大好きだよ。ずっと、ずっと。

 ほとんど死んでいたようなものだ。


 一日が経って、夕方。


 もう少しすると、街では花火大会が始まる。


 俺は、変わらずベッドの上で一点を見つめ続けていた。


 カーテンも閉め切っている。


 真っ暗だ。


 眠ったら奈桐に会えるか、とも思った。


 でも、そんな訳は無くて、気だるい目覚めが待っているだけ。


 何を、どうすればいいのかわからなかった。


 家に行けば。


 LIMEをすれば。


 奈桐はいつだって笑顔で俺の名前を呼んでくれていたんだ。




 奈桐。




 今は、呼んでも返事すらない。


 虚空がただそこにあるだけだ。


 むなしいくらいの虚空が。


 けど、そんな折。


 遠くで、何かの弾けるような音が鳴った。


 それは、バン、バン、バン、と不特定のリズムを刻んでいる。


 花火だ。


 花火の打ち上げが遂に始まった。


 何も無かったら、本当は俺もあの階段を上った高台で、奈桐と花火を見ていた。


 でも、今はもう……。


「………………」


 そうやって感情の死んだまま、花火の音をただ流し聴いてる時だった。


 背後で、何かがバサバサと落ちる。


 さすがにびっくりした。


 上体を起こし、振り返って見れば、床に一冊の本がページを開けられた状態で落ちている。


 いや、あれは本じゃない。アルバムか。


 よく見れば、写真も何枚か床に散らばっていた。


 ベッドから出て、一枚一枚を手に取り、それらすべてに目を通した。


 写っている俺の隣には、いつだって奈桐がいる。


 幼稚園の時、花畑で座り合って何かを作っているところ。


 花見をしながら、奈桐と一緒に弁当を食べているところ。


 お遊戯会を一緒に見ているところ。


 小学生になって、運動会の二人三脚をしているところ。


 遠足で並んで歩いているところ。


 机の上で一緒に勉強しているところ。


 二人で隣り合って寝ているところ。


 奈桐との今までのすべてがそこに詰まっている。


 一緒にいた時はあまり開くことのなかったこのアルバムに。全部。




「っ…………奈桐…………っっ……奈桐…………」




 乾ききっていた砂漠のような心に、一気に水が押し寄せて来た。


 とめどなく涙があふれてくる。


 そこにもしも彼女がいてくれたならば、すぐにでもこの想いを直接目を見て伝えていたのに。


 もうそれも叶わない。


 叶わないんだ。


 花火の音は未だしている。


 俺は、机の上に置いていた指輪入りの小さい箱を手に取り、部屋から飛び出した。


 恰好も、何も取らず、寝癖の付いたままの情けない姿。


 靴もサンダルで、駆けている最中に転び、膝から血が出ても走り続けた。


 それで――……辿り着いた先。


 街を一望できる高台。


 荒くなった呼吸と、流れたままの涙をそのままに、空に浮かぶ色とりどりの花をただ見つめる。


 そして、力尽きるようにベンチへ腰掛けた。


 ここで……本当なら俺は……。




「……言う……つもりだったのにな……」




 大好きだよって。


 彼女の揺れる瞳を見つめながら。今度こそちゃんと。


 震える手は、透明な君の輪郭を撫でたつもりで、けれどもそれはどうしたってただの虚空にしか見えなくて。


 指輪の入った箱を胸で抱き締め、声を殺すことなく俺は泣いた。


 花火の音に負けないくらい。


 大きな声で。

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