9 私は標準的な肉食乙女

梓の親友カリンは今、戸惑っている。


以下、カリン。


世界の男女比は1対12です。


さらに精子提供システムができて、男子が積極的に女性に関わらなくなった近年。


男性を必要としないと思っている女性も増えているといいます。


それでも私達は男女の恋愛に、あこがれがあります。


実際に少女漫画やドラマでは、男女比1対1の世界観が主流です。


その中ではイケメン男子2人が主人公女子を好きになって告白する。そして女子が片方の男子を振る。


そんな、もったいないストーリーが展開されます。


今のランキングトップは主人公女子が男子3人とバンドを組む話。


男子3人全員に主人公女性が告白されます。そして全員と付き合って部室でパンツを脱いで4Pをします。


そんな夢物語が、実録の百合ハーレム恋愛の漫画より断然売れています。


R18? なんのことですか。


私は今、想像してなかったワンシーンの中にいます。


カフェ店員の格好をして、胸元のボタンを2つ空けた男子に手を引かれ、人混みの中を歩いています。


人垣が両側に分かれ、2人で、みんなが注目する中、ゆっくりと前に進んでいます。


通っている高校で評判最悪の勇太なのに、4日前に会ったときと印象がまったく違います。


ハンサムではないのですが・・。エロ可愛い。すごくいい匂いもします。


4日前、この勇太にお気に入りのペンケースを壊されました。


親友の梓の従兄弟なので、梓のために我慢してたら、涙が出ました。


それを見た梓が、お詫びにバイト先のカフェで奢ってくれると言いました。


無視もできないし、土曜日の夕方に足を向けました。


店に入ると、見知らぬ男性店員が話かけてきました。


よく見ると根暗勇太です。最悪だと思ったのですが、何だか格好いい。


勇太は肥満体と思ったのに、わずか4日間見ないうちに中肉中背の体型。


エロイ着こなしで、女性客のほとんどが彼を見ています。


いきなり、勇太に手をつかまれました。周囲の30人の女性から、熱い視線を感じます。


梓は鬼の形相で私を睨んでいます。


続いて、デパートのエレベーター前。8階の雑貨屋に向かうそうです。


15人乗りのエレベーター前で待っていると、女性が増えてきました。


スマホで撮影されています。


まあ、これは防犯上、普通の光景ですね。


歴史で習いますよ。常識です。


江戸初期に男女比が1対12になって、いきなり男子誘拐が江戸幕府の将軍・徳川家光子より先の為政者を悩ませました。


平成初期までは、男子を持つ家が警備を雇ったりと対策を講じました。


それでも犯罪は減らず、日本の山奥で監禁された男性が150人の子供を作らされる事件も起きました。


それを大きく改善させたのがスマホ技術です。


GPS機能が発達した男性専用のスマホには『緊急SOS』の機能が付いています。


また動画撮影が誘拐現場を何度も撮影し、事件の早期解決に役立ちました。


犯人は、即射殺です。え、中学で習いますよ。


最初は男子が撮影を嫌がっていましたが、安全な外出につながるため、許容する傾向です。


どうしても嫌な人は引きこもっています。



すごく綺麗な大人の女性が勇太に声をかけました。

「お兄さん、近くのカフェの人だよね。ご飯でも行くなら一緒しない」


すると勇太が、やんわりと断りました。


「俺が間抜けだから、彼女を泣かせて・・。許してもらえるように、2人でプレゼントを買いに行くとこなんです」


どよめきました。

そして私に注目が集まりました。


エレベーターの中に入ると、いきなり奥に押し込まれて勇太と密着です。


すると、勇太に肩を抱かれ、引き寄せられました。


「ごめんね。痛くないよな」


大丈夫ではありません。何だか心地良い響きにぼ~っとしてきます。


もう心の中はパニックです。そして濡れています。スカートで良かった。


ん? 私も普通にヤりたい盛りですよ。もうすぐ16歳。婚姻可能な15は越えています。女性経験なら3人ありますし。


エレベーターから降りると、再び手を引かれました。


雑貨屋は混んでいて、またも注目を浴びています。恥ずかしくなりました。


「勇太、離しなさいよ・・」


「嫌だよ。離したら、小さい頃のカリンみたいに逃げ回るだろ」


勇太が笑顔で答えます。


8歳までは梓のとこに来た勇太と遊んでいました。そのときのこと、覚えてたんだ・・


なんだろう、この変わりよう。まさか私のこと・・。ぐへへ。


約束通りにペンケースを選んでくれました。え、ポーチまで?


レジに行ったら、勇太がお金を出しています。ペンケースは弁償で、ポーチがプレゼントだそうです。


男性からプレゼントをもらえる女性は、120人に1人だと言われている現代で。


そのときにクラスメイト3人が雑貨屋に近づいて来るのが見えました。


偶然ですが、まずいです。


この人は勇太に見えないけど、やっぱり評判が悪い勇太です。小心者の私は、つい余計なことを口走ってしまいました。


「物を買ってもらったくらいじゃ、ごまかされない」


やってしまったと思いました。


「分かってる。ポーチは、あくまでもプレゼント。学校で声をかけて迷惑はかけない」


「あ、勇太、そうじゃなくて・・」

クラスメイトが近づいてきて、私、というか目立っている勇太に気付きました。


勇太は、彼女達に話しかけられて、前に怒鳴ったことを謝っていました。


そしてリーフカフェに帰っていきました。


私が勇太にプレゼントをもらうのを見たクラスメイトから質問攻めです。


「なんで梓の馬鹿従兄が、あんなに変わったの」という内容。


私にも分かりません。


梓から『ユウ兄ちゃんが頭を打ってから変わった』とLIMEをもらっていました。


馬鹿が怪我をして、少し反省したかと思ったのに、それどころじゃありません。


顔のベースは間違いなく勇太。


なのに、性格どころか、エロさも10段階上がっています。


仲良くなって、押し倒したいという衝動に駆られたのに・・


誤解を解いて、どこかに連れ込もうと思ったのに・・



こいつら邪魔!



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