26 失敗作のルナとは、だ・れ・だ
茶薔薇学園に行ったあとも、順調だった。
火曜から木曜日は学業優先。
毎日、朝になると梓の濃厚なキスで起こされた。やはり前世の妹の顔でやられると心臓に悪い。
金曜日、土曜日、日曜日は、リーフカフェで働いた。やはり店は大盛況。葉子母さんは、やり手なんだと感心していた。
土曜日の深夜、ルナと静かな公園。前世のようで胸が熱くなった。
夜中は、筋トレとランニング。ギターの練習も取り入れた。
明けて5月27日の月曜日。
ルナと待ち合わせて登校した。
女性の二股状態。前世では非常識。
しかし勇太は、前世で妹の梓のために死を受け入れた男。順応力は鍛えられている。
複数の彼女持ち男子は周囲にもちらほらいる。それが当たり前で、悪意の目もない。
さらに梓とルナが連絡を取り合ってくれて、女性同士の関係を滑らかにしてくれている。
早くも、勇太は状況に慣れつつある。
事件は登校後に起きた。ルナの教室の前まで来た。
「ルナ、ハッピーバースデー」
「勇太君、ありがとう。すごく嬉しい」
「放課後に17歳になったお祝いさせてくれよな」
「うん・・」
「ははは、じゃあ、また休み時間な」
ルナが返事を返そうとすると、甲高い男の声が響いた。
「なんだ、ルナに男が出来たって本当かよー!」
170センチの勇太と同じくらいの身長の男がいた。
髪を茶色に染めたやせ形。嫌らしい眼をしている。低身長の美女3人を引き連れている。
声がキンキンする。
ルナが言ってた、ルナを嘘コクで引っかけようとした男だ。
「3組の坂元だけど、確か才賀君だよね」
勇太は今、普通の勇太だ。
横にルナという、優先順位が高い人間と一緒にいる。
プラスして、この男子も取り巻き女子も、前世で世話になった顔がない。
つまり負い目がない。
「僕は4組の才賀ヨータローだ。お前、痩せたからって、いい気になるなよ。この嫌われ者が」
「ははは、そうだね。嫌われものだもんね、俺って」
ヨータローは、マウント男子。
女子には強気だが、やりすぎは禁物。悪目立ちすると、男子であってもパラレル勇太のように女子からシカトを食らう。
だから相手を選ぶ。現在はルナが的だ。
ルナにもクラスに友達はいる。
しかしルナは、他の女子に泣きつかないタイプ。そういう性質を考えて、狙って悪口を言い続けてきた。
そこに持ってきて、最近は人が変わったように温厚になった勇太がセットでいる。
ここぞとばかりに、侮られてきた男にモノを申して、自分の株を上げようとしている。
「陰キャが少し校外でちやほやされて、登校回数を増やしたか」
「まあ、あのまんまじゃ不味いから、せめて学業くらい真面目にやろうかと思い直してね」
「そのうち、化けの皮を剥がしてやる」
「そうならないように、努力するよ。ははは」
頭をかきはじめた勇太。この余裕ありげな態度はヨータローには予想外。
女子生徒が集まってきたが、自分の方があしらわれている気分だ。
だから、NGワードを発してしまった。
「嫌われ者が、そこのモブ子のルナにプロポーズして、何がしてえんだ」
勇太は、転生したときに怪我していた、左側頭部に鈍痛を感じた。
「おい、才賀、ちょっと待て・・」
あははは、おほほ、と才賀と取り巻き3人と共に笑いだした。
勇太の雰囲気が変わった。
「・・おい、貴様ら。や・め・・ろっ!」
響く重低音。
そして、重心の位置が変わる勇太。鉤爪の形に曲げられた人差し指と中指。
ヨータローの取り巻き3人は、瞬時に何かが切り替わった勇太から、危険信号を受け取った。
ギャラリー女子20人もドキッとした。ちょうど通りがかった勇太の担任・佳央理先生も目を見張った。
誰よりも、ルナの胸が熱くなった。
ヨータローも何か感じたが、ギャラリーの前で止まらなくなった。
「その双子の失敗作とヤッて・・」
言い終われなかった。
ゴンッと、音がした。ヨータローは自分の頭が、廊下にくっついているのに気付いた。
仰向けにされていた。じわじわと後頭部が痛み出した。
勇太は反射的に動いていた。まず、ヨータローに足払いして倒した。
そして左手で長い髪をつかんで床に張り付けている。
「おい、双子の失敗作って、だ・れ・だ」
さっき以上に低く響く声。
「俺のルナに・・謝れ」
至近距離にいる女子は漏らしそうになっていた。
恐怖と快感の両方で。
ギャラリー女子達も、怖さを感じながら性的興奮が高まっていた。
男女比1対1の四百年前までは女を巡って戦うこともあったという『雄』の本能。
それを勇太の中に見た。
佳央理先生も止めることを忘れ、思わず股間を押さえてしまった。
真ん中が濡れたのか、前から漏らしたのか分からないが、何かがパンツの中に染みた。
生徒はスカートだけど、佳央理先生だけはベージュでタイトなパンツスタイルだ。
下手をすると染みがバレる。
女神が勇太のモテ度が増すように、ほんの少し声にも細工した。
その効果が悪く現れた。
短慮な女神は、深く考えていなかった。
勇太が怒りと共に、声を響かせるとは想像していなかった。
それに勇太も、パラレル勇太も、絡んできた4人に迷惑もかけていない。接点もない。
引け目がない、素の勇太がルナのために怒りを発している。
ヨータローはというと・・
自分の髪を左手で鷲掴みにして、廊下の床に押し付ける勇太の右腕を見ている。
その右拳が自分の顔面に叩き込まれるために、ゆっくりと持ち上げられていく。
死ぬ?
じょろじょろ、じょろとヨータローの股間から音がして、床も濡れ始めた。
「やめて勇太、やめて!」
固まる生徒達の間で、1人だけ動けたルナが、両手で勇太の右腕をつかんだ。
勇太は止まった。しかし、興奮しすぎたのか鼻血が出た。そして左側頭部を押さえた。
「勇太君、保健室に・・」
「あ、ああ」
勇太は近付いてきたルナの肩をしっかり抱いて、自分に引き寄せた。
女子がざわめいた。
ヨータローは、まだ諦めていない。
「坂元、動画もリアルタイムで流れている。訴えてやる」
「・・いいぞ俺も婚約者への名誉毀損で訴える。それにお前、証拠を開示するたびに、てめえのお漏らしシーンもセットだからな」
「そ、そうだよね。私の友達も動画を撮ったし、都合のいい編集はさせない」
ヨータローは、ようやく気付いて自分の股間を見た。
撮影していたルナの友人が、笑いながら大きな声を出した。
「ぷぷっ、ごめんなさい、才賀君。あなたが勇太君に恐怖して漏らすとこ、実況でネットに流れちゃった。シミもバッチリ映っちゃた」
「あああああ!」
絶叫しながら、ヨータローは逃げていった。
その後、才賀ヨータローの周りには3人の取り巻きだけが残った。3人はヨータローをシェアして、それなりに楽しく過ごした。
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