第4話 もう一つの数字
「もう、ラファエル様!リアムを叱ってやってください」
ソフィアの声に、僕は視線を本からソフィアへと向けると、頬を膨らまし怒っている姿が目に入る。
「どうした?」
「私が作ったお菓子を独り占めするんです!せっかくラファエル様の為に、甘さを控えたクッキーを焼いてきたのに、あんまりですわ」
そう言って、持ってきたバケットを私へと突き出す。
「いいえ。十分に甘いので、これは僕がいただきます」
そう言ってリアムがまたバケットに手を差し伸べるが、ソフィアが必死にバケットを守る。
「リアム、これはソフィアが私に作ってくれたものだ。全部食べるんじゃない」
「そうですわ」
「ですが、このクッキー甘いですよ?」
「どれ、一つ食べてみよう」
私はバケットの中に手を入れ、クッキーを一つ取ると、パリッと音を立てて口に入れる。
「ふむ、甘さはあるが、とても美味しいよ。ありがとう、ソフィア」
「ほんとうですか!?」
「あぁ、気に入った」
「ほら、見なさい。ラファエル様は食べてくださったわ」
「ラファエル様はお優しい方だから、ソフィア様に同情されているんです」
「まぁ!なんて生意気なの!?ラファエル様のご友人でなければクビにしてる所よ」
「えぇ。大事な友人ですので、こうして代わりに食べているのです」
2人のやりとりがおかしくて、私はふふッと笑みを溢し、またパリッと音を立ててクッキーを口にした。
ソフィアと顔合わせした後、私はすぐに父親に縁談を断った。
そして、病弱で先もわからない自分に、他の令嬢も当てがわないで欲しい。令嬢達が可哀想だともっともらしい理由を並べて、父を嗜めた。
隣にいた母は、目に涙を浮かべ、私を抱きしめてくれた。
2人の思いは知っている。
きっと、病弱からか気力がない私に、婚約者を当てがう事で生きる希望を見出して欲しいと思ったのだろう。
だが、先の結末を知っている私には、希望など見出せなかった・・・。
しばらくして、ソフィアから手紙が届く。
縁談は決まらなくても、私と友になりたいという言葉が綴られていた。
その言葉に、なかなか返事を返せずにいたが、私は友である道を選んだ。
恐らく帝都の学院に進まなければ、距離を置けば、ソフィアの恋を見守るという辛い思いはしないはずだ・・・そう思ったからだ。
だが、ソフィアは返事を返してから、三日と経たない内に、邸宅にやって来た。
最初は戸惑ったが、それでも彼女の持ち前の明るさに、私はこれもまた新しい変化だと自分に言い聞かせた。
それからこうして、一週間に一度は時間を作って一緒にお茶を嗜む機会が増え、もう三ヶ月が過ぎようとしていた。
「ゴホッ・・・」
私の咳で2人がこちらを振り返る。
「ラファエル様、お身体が冷えましたか?」
そう言ってリアムが暖かい紅茶を淹れてくれる。
「もうすぐあの日ですわ。体を冷やさないようにしなくては・・・」
ソフィアは自分の膝にかけていたショールを、私の肩にかけてくれる。
「何だか、老人になった気分だな・・・ゴホッゴホッ・・」
私は苦笑いしながらも、次々と出てくる咳に自然と胸元を掴む。
「ソフィア様、今日はもうお開きにしましょう」
「そうですわね。リアム、私の見送りはいいから、すぐにラファエル様をお部屋に連れてってください」
「ソフィア・・ゴホッ・・・見送りだけはさせてくれないか?ゴホッゴホッ」
「何を言ってるんですの?ラファエル様のお体の方が大事ですわ。また、良くなった頃に来ますから・・・・」
「すまない・・・」
私はそう伝えると、リアムに付き添われて部屋へと向かった。
「もうそんな日になるのか・・・?」
部屋のベットに横たわりながら、私はぽそりと呟く。
「えぇ・・・二日後が17日になります」
「そうか・・・ここ最近、毎日が楽しくてつい、忘れてしまう」
被せてもらった布団から手を出すと、自分の手をおでこに当てる。
やはり、熱を帯びてきていた。
今世になってから、毎月決まって17日前後は原因不明の高熱が出る。
長引く時もあれば、17日を過ぎるとピタリと治ってしまう時もある。
「医者を呼んできます」
リアムはそう言い残し、急足で部屋を出ていった。
その後ろ姿を見ながら、そろそろ訪ねてもいいのではという思いが過ぎる。
回帰を繰り返してだんだんと明白になってきたのは、この呪いは確実に魔女が関係しているという事だった。
だから、私は魔女に関するあらゆる書物を読み漁り、買い集めた。
そして自らウィッカであると言ったリアム・・・
森を追い出され、1人彷徨っていたリアムに聞いて良いものかずっと悩んでいた。
記憶もまだ曖昧だ。
だが、リアムは定期的に森に行っている。
もしかしたら、この呪いについて何か知っているのかもしれない。
そう期待する反面、記憶が曖昧なリアムが自らをウィッカだと思い込んでいるだけかもしれないという疑惑もあった。
それを証明するものは何もないからだ。
何より、呪いの事を知って怖がられるのも嫌だった。
それが、未だに聞けずにいた原因でもあった。
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