある程度先がいいかな。


 人間は短命種だが、進歩が早いのが長所だ。


 500年もすれば俺が遺す魔法を改良し、魔道具を進歩させ、今よりも文明を発展させているだろう。


 子どもとして新しい技術や理論を一から学びなおすのは楽しいはずだ。


 俺と同等以上でなおかつ方向性の異なる魔法使いが出てきてくれているのが理想だな。

 

 ……念のため800年後に設定しておくか。

 人間や獣人の王朝なら3、4回は変わる期間を与えればきっと大丈夫だろう。


 他者に教えを乞い未知を学んだのはいつ以来だろうか?

 想像するだけでワクワクする。


「【終わりははじまり。明日は過去。運命の糸よ、過去を未来へつなげ。時の船よ、我を彼方へ運べ。──リーンカーネーション】」


 動物や死刑囚などでさんざん実験を重ねたのでなんの心配もしてなかった。


 

 ……よし、成功した。


 二歳くらいからじわじわ記憶が戻り、自然と人格が形成されるように術式を組んでおいたおかげで、誰も違和感を持っていない。

 

 だが、俺のほうの違和感はどんどん大きくなっていく。

 まず、水道が通っていなかったし、電気も使えない状態だった。


 前世、俺が弟子たちと大陸中に普及させたはずのものがないだと?

 他の大陸は弟子たちに任せたが……言語的に俺が死んだ大陸の未来のはず。


 電気がないので空調もなく、その他家庭用電気製品がいっさいない。

 おかげで手を洗うのも、水を飲むのも、村人たちはみんな苦労している。


 ここは未来のはずなのに、まるで俺が生まれる前の時代まで文明が逆戻りしてしまったみたいだ。

 

 ……俺の死んだ後にいったい何があったんだ?

 いずれにしても不便すぎて生活がきつい。


 自分であげまくった生活水準を鮮明に覚えているから余計に。

 まさかこんな形で前世の記憶を持ってきたのが裏目に出てしまうとは。


 世界最強の魔法使いと言われてても、読めないことはあるんだな……。


 こうなった上は仕方がない。


 幼少期くらいは自重して、少しずつ頭角を現していくつもりだったけど、予定を変更しよう。

 

 幸い、文明がダメなだけで人口は少ないわけじゃない。

 

「だから、これを集めると電気をつくれるよ」


「何を言ってんだ、ルネス? 魔動発電なんて古代文明に存在した幻の存在だぞ?」


 だめだった。

 父親に話しても、村長に言っても全然相手にされない。


 電気が幻の存在になってるなんて……おまけに子どもの言うことだからと信じてくれる大人が見つからなかった。


 ちょっとまずいかもしれない。


 いくら知識と魔法技術を前世から持ってきたと言っても、いまの俺の肉体強度は幼児と変わらないからだ。


 つまり、前世と同じ感覚で魔法を使ったら、体が耐えられず爆散して死ぬ。

 こればかりは一朝一夕で解決しないので、成長を待つしかない。

 

 どうしてこうなった?

 ……諦めきれなかった俺はやり方を変える必要性を感じた。


「ルネスー、あそぼー」


 と少し年上の女子たちが家の前に呼びに来る。

 幸いなことに村には子どもが多く、だいたいが俺と仲がいい。


 彼女たちなら大人と違って聞く耳を持ってくれるので、興味を持たせれば一緒にモノづくりができるだろう。


 女の子たちと言っても村の子だからか、ままごとよりも狩りごっこのほうが好まれたりする。


 あと、魔法の練習をこっそりはじめていた。


 知識ならそこらの大人に俺が負けるはずがないので、子どもたちに教えても差し支えはない。

 

「今日は氷菓子(アイスクリーム)を作ってみようか」


 と言うと子どもたちは手を叩いて喜ぶ。

 子どもはやっぱりお菓子が好きだよな。


 氷属性魔法を覚えば食料の保存に応用ができるし。

 俺は滑車でもつくろうかな。


 便利性を向上させるぶんには大人たちだって文句はないだろう。

 子どもたちが自分の家に帰ったタイミングで、俺は二つのことをたしかめた。


 ひとつ目は問題なかったので、もうひとつ。


「魔剣よ、来たれ」


 前世に愛用していた魔剣に呼びかける。

 目の前の空間がゆらいで、漆黒の剣が姿を見せた。


「久しぶりだな」


 と言って柄を手に取る。

 本職は魔法使いなのに、こいつだけは不思議と手になじむ。

 

『!!!!!!!』


 魔剣から意思を放たれる。

 こいつは自我を持ちコミュニケーションをとることも可能なのだ。


 だから転生しても呼べることを期待していた。

 旧交をあたためたあと、魔剣を亜空間に還す。


 こいつを呼ぶ展開なんて、ざらには来ないだろう。

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