アドリア捜査2日目 疑問点

 昨日とおなじく、街の調査に出る。


 アドリアは、どの区画も背の高いビルだらけだ。


 一見すると大都市の様相だが、しかしビル群のすぐそばには鬱蒼うっそうとした森があった。


 きらびやかな都市から一転、森閑しんかんな樹海へと景色が切り替わる。

 隙間なく林立する木々はまるで都市を囲う壁のようであり、囲郭いかく都市と差異ない。



「なんかこう、もっと開けた場所はないのかにゃ?」


 ビル群か木群か、とにかく息の詰まるような場所ばかり。

 もっと空間が広くて開放的な場所はないのかと、うんざりした様子のシィナ。



 都市の外周に沿って歩いてみる。片側に街の喧騒けんそう、もう片側に森の静かさを感じながら歩くのは不思議な心地だった。


 街の外周はせいぜい30キロ程度で、体力のある二人なら、半日もあれば一周できた。


 その道中、森のなかへとつづく道路はまったく見当たらなかった。

 やはりアドリアは、街の範囲外の自然には絶対に手を加えないと定めているようだ。


 街と外界を結ぶのは、たった一本の鉄道路線のみ。


 人も物資も、アドリアを出入りするためにはあの鉄道を利用しなければならないのだ。



「まるで絶海の孤島みたいな街だな……」と、レオンがつぶやく。

「はは、言えてるにゃ。だから灯台があるってか」




 ***




 昨日は街の中、今日は街の周囲。

 アドリアは大きな街ではないので、二日間ですでに街を踏破できたといえる。しかし捜査の進展はない。


 それどころか、疑問ばかりが膨らんだ。


 二日間の調査で分かったのは、この街がいかに狭く、閉鎖的かということ。



「この街は、狭い敷地内にエルフたちが密集して暮らしている。どこを歩いても、常にだれかとすれ違うぐらいだ。

闇取引をおこなえるような場所はないし、魔法薬密売人が潜んでいるなんて想像できない」


 レオンが頭を掻きながら言う。


 この街には、人気のない路地裏や人目につかない場所がまったくないのだ。

 これだけ人口が密集している中で、こっそり魔法薬を造って出荷するなんて、不可能に思えた。




 さらにシィナがつづける。


「っていうかそもそも、この街には魔法草を育てられるような場所がどこにもないよね」


 魔法草の栽培自体は、さほど難しくはない。

 苗さえあれば、素人がベランダ菜園で育てることも可能である(もちろん違法だが)。


 ただし、魔法を育てるために絶対に外せない条件がある。

 それは日光。

 魔法草は太陽の光がしっかり当たる環境でなければ育たない。



「この街はどこもかしこも狭っちいし、ずっとビル影とか木陰が差してる。しっかり日光が当たるような場所がないよ」



 アドリアが魔法薬の出どころに違いないと確信をもって、調査に乗り出した。


 しかしいざ調べてみれば、

 魔法薬を大々的につくり出すことも、

 魔法草をしっかり育てることも、

 どちらも否定的な要素ばかりが見えてくる。


 二人の確信はすっかり揺らいでしまっていた。

 アドリア潜入捜査は、二日目にしてすでに暗雲が立ちこめている。

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