第24話 友達と気まずい時って話すらできない……はずだったのに

 ゲーセンに入り、ダークさんはまずクレーンゲームへと向かった。


「こりゃどういうゲームだ?」


「ここのボタン押して、クレーンを動かして景品を取るゲームです」


「なるほどな。ちょっとやってみろよ」


「俺もそこまで上手いわけじゃないんですけどねぇ……まあ、ここの景品は心ちゃんに貰ったし、取れなくても良いか」


「あっ? これ、探偵とやったのか?」


「はい。まあ、逆に言えばクレーンゲーム以外なにもできませんでしたけど」


「んじゃこれ以外で遊ぶぞ」


「え、これダメでした?」


「ダメだ」


 一体なにが気に入らなかったんだろうか。まあ、ダークさんはテレビゲームとかの方が好きそうだしな。


 それからゲーセンを軽く回り……ダークさんは一つのゲームに目を止めたようだった。


「なあ、これって……」


「パチンコですね」


「おいおい、こんなところ置いてて良いのか? 子供も来るんだろ?」


「ここのはただ遊べるだけで儲けられるとかじゃないですから。ただ、ハマったらすぐお金無くなるので、ダークさんはやっちゃダメですよ」


 こういうのは、いくらダークさんのお金全部なくなってもおかしくないからな。


「なるほどな。そうなると、やっぱここにあったらダメなやつだ」


「まあ、そういうのは警察が対処する案件ですので……」


「いいや、警察はあてにならねぇ。俺が直接調査する」


「調査……って! ダークさん! そう言ってパチンコしたいだけじゃないですか!」


「良いじゃねぇか! 俺達には金だけはあるんだ! どうせ使い道もねぇんだしよ!」


「そう言って後悔する人が山ほど生まれるのがパチンコです! 良いからほら、別のゲームしますよ!」


 探偵衣装を下に着ていて良かった。


 無理矢理ダークさんを引っ張り、コインゲームの方へと向かう。


「なんだこれ」


「これはお金をコインに換えて、そのコインでゲームをするというものです。コインは増やせるので、コインがあればあるほど遊ぶ時間が増えるというわけですね」


「それじゃパチンコと変わんねぇじゃねぇか」


「こっちの方が健全ですよ。大して依存性もありませんし、どうせ今日中には飽きます。それに、コインが無くなったら、そこで帰るっていう風にリミッターを賭けられますしね」


「パチンコだって、金が無くなったら帰るってリミッターが賭けられる」


「お金を全部使いきらないようにコインに換えてるんです。お金は俺が管理してるので、所持金を全部コインに換えるなんてことはさせませんしね」


「たく、仕方ねぇな」


 渋々といった様子でダークさんは両替機へと向かった。


「そういや、俺達万札しか持ってなかったよな? これ全部コインに換えて良いのか?」


「あー……とりあえず両替しましょうか」


「どんだけコインに換えんだよ」


「とりあえず五百円で良いのでは?」


「……それで遊べんのか?」


「三千万なんか持ってるから金銭感覚狂ってますけど、五百円あればゲーセンで遊ぶには充分ですよ」


「本当か……? なになに……八十枚? これって多いのか?」


「増やせば良いので充分です。運が悪かったらすぐ無くなりますけど、まあ大丈夫でしょう」


「んじゃ換えるぞー」


 そうしてコインを手に入れ、ダークさんはなにか思ったのかしばらく眺めていた。


「面白いですか?」


「まあな。こういうの、俺はあんま見たことねぇから。偽物の通貨か。なあ、これ武器にしたら面白そうじゃね?」


「武器ですかぁ?」


「探偵は金を守るのが仕事だろ? んで、俺達があいつの前に現れるのは夜なわけだ。当然視界も悪い。偽物だったとしてもすぐには見分けがつかない。だったら……」


「だったらなんじゃ」


 瞬間、背後から誰かに声をかけられた。


 それは本能的に逃げるべきだと判断してしまうもの。


 俺達はすぐさま距離を取り、その人物を確認する。


「なんじゃ、声をかけただけでそこまで驚くとは、おぬしらも大したことないの。余裕を持て余裕を」


「……テメェ探偵、なんでこんなここに居やがる」


 そこに居たのは俺達が最も予想できなかった人物。探偵衣装を着た、探偵ハートだった。


 そして、驚いているのはハートさんがここに居たことではない。決別したはずのハートさんが、なんのためらいも無く、俺達に話しかけてきたこと。


 ……俺達に話しかけてくる理由なんてただ一つ。


「理由なんて簡単じゃ。見てわかるじゃろ? 仕事じゃ」


 ……まさか、俺が探偵衣装を着て、ダークさんがスカートに履き替えた意味が出てくるとはな。

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