残念な天職とスキル



「君で最後ですな。さあ壇上へ」


 トーレスに促され、翔哉は水晶の前に立つ。


 自分のステータスや光力は、一体いくつなのだろうか? 他の者達のような強そうなスキルを、どれだけたくさん付与されているのだろうか?


 ワクワクする気持ちを抑えきれずに、つい笑みが溢れてしまう翔哉。


 それもそのはず、自分と同じような陰キャグループの男子生徒の一人に至っては、隼人や太志ほどでは無いものの、賢者の天職を与えられ、光力も80をマークした者がいたくらいなのだ。


 元のスペックはあまり関係無いようで、それが証拠に隼人達と同じ陽キャグループで、サッカー部のエースを張る男子に関して言えば、身体的な数値はどれも高かったものの、光力が20という数値しか無い、と言う者までいたのである。


 そう考えると翔哉のような空気モブでも、期待値が高まってしまうのは当然の事であろう。


 司祭達の歌声が響き渡る。


「???」


 トーレスは怪訝な顔をしながら独り言ちる。


「何故、彼の体は光らないのだ?」


 どう言うわけか他の者達とは違い、翔哉の体は全く光る事なく、水晶だけが輝きを放っていた。


 そして水晶の光が収まると、そこにはプレートだけが置かれていたのである。


 他の者達はその天職に合わせた武器が置いてあったのに対し、翔哉にはそれらしき物は一切、置いてはなかったのだ。


 お察し! な感じの視線を翔哉に向けるトーレス。彼は無言で頷いてみせ、翔哉にステータスの確認を促す。


 以下、翔哉のステータス情報。


名前 涼森翔哉  年齢16歳  天職 モブA


天恵レベル0


腕力 14


敏捷 15


体力 12


光力 0


光力操作 0


アクティブスキル


なし


パッシブスキル


邪神の呪いレベル9,999



「ぷはーっ! モブAって何だよ!」


 後ろから興味深そうに見ていた太志が、思わず吹き出してそう叫んだ。


 翔哉が最後だった事もあり、他のクラスメイト達にも漏れなく全員に、この馬鹿げた内容のステータスを目撃されてしまう。


 最近よく話しかけてくるようになっていた雪菜でさえ、彼に冷たい視線を送っている。


 うっかり勘違いするところだったが、どうやら彼女が翔哉に対し、やたらと話しかけてくるようになった理由は、自分が良い娘である事を周囲にアピールしたかっただけらしい。


 もっとネタバラシをしてしまえば、他の女子達からモテまくる恋人の隼人に対し、当て付けと同時に嫉妬をさせる目的も有ったようなのだ。


 流石に冷たい視線を向けられただけで、そんな事までわかるはずもなかったのだが、彼女の侮蔑に満ちた表情を見て、少なくとも自分に好意を持っていたわけでは無い事くらいは理解した翔哉だった。


「普段もモブだったけど、真のスペックまでモブとかって流石にウケるわ~!」


 いつも良いやつぶっている隼人まで、あからさまにそんな事を言い出し馬鹿にする始末だ。


 彼は更に雪菜に向けて視線を送り言う。


「なあ、あんな奴の何処が良いんだ?」


 雪菜は彼の言動に対し、あからさまに不機嫌そうになり叫ぶ。


「はぁ? 何言ってるのよ! 私がいつあんなダサい奴の事が良いなんて言ったっていうのよ! 本当キモいんだけど!」


 クラスメイト全員から一斉に笑い声が吹き出し、次第に我慢できなくなった者を皮切りに、その場は爆笑の渦に包まれてしまう。


 とんだとばっちりである。


 何故自分がこんな晒し者の目に遭わなければならないのか? 自分にだって綺麗な女神様らしき人が現れて、何やら両手を広げ力らしき物を与えてくれていたみたいじゃないか!


 あれは一体、何だったと言うのか?


 翔哉はこの状況に呆然としながらそんな事を思い、自身に起きた理不尽に次ぐ理不尽な出来事を呪うのだった。


「ゴホンッ! では皆様方の、創造神ハーベから与えられた恩恵ギフトの確認も終わった事ですし、宮殿の方に移動いたしましょうか。我が国の皇帝が歓待の宴を準備して待っておりますので」


 トーレスの言葉を皮切りに、司祭達は解散してその場を立ち去っていく。


 そして、召喚者一行も彼に誘われるままに移動を開始したのだ。



 歓待の宴の席にて、皇帝から挨拶がなされる。


「皆様、遠き異世界より、私共の世界アトラシアに、よくぞ参られました。本日はささやかながら、歓待の席を用意いたしましたので、ごゆるりとご歓談ください」


 皇帝なのにずいぶん腰の低い感じであるが、序列からしたら異世界の召喚者は神の使徒と同じ扱いなので、実のところ立場的には召喚者の方が上なのである。


 その場では緊張を取ってもらうという理由も有ったようで、込み入った話は無かったのだか、翌日になってトーレスの元に再び集めらた召喚者一行は、改めてこの世界の事、邪神の事、についての説明を受けた。


 この世界の名はアトラシアと言い、ハーベと言う名の神によって創造されたのだが、七万年ほど前に突然やって来た邪神により混沌がもたらされたのだそうだ。


 それ以来、創造神ハーベを信仰する人間族と、邪神を崇拝する亜人族の間で戦争が繰り返し行われ、次第に亜人族を駆逐していった人間族は、ついに邪神とそれに従う者達を、中央大陸の北部に有る大樹海地帯に追い詰めたのである。


 因みにこの世界には、中央大陸、東大陸、西大陸、と言う三つの大陸が存在し、東西の大陸間が大海洋となっているのだ。


 翔哉達の事を召喚した国の名前は、神聖エルサルーム帝国と言い、中央大陸の殆どの地域を支配下に治める大帝国なのである。


 人間族が戦争に勝ち続ける事が出来た理由は、まさに異世界の召喚者達の力による物だった。そして今回の神託によって示された目的は、いよいよ邪神その物を倒してしまう事だったのだ。


 翌日から早速、召喚者達の戦闘訓練が行われる事となり、この日は説明だけで解散となったのだが、説明会に同席していた皇帝は帰り際にトーレスに話しかける。


「あの者の処遇はどうするおつもりですか?」


「うむ、確かに困ったものだな。召喚者で有る以上、無下にもできぬしの。まぁ、一旦は戦闘訓練に参加させてみて、様子を見てから処遇を決めても遅くはあるまいて」


「確かに、あの怪しげな名のスキルは、何か特別な意味を持っているかも知れませんからな。或いは、訓練していく過程で、新たな力に目覚めたりするような事も有るかも知れません」


 皇帝の方がトーレスに対してへりくだっているのは、皇帝よりも聖道教の最高司祭であるトーレスの方が権威的に上だからである。


 そして、あの者とは当然、翔哉の事であった。彼らの会話からしてしばらくの間は、明らかに無能と思われる翔哉も無下に扱われる心配はなさそうである。



 翌日になりまだ三日目にして、早くも召喚者達の戦闘訓練が始まったのだが、予想通りチート級な能力を持つクラスメイト達に、一般人並みの能力しかない翔哉が付いていけるはずも無かった。


 実力が大体、同じような者同士で二人一組になり、戦闘訓練が行われる事になったのだが、翔哉と組む事になったのはサッカー部でエースを張っていた、意外と光力が低かった彼、大空岬という事になる。


 元のスペックが高い上に、たった20とは言えその数値の分、補正がかかるのである。それでも十分チートなのは言うまでもない。


 元仲間であった陽キャグループの男子達が、落ちぶれた彼に向かってその状態を揶揄する。


「あれー? 元サッカー部エースの岬くんは、モブAの涼森と仲良しになったみたいだな~。御愁傷様~!」


 陽キャグループの連中に冷笑されながら、そんなフザけた事を言われた岬の怒りは、頂点に達していた。


「ちっ、何でこの俺がこんな奴と組む事になっちまったんだよ! そうだ。お前ぶっ殺せば、何処かで三人一組にしてもらえるかも知れないよな?」


 そんな恐ろしい事を言い出す岬。


 訓練の内容は木製の武器を使い、最初にある程度教わったお約束の型を駆使して、柔道や空手で言うところの乱取りや組手のような実戦形式を、いきなりやらされる感じであった。


 岬の天職は剣士で、翔哉の天職についてはよくわからない為、岬に付き合って、彼も剣を使う事になった。


 教官から開始の合図がかかると、岬は一礼もせずにいきなり翔哉の方に向かって行く。


 木製の剣とは言え、本気で殴られれば無傷では済まない。


 翔哉は咄嗟に、岬の振り下ろした一撃を剣で受けて見せたが、次の瞬間、彼が繰り出した前蹴りによって、5メートルくらい後方に吹き飛ばされてしまったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る