第15話 第一歩
「とても素晴らし仕上がりだ」
執務室で満足げな声を漏らし、カルデアを褒めると、カルデアは目に涙を浮かべ私を見つめる。
「どうしたのだ?」
「ラファエル様の元気なお姿を見れて嬉しいのです」
「すまなかった・・・昨日には熱は下がっていたのだが、長引いたせいで歩く体力がなかったのだ。私を信じてついて来てくれたのに、何も出来なかったな」
「そんな事はありません!ラファエル様が考案して準備なさってくれたから、完成する事ができたんです」
俯きながらポロポロと涙を流すカルデアに、側に寄るように伝えると、おずおずと私の側へと歩いてくる。
私は、カルデアの手を取り、にこりと微笑んだ。
「そもそも君がいなければ成り立たない事業だ。体が弱い分、作業などが手伝えないが、書類や経営には尽力を尽くせる。申し訳ないが、そうやって持ちつ持たれずでやっていこう」
その言葉に、カルデアは私の手をぎゅっと握り返し、何度も頷いた。
涙を拭う様にとハンカチを渡すと、カルデアは受け取りながらも、申し訳なそうな顔で口を開いた。
「ラファエル様に謝らないといけない事があるんです」
「謝らないといけない事?」
「はい・・・実は、あまり本邸には来ないように言われてましたが、ラファエル様が寝込んで三日目頃に、あまりにも心配で心配で、リアム様に懇願して見舞いに行かせてもらったんです」
「そうだったのか?」
「そのせいで、毎日メソメソして大変だったんです」
後ろに立っていたリアムが、めんどくさそうに口を挟んでくる。
「だって、あんなに苦しそうにしているラファエル様の姿を見たら、寝込む日にちが増えていけば行くほど不安だったんです」
「確かに今回は長引きましたが、僕は何度も疲れから来ているはずだから、ゆっくり療養すれば元気になると申し上げたんですが、作業中もずっとメソメソして正直、本当に鬱陶しかったです」
何事にも冷静なリアムが、怒ったような口調でぶつぶつと文句を垂れる。
「そうか。それで、あの報告なのか・・・」
私はそう言いながら、思い出してふふッと声を漏らし笑う。
「リアムが毎日、メソメソしていると言っていたぞ。カルデア、心配してくれるのはありがたいが、これも君が慣れてくれないと困る事の一つだ。最初に言った様に、これはいつもの事なのだ。だが、どんなに寝込んでも私はちゃんと目を覚ます。そして、こうやって元気になる。だから、あまり心配するでない。今回はリアムが付き添ってくれたが、そうでない時も必ず来る。その時が来たとして、カルデアがしっかりしてくれないと困るのだ。立ち上げた早々事業が潰れてはどうにもならないからな」
「・・・・はい。ですが、お身体は充分に労ってください。私を連れてきた責任はちゃんと取ってくださいね。私も強くなりますから・・・」
「そうだな・・・互いに約束しよう。自分を労わりながら最善を尽くすと」
微笑みながらそう言うと、カルデアもリアムも力強く頷いてくれた。
午後になるとソフィアが数人のメイドを連れ、別邸へ訪ねてきた。
仕上がったチョーカーを早速着けてもらう為だ。
メイド達には平民向けのレース網のチョーカーを、ソフィアには宝石の付いたチョーカーを渡す。
どれも、ネックレスの様に留める金具が付いている。
レースは通常の柄と色んな花模様の柄を作り、今回はメイド用なのもあって、あえて白は避け、メイド服を着ていても邪魔にならない薄めの色合いを準備した。
これは、互いの伯爵家のメイドに配る予定だ。
その為、数を膨大に用意しなくてはいけなかったが、ソフィアとリアムがそれぞれの邸宅から編み物が得意なメイドを連れてきて、一緒に制作をしてくれたようで何とか仕上がった。
ソフィアに用意されたのは、黒地の布に、首の中央に大きめな宝石をあしらった物と、白地に小さな宝石を散りばめた2種類の物を用意した。
大きめな宝石はソフィアの大きな愛くるしい瞳を表現した物で、本人の目の色と同じ薄いアメジストを使った。
そして、小さな宝石は全てクリスタルだ。
あの恋人同士の噂を広める為にも、まだ誰の色にも染められていないという意味合いを込めた。
ガルデアのデザインと、昔の記憶を辿った提案で作り上げた物だ。
経営云々は前世で、王宮勤めをしたノウハウがある。
そして、リアムとソフィアのサポートでこの体制は整えられる。
三人の笑顔を見つめながら、成功させるんだと私は心の中で強く誓った。
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