第14話:幸運の猫、妖艶な猫

「試しに侵入してみる。音が鳴るか確かめてくれ」

「わかりました」


 家の外に出た後、一つしかない窓に手を掛ける。

 それからガタガタと窓を揺さぶった。


 少しするとレナセールが家の扉を開けて顔を出す。


「聞こえましたが、やはり凄く小さいですね。それにすぐ音が途切れました」

「そうか。まだダメか」

「ですね……。寒いのでひとまず中へ来ますか?」

「そうだな」


 レナセールが冒険者の指を切り落としてからも、何度かあいつらをギルドで見つけた。

 絡んでくることはないが、いつ襲われるかもわからない。


 一番怖いのは寝込みだ。

 奴らと違って、俺たちは間借りした家に住んでいる。

 

 それも通りに面している一階、当然だが窓のカギなんて大したことはない。


 そこで新しい錬金術のレシピを思い浮かべ、防犯ブザーのようなものを作った。


 魔石を加工し、術者の血を混ぜ込んだあと、結界術の紋章を描き、壁にしっかりと塗り付ける。

 表面上はすぐに消えてしまうが、染み込んでいるだけで、なくなったわけじゃない。


 原理は簡単なもので、登録していない血以外の人物が中に入ろうとすると家の中だけ音が鳴り響く。

 だが上手くいかない理由はわかっている。

 レシピ材料に使うを安物にしているからだ。本来のは高すぎる。


 きっと貴族用に違いない。


 はあとため息を吐くと、レナセールが申し訳なさそうにした。


「ありがとうございますベルク様。私のせいで……」

「いや、殺されてたかもしれないからな。それより、寝不足になってもらっちゃ困るからな」

「本当に……私にはもったいないくらいのご主人様です」


 これをつけたい一番の理由はレナセールだった。

 元々俺が眠るまで寝ない彼女だが、あの日以来、明らかに睡眠時間が短くなっていると気づいた。


 強く尋ねてみると、やはり自分の責任感から寝込みを襲われないように気にしていたらしく、朝起きるのも随分と早い。


 失敗も含めると材料費もかなりかかったが、いい出来とは言えない。


 一息つくと、レナセールが声をかけてきた。


「ベルク様……見てください」


 スカートをはためかせるとシルクで綺麗な白下着を見せてきた。

 小遣いは相変わらず俺を喜ばすためだけに使っている。


 性欲にはどれだけ抗おうとも勝てない。

 たとえこれが最低なことだとしても。


「今日はいっぱいご奉仕させてもらえませんか」


 そんな彼女の言葉にゾクゾクさせながら、五日ぶりに二人で風呂に入ることにした。

 水は貴重で高く、いくら火打石があろうとも毎日は入れない。


 するとレナセールは、白い固形物を取り出した。


「これは何だ?」

「貴族の間で流行っているらしいです。これで、ベルク様を綺麗にさせてください」


 それが何なのか、お湯をかけるとすぐにわかった。

 小さな白い塊が、ブクブクと白い泡になっていく。


 あわあわの入浴剤みたいな感じだ。

 

 魔法のように柔らかく、心地よい温かみを帯びた泡を、レナセールは自身の身体にたっぷりとつける。

 囁くように、それでいて優しく包み込むように俺の名前を呼びながら、彼女は全身を使って綺麗にしてくれた。


「ベルク様、私はあなたを愛しています。もっと、もっと私を見てください。一生、あなたの奴隷として生きています」


 そんな言葉を何度も投げかけながら、彼女は目をそらさずに微笑んだ。



 

 深夜、疲れ果てて眠っていると窓がガタガタと響いた。

 ブザーの音は聞こえない。

 目を覚まして起き上がると、レナセールは既にナイフを片手に入口の前で待機していた。


 だがよく見ると、カーテン越しに黒い影がチラチラと見え隠れする。

 その特徴的な形は、俺のよく知っているものだった。


「ナイフをおろせレナセール」

「はい」


 窓を開けると、待っていたかのように入ってきたのは黒猫だった。

 王都では野良猫が多い。


「にゃおんー」


 ごろごろさせながら無警戒で俺の足に頭をこすりつけると、ありがとうと言わんばかりに鳴きはじめる。


「外に出しますか?」

「いや……幸運だ。レナセール、干し肉を出してくれるか」

「え? わ、わかりました」


 レナセールが肉をあげると、黒猫はガツガツと頬張った。

 それから机の上に移動し、自分のベッドだと言わんばかりに眠りはじめる。


「……いいんですか?」

「王都の猫は魔力に敏感なんだ。主人じゃない人間が近づくと声を荒げる」

「それって、防犯ブザー・・・・・みたいなことですか?」

「その通りだ。明日、通行人でまた試してみよう」


 翌朝、黒猫は一晩とは思えないほど俺たちに懐いた。

 偶然に現れた郵便配達人が扉の前に立つと、反応し、猫が警戒した。


「凄い。ベルク様の言う通りですね」

「これならなんとかなりそうだ」



 黒猫はすっかり家が気に入ったらしく、窓を開けていても外に出なくなった。

 名前は感知という意味から、サーチと名付けた。

 

 後から申し訳なく思ったが、レナセールが優しく声をかけているのをみてすぐにそんなことは忘れた。


 サーチは随分と賢く、トイレやご飯の場所も一発で覚えた。

 ぺろぺろと顔を舐めるのが好きで、たまにくすぐったいが可愛くもある。


 だがある日、レナセールが夕食を終えるとすぐに寝室まで手を引っ張ってきた。

 何だろうと思っていたら、何と猫耳を付け始めたのだ。


 ……なぜ?


「どうしたんだそれは」

「お小遣いで買いました」

「……なんでそれを」

「最近、サーチばかりに構って寂しいです。もっと私の名前も呼んでください」


 まさかの猫にやきもちを焼いているとは思わなかった。

 しかも自分が猫になるとは。


「悪かったなレナセール」

「……許しません。ベルク様は、私だけのご主人様ですから」


 その日のレナセールは、サーチの何倍も舌使いが上手かった。


 ――――――――――――――――――――――

 あとがき。

 にゃおーん。


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