第4話『イディオシンクラシー』
「……『赤』だ。場所は君ヶ浜海岸周辺だ」
『君ヶ浜海岸』は千葉県の銚子市の海岸である。
「場所が分かったならもう支度するぞ」
猫神は急ぎ足でベランダから出るネムに着いていった。
「でもネムさん、そんなだいたい50㎞も離れたところまでどうやって行くんですか?」
「なんだ?研究所の車両があったじゃないか。たしか完全自動運転のやつ」
ネムが博士の方をチラッと見つめる。
「……コホン、あれはだな……」
何かを察したネムは目を細めた。博士が話を続ける。
「……この前の実験で木っ端微塵になった」
博士以外の3人が手で目元を覆った。
ネムはため息をついたあと、今度は猫神の方に話しかける。
「そうだなぁ……お前、乗り物を作れないか?」
猫神はジト目で苦笑いしながら言い返した。
「いやいや……普通に無理ですよ、仕組み知らないですから」
「うん、それはそうだな。どうするかぁ」
すると、少し反省して黙っていた博士が口を開いた。
「大丈夫だ、一応新しい車は手配してある」
「なんだよ!あるなら早く言ってくればいいじゃんか!」
「だが……」
「だが?」
博士が数秒ほど黙ってから喋った。
「それが自動運転車用
………………
「運転は……」
「「あっ……」」
3人は同時に顔を見合わせた。
「私は研究所に残ってないといけないんだがなぁ」
博士はメガネを位置を直しながらちゃっかり断った。
「じ、自分は未成年なので……」
「ぼ、ボクもです……」
2人はネムの方を向く。
「えっいや……俺免許持ってないぞ……」
そーっと後ろに下がるネムを見て、猫神とゼータはジーッと見つめた。
――君ヶ浜海岸にて……
………………
…………
……
「ふわーぁ……今日は思ったより釣れんな」
海岸沿いで一人の狐人が釣りをしていた。
「これなら荒野の湖のほうが良かったかなー、まぁ今日はそろそろ切り上げよっと……おっ?」
当たりの予感を感じると、一気に釣り竿を引き上げた。
「ほいっ!……ってなんだ?これ」
狐人は魚ではなく謎の物体、認識が曖昧だが、まるでコアのようなものを釣り上げた。
「まぁ、とりあえず持って帰ろっと」
風で海岸の砂浜が吹き上げられながら、狐人はフードも被ってその場から立ち去った。
「はぁ〜なんでこんなことに……」
人気の無い街を走る一台の車からぼやきが聞こえる。
「仕方ないじゃないですか、ネムさんが最年長だから……」
「対向車はいないので安心して道路の真ん中突っ切れますね!」
助手席の猫神と後方座席のゼータがネムを慰めていた。猫神は久しぶりの車で非常にワクワクしている様子である。
ネムはどうやら徹夜で『車の運転術』について書かれた参考書に目を通していたらしい。実際、科学が発展していたモノクロイベント前の世界では、ほとんどが自動運転になっていて一般人が免許取る必要性すらないのだ。
(徹夜で眠いぜ……いつものことだけど)
今回の作戦ではネムと猫神が海岸に行って状況の把握とコアの回収、ゼータは車の中から周囲の察知などの担当である。
「ここから君ヶ浜までどのくらいかかるん?」
猫神が首を少し傾けながら後方のゼータに問いかけると、透明液晶のPCにカタカタと入力して答えた。
「そうだね、大体3時間ぐらいかな」
「ゲェ、3時間かよ……」
ネムはハンドルを握りながら弱音を吐いた。
しばらく走っていると、荒野のような場所に出た。これは色消失現象のせいか、はたまた地球温暖化のせいか。どちらにせよこの国に荒野が出来る日が来るとは思わなかっただろう。
しばらく続いた沈黙を断つようにネムが話し出す。
「そういえば、6番の『イデクラ』ってなんだっけ?」
「うん?ボクは、『IT』を操ることです」
――これは専門用語の説明をしておく必要がある。
【イディオシンクラシー(Idiosyncrasy)】
特異性、またはその特異体質。通称『イデクラ』
21世紀頃から見られる生物の特殊能力。実際は遺伝子の突然変異によって発現したものだが、このような突然変異が世界各地、高頻度、長期間にて起こったため、世界の歴史文明が変わったともいえる。
その特異性は様々で炎や水を操るなど基本的で分かりやすい能力から、『機械の内部を操る』『[編集済]』など複雑なものまで存在する。しかし、共通して『制限』や『条件』というものがあり、これらは影響力の大きいイデクラに多い傾向である。現在、イデクラを所持している人類は世界人口の7割ほどとされている。また、イデクラの出現はバラバラであり、生まれた時から持つ先天性のものや、後天性で成人後に出現する晩成型も存在する。
普通イデクラは重複しないが、ひとつ例外があり、それが【イディオシンクラシー・クリーチャー】
【イディオシンクラシー・クリーチャー(Idiosyncrasy creature)】
突然変異などによって人類と他種の生物の遺伝子情報が入り混じったもの。通称「イデクリ」
これらはただのイデクラを持った生物とは違う。例えば、人と猫が掛け合わさった場合、人と猫の特徴が見られる姿、身体能力などが発現する。イデクリは、父母からの代々の受け継がれとして見られることが多い。
イデクリは、例外として他のイデクラと重複しない。つまり、イデクリは高い身体能力とは別に特殊能力を持つことが可能である。身近に例えると、猫神ファミリーだ。
「で猫神は、なんかの生成ってやつだろ?」
「『創造』……エネルギー物質生成です。ネムさんはなんかイデクラは持ってないんですか?」
「いやぁ……分からないんだ、多分持ってないだろ〜」
「それは分かりませんよ。何かが見つかるといいですね。まぁでも、博士の道具のスキルでもネムさんは充分強いと思いますよ」
猫神がネムを励ます。
「そうだといいんだが……うん?」
ネムは車を停車し、その言動に引かれて二人が前方を見た。
「うわ、橋が壊れて川を渡れそうにないなぁ……他のルートを探してみます」
ゼータがまたキーボードを操作し始める
「猫神、イデクラで橋を直せないか?」
「橋の全体は修復出来るかもしれないけど、ちょっと車を支えられなさそうですね……」
ネムと猫神は下を向いて思考を巡らせると、ゼータが喋り出した。
「あっち側に橋があるようですね、ただ……」
「ただ……?」
「鉄道橋……」
「マジかよ……」
ネムが天を仰ぐ。だが、猫神はひらめくように口を開いた。
「線路の上を走ればいいんじゃないですか?車で」
「はっ!?」
「確かに猫神さんの言う通りだね、電車は来ないしそこを通りましょ」
「はっ!?」
ネムは左右往復に顔を振ってからまた天を仰ぐ。言葉に出来なかった。
…………
「この橋……すぐにも崩れそうですね……」
「ネムさんの運転技術に任せるしかないね」
「よし行くぞ……」
ネムはアクセルを全開にして、鉄道橋を一気に突破しようする。しかし、橋が突然揺れ始め、さらに……
「まずい、タイヤがレールの板に挟まったかもしれん!」
車体が傾き始める。このままだと横転して川に落ちる可能性も考えられた。
「ネムさん!そのままアクセル踏んでてください!」
猫神はイデクラでタイヤの下に物体を生成し、タイヤをレールの板から外した。すると橋が少し揺れながらも車は順調に進み、川を越えた。
「焦った……助かった猫神ぃ……」
「ふぅ……危ないところでしたぁ……」
「ちょっとあそこに見える街まで行って一旦休憩するか」
三人は息を切らせながらも、ネムは車を近くの街まで走らせた。
【あとがき】
第4話を読んでくださりありがとうございます♪かなり長い説明文が出てきましたが大丈夫ですかね…イデクラはこの物語上で大事な役割になってくると思います。次回もぜひぜひ!(by 猫神くん)
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