変わらぬ朝に

私の彼は朝が弱い


特に冬なんかは仕事がある日でもアラームを最低三回は自分でセットし直して5分刻みにまどろみを延長する。


「8時には家でないといけないんじゃないの?」っと声を掛けても彼は「あー」とか「うーん」っと言って毛布に潜り込むのだ。


一度などは無理に毛布をひっぺがそうとすると毛を逆立てた猫のような唸りを上げて毛布にしがみつくもんだから、それ以来一度は声を掛けるけど放っておくようにしている。


そのくせ起きて準備をしていると「やばやばい!」とバタバタと出て行くのだからどうしようもない。


日常とは得てしてそう言うものなんだろう。

特別そしてそれが当たり前のように繰り返されるから、私達は安心して日々を過ごせるのかもしれない。


今日の彼も朝、私が起きて初めに見る、いつもと変わらない寝顔をしている。


力の抜けた、それでいて安らかな少し微笑んだような、幸せそうな顔。


いつもの、少し憎らしいような、そんな彼の顔をそっと指で撫でる。


思わぬ冷たい感触に、途端に自分の心臓が真冬の誰もいない雪原に突き落とされたように締め付けられ、一瞬息が出来なくなる。


それは、


そこにあったのは、


私が愛した、


何よりも大切だった彼の、


不在の実在だった。


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