第四章――【踊る狗と猫】

決行の夜

 マジックパーティが行われるのは、ホテルの三十九階、特別パーティ会場だ。


 現場に突入するには、まず上層階に潜りこむ必要がある。



『マズロア・ホテル』の上層階へ行くためには、ホテルの裏玄関から通じる専用エレベーターを使わなければならない。


 しかし裏手の警備は厳重だ。

 二人は403号室の窓からずっと監視をしていたが、毎日24時間、常に警備員が立っていた。

 監視カメラが数台設置されていることも確認している。


 たとえ俊敏な猫であろうとも、バレずに忍び込むのは不可能だろう。



 では、どうやって潜入するのか。その答えはシィナがひらめいた。

「非常階段をつかえばいいんだよ」と。



 部屋を出て廊下を最奥さいおうまで進むと、非常出口につきあたる。


 非常事態になったらすぐ逃げ出せるように設置されているわけなので、当然、だれでも内側から開錠して出ることができた。


 周囲をさくに覆われた、折り返し型の階段で、地上から屋上までをつないでいる。

 四階の非常出口から階段に出て、そのまま屋上まで上ることが可能だ。



「パーティ会場は三十九階だもん。屋上からいけばすぐだよ」

「たしかにそうだな。問題は、非常階段はビルの外側に設置されてるから、上ってる最中は外から丸見えだということだが……」


「夜なら大丈夫でしょ。足音にさえ気をつければ、だれにも気付かれずに屋上にいけるよ」

「よし。じゃあ陽が落ちて暗くなってから行動開始だ」



 突入のタイミングをうかがうにも、その頃合いがちょうどいいだろう。


 上層階の特別パーティは、VIP客を迎えて開かれる。

 それ相応に格式高いパーティとしておこなわれるはずだ。


 まずは晩餐ばんさん会がもよおされたあと、しばしの歓談かんだんタイムなどを経て、

 やがて夜が更けはじめた頃に、魔法薬が用意される。


 そうして厳粛げんしゅくな雰囲気のなか、エルフたちのマジックパーティが開始されるのだ。



「あたしたちは、暗がりにまぎれつつ非常階段で屋上までのぼる。そこから上層階にこっそり忍びこむんだ。

きっとその頃には、連中が食後のトリップをキメはじめるぞ。そこへ殴り込んでいって、はちゃめちゃに暴れまわってやるのさ。

にゃはは、偉そうなツラしたエルフどもをまとめて蹴散らせるんだ、今から胸が躍るね」


「あんまり気を抜くなよ。敵はマジックジャンキーなんだぞ」


「ここでつくられてるのは、雷属性の魔法薬でしょ? 連中が魔法を発現してた場合、つかってくるのは雷撃魔法だ。

……それなら大丈夫。せいぜい付け焼刃の雷撃なんか、避けるのはカンタンだからね」


 シィナはそう言って、自信満々に胸を張ってみせる。

 レオンがせっかく忠告しても、彼女には微塵も響かないのだ。


 まあ、それは今に始まったことではない。レオンは、それ以上はなにも言わなかった。



 今回の作戦の肝は、マジックパーティの現場をめちゃくちゃにすること。

 とにかく暴れまわればよい。

 その点においては、レオンにも不安はない。


 シィナの暴れっぷりを、レオンはよく知っている。

 良いか悪いか、そこには全幅の信頼が置けた。

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