第20話:レナセールと一緒なら
扉の前に着くと、エリカちゃんが怯えていた。
魔虫が怖いのだろうか。
レナセールが抱きかかえ、ぎゅっと視線を逸らすかのように、後ろ向きになった。
「こらエリカ。本当にすいません」
「いえ大丈夫ですよ。ごめんね、少しお邪魔するね」
中は豪華絢爛で、俺の家と比べると雲泥の差だった。
豪華なベッドに絵画、子供が一人で眠るには大きすぎるくらいだ。
エルミックさんが誘導してくれたので中に入り、窓をのぞくと、かなりの数の魔虫が発生していた。
ぶんぶんと耳障りで、今にも中に入ってきそうだ。
草木が伸びているところをみると、裏庭は手付かずらしい。
「使用人に頼んで害虫駆除をしてもダメだったんです。色々試したんですがダメで、何とかしたいなと。妹も……怖がっているので」
不安げに妹を眺める。レナセールが抱きかかえているが、近寄るのも嫌らしい。
「わかりました。確実な事は言えませんが、早いうちに何度かためしてみます」
「本当ですか? 助かります。それと、依頼は
俺は、ギルドを通して手間賃は必要ないと伝えていた。
今回は繋がりが欲しい。失敗したらそれまでにしておく。
「もちろんですよ。では明日中にはまたお伺いしますので」
「わかりました。ありがとうございます。エリカ、ほら」
「……はい」
レナセールの手から離れたエリカちゃんは、とても悲し気だった。
帰り際、驚いた事にエルミックさんは、お土産にクッキーの袋をレナセールに手渡してくれた。
「え、こ、こんなの受け取れませんよ!?」
「美味しそうに召し上がってらっしゃったので、良ければご自宅でお食べください。高価なものではありませんから」
「で、でも――私なんかが……」
「ありがとうございます。レナセールは甘いものが好きなんですよ。いただきますね」
「はい。また明日お待ちしておりますね」
ペコリと頭を下げるエルミックさん。
初めは金とコネ目当てだったが、今では本当に力になりたいと思っている。
「貴族でも……いい人がいるんですね」
帰り際、クッキーを眺めながら言ったレナセールの言葉が、心に残った。
翌日、魔除けのレシピをいくつか作って散布した。
これで消えてほしいと願ったが、そう上手くはいかないだろう。
だが、予想より効果が高かったらしく、ピタリと止んでくれたらしい。
様子見をしてから報酬をもらう話にしたが、残念なことに三日後、ふたたび魔虫が現れてしまった。
怯えるエリカちゃんを思い出しながら、裏庭で魔虫を観察していると、地面の
「……そういうことか」
レナセールにエリカちゃんを任せて、俺はエルミックさんと二人きりになった。
そして――。
「……そういうことだったんですね。すべてが繋がりました」
「あまり叱らないでやってください。そう言うこともあると思います」
「……あの子、怯えてたんじゃなくて、バレるのが怖かったのね……まったく」
裏庭には、食事の食べ残しがあった。
おそらくだが、エリカちゃんが嫌いな物を投げ捨てていたのだろう。
そこで魔虫が発生した。散布が利かなかったのは、新たな食べ残しを投下したからだ。
しかし、俺は、根本の問題はそこではないと思っていた。
それは、レナセールから教えてもらっていた。
「差し出がましい事ですが、お話してもいいでしょうか」
「はい? なんでしょうか?」
「レナセールから聞いたのですが、エリカちゃんはご両親がいなくてとても寂しいみたいです。食事が嫌いなのではなく、喉が通らなく、食べるのが辛いみたいですよ」
「それを……エリカが?」
「はい。レナセールはとても不思議な子で、人の心に気づくのが上手なんです。気づけば何でも話してしまうんですよ。どうか、叱らないでやってください」
「……わかりました。ありがとうございます」
「いえ、散布は何度かまた来ますので」
それから七日後、魔虫は現れていなかった。
応接間で待機していると、レナセールが心配そうにしていた。
「怒られてないでしょうか。私が付け口しましたし……」
「大丈夫だ。レナセールのおかげで、きっとよくなってる」
「だったら良いのですが」
少しするとエルミックさんとエリカちゃんが現れた。
ペコリと頭を下げ、二人とも笑顔な所を見ると、どうやら関係は良好らしい。
「この度は本当にありがとうございました。ほら、エリカ」
「ご、ごめんなさい。ありがとうございました」
「とんでもない。こちらも勉強になりました。魔虫の対策は初めてだったので」
何とかしたいという強い気持ちのおかげか、すぐに効果の強いものを作りあげることができた。
改良すれば、貴族相手に魔虫の商売もできるだろう。
「レナセールさんもありがとうございました。両親に連絡し、来週には帰って来てくれるみたいです」
「良かったね、エリカちゃん」
「えへへ、お姉ちゃんありがとう」
金貨を一枚いただき依頼は終わったが、俺にはまだやることがある。
彼女なら信頼できる。そう確信した俺は、できるだけ内密にしてほしいと前置きし、フェニックスの尾を探していること伝えた。
突然の事で驚いていたが、ご両親なら知っているだろうと後日教えてくれることになった。
黙っている理由を話そうと思ったが、彼女は賢く、すぐに理解してくれた。
「失礼だと思い話しませんでしたが、実は魔虫対策に来られた方はベルクさんが初めてじゃないんですよ。でも、あなたみたいに丁寧で優しい人はいませんでした。皆さん手間賃だけ頂いて帰る方ばかりでした。もちろん問題はこちらにあったのですが、あなたみたいに仕事もできて誠実な方とは、私も仲良くしたいです。――ね、エリカ」
「うん。レナセールお姉ちゃん、大好き」
貴族は苦手だったが、彼女たちのような人もいる。
無差別に恨む事だけは避けよう。
そして最後に、面白い話を聞いた。
もうすぐ、オストラバ王都で便利な物作りの大会のようなものがあるらしい。
一位になると王家の献上品となり、作り手の知名度が格段に上がるとのおkとだ。
それも全て、フェニックスの尾を手に入れた後のことを考えてくれたのだろう。
「いい人たちでしたね」
「だな。いい話も聞けた。大会について少し対策を練ってみるか」
「ベルク様ならきっと優勝しますよ! 私もお手伝いしますので!」
「だが前回の優勝者は世界でも有名な錬金術師だったらしい。そう上手くはいかないだろう」
「そんなことないですよ。ベルク様は凄いですから」
彼女の褒め言葉は、いつも俺の心をくすぐってくれる。
寒い夜も、暑い夜も、面倒な事も、レナセールと一緒なら楽しめる。
そのとき、彼女がぎゅっと俺の腕を掴んだ。
「最近忙しくてずっと我慢してました。今日はたっぷり可愛がってくださいね。それに……やきもちも妬いてましたが言いませんでした。エルミックさんと二人きりになったときは、凄く寂しかったです」
「みたいだな。わかってたよ」
「えへへ、嬉しいです」
頭を撫でると、彼女は上目遣いで嬉しそうに微笑んだ。
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