第4話 相生春奈①
【はしがき】
重いです、だいぶ。
「ただいま……っていないよな」
サークルが終わり、十数分後。
俺は家のドアを開け中に声をかけた。
「先にメッセージ送っとくか」
亜希に言われた通り、島添に合宿の件を伝える。
アイツは返信の遅さに定評がある。
亜希には今日中に出欠をと言われたけど、多分無理だろう。
「ただいま。今日は亜希と会ったよ。元気そうだった」
荷物を置きリビングへ、そして俺は棚に置いてある写真にそう語りかけた。
写真の中には、満面の笑みで俺に抱き着く春奈と桜の木が写っている。
あの日、結婚式が終わった後に撮ったものだ。
「やっぱりまだ態度が冷たいかな。前みたいになるのは当分先になりそう」
俺は写真に語り掛けながら、ゆっくりとその縁を撫でた。
ここ二か月の習慣、春奈が亡くなってからの習慣だ。
***
「ねえ郁也。今日からお昼食べるの三人になるけどいい?」
「うん。俺は全然いいけど亜希の知り合い?」
「そうなの。今年から妹が入ってきたんだけどお昼は私と食べたいって聞かなくてさ、ほんと困っちゃうよね」
言葉と裏腹に亜希は満更でもない顔を見せる。
高2の昼休み、そこで俺と春奈は出会った。
「こんにちは。お姉ちゃんがいつもお世話になってます」
「ちょっと春奈逆だから。私がお世話してる方」
「………」
第一印象は、亜希と正反対だった。
バスケ部に入っていて、人望が厚く活発な亜希に対し、春奈はどちらかと言えば物静かなタイプ。
所作の上品さや醸し出す不思議な雰囲気に、俺はすぐに取り込まれていたように思う。
「……なに魅入ってんの。手出したら殺すわよ」
「い、いや違うから!よろしくね、春奈ちゃん」
「はい!よろしくお願いします」
その後、お昼は一緒に過ごすようになった俺達だが更に仲良くなったのは、春奈の部活がきっかけだった。
「あの、上森さん。頼みたいことがあるんですけど……」
「うん?何かな」
「モデルをして欲しいんです。今度コンクールに出したいなって」
「モデル?……あ、絵のモデル?」
「そうです!私異性の知り合いがあんまりいなくて頼める人が上森さんしかいなくて……」
そう言う春奈の顔は少し赤く染まっていた。
異性の知り合いがいないことを恥ずかしく思ってるんだろうけど別に普通のことだし、なによりその照れた表情に俺は心臓を撃ち抜かれたような気がした。
「う、うん。全然大丈夫だよ。どうせ放課後は暇だし」
「ほんとですか!よかったぁ。上森さんに断られたらどうしようかと思ってました」
ホッと胸をなでおろす彼女を見て自分まで幸せな気分になる。
この時には既に、俺は彼女に魅かれていた。
「郁也って最近春奈と妙に仲良いわよね」
「え、そうかな」
「だって春奈が家でアンタの話しかしないんだもん。何?本当に手出そうとしてんの?」
「いやそれは俺が春奈ちゃんに絵のモデル頼まれたからだと思うよ。最近放課後はずっと一緒だし」
「ずっと一緒ねぇ。あの子まだ恋愛とかしてことないの。お願いだから変な虫にならないでよね」
「変な虫って……てか亜希だってそう言う話全くないじゃん。人のこと言えないんじゃないの?」
「人の気も知らないで……このバカ」
亜希に睨まれることは増えたが、部活をきっかけに接近した俺たちの仲は、休日に一緒に出掛けるまでになっていた。
そうこうして半年が経った夏の終わりごろ、俺は彼女に告白した。
【あとがき】
読んで頂きありがとうございます。
1話から5話まではプロローグ(ヒロイン紹介)の予定です。
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