第一章

【源頼光】幼い日の頼光、友と約束する

「そう……。みやこに戻っちゃうんだね」


「んー、わたしは陸奥むつ国の生まれだから戻るって言われてもーって感じなんだけどー」


 そう、まだ小さかった私は京に上るが嫌だったんだよね。

陸奥の自然が、空気が、人が、そこで暮らす人たちに慕われて共に笑ってた母上の姿が好きだった。

そしてなにより、人里外れた山の中に1人で住んでる女の子が好きだった。


 だから私は泣いて、喚いて。死んだ母上の顔を思い出すと申し訳ない気持ちになる。

あの時の私はよく分かってなかったけど、国司の任期は4年。

任期を終えた親父まんじゅうは京に呼び戻されたけど、朝廷に働きかけて次の4年を遙任ようにん国司として、母上を目代とすることで私は陸奥に残った。

それでも延長は1度きり。だからあの日、私は別れのためお屋敷に行った。


 いつも紅白の梅が咲く、色んな動物が自由に動き回る不思議な庭がある大きなお屋敷。どんなに暑かろうと寒かろうと、黒塗りの立派な門をくぐれば春の陽気に包まれる不思議な空間。そこに1人で暮らす女の子――富ちゃん。陸奥での……ううん、今までの生きてきた中で1番の友だち。悲しいお別れは嫌だから目一杯明るくお話したんだよね。


「だから富ちゃん、少しの間だけお別れになっちゃうの。でもね、父上でも母上でもなく次は私が国司になってここに来るから!」


「本当?」


「本当! 絶対、絶ーー対戻ってくるから、それまで待っててね! そうだ、これあげる!」


「まぁきれいなお花」


「秋の七草って言うんだって! 母上に教えてもらったのを一生懸命探したんだよ!」


 常春の不思議なお屋敷には咲かない花。その中から藤袴ふじばかまを選び、富ちゃんお気に入りの少し変わった頭巾に飾り付けたら富ちゃんは嬉しそうに笑った。


「私が国司になって戻ったら、その時は富ちゃんも力を貸してね! 一緒にこの国をすっごい国にしようよ!」


「……そうね。みんなが笑顔で暮らせる国になればいいね」


「絶対できるよ! できなかったらお腹切る! お腹痛いのやだから絶対やりとげる! 約束!」


 そう高らかに宣言する私に目をパチクリさせたあと、ようやく富ちゃんはふふっと笑ってくれた。


「うん。約束。戻ってきてくれるの待ってるね、頼光ちゃん」


「うん! 絶対すぐに戻ってくるから待っててね!」



 ふぅーーーーー…………。よっし、気合は十分ね。体調の方も最高と言えるわ。


「――まさか京に戻ったら10年以上屋敷に閉じ込められるとは思ってなかったわよ、クソ親父まんじゅう


 屋敷の地下深く、【はなしあい】のためだけに作られた空間で、私はクソ親父まんじゅうこと源満仲みなもとのみつなかを見据えた――。

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