第5話 推薦

俺は、体力づくりの後、更衣室でネクタイを締めていた。赤と黒の色合いのものだ。


「この学校に、暁指令から直々に推薦を受けた奴がいるらしいぜ」


ロッカールームの奥に隊員たちが二名ほど訪れる。俺と同じように野戦服から制服へと着替えるために。


「でもそれって当たり前じゃね。徴兵令状って暁指令が発行するんだろ?」


「いや、違う。令状を出すのは警察庁だよ」


「ん? どうして警察庁なんだ? だって俺たちを訓練しているのは自衛官だし、警官から訓練なんか受けてないぜ」


「それはなあ、管轄の問題なだけ。実際テロが起きれば、警視庁、都道府県警察。防衛省。自衛隊と連携するんだよ。組織対策犯罪に詳しい警察庁が、俺らTIを特別に担っているだけと言えばいいかな」


俺は盗み聞きしながら、TIの仕組みについて知った。

つまりは、あの暁という女性の官職は警察庁ということか。

ということは、俺らTIの総司令は警察庁長官というわけ。

苦笑した。そういうことなら俺らTI隊員は、国家公務員というわけだ。税金から給料は支払われるわけだし、多分、就職も有利なのだろう。まあ、それくらいのマージンはもらっておかないといけないだろう。


「でも推薦ってあの身障者か? おかしいと思ったんだよ。ここは障碍者が来るような場所じゃないからな。訓練には耐えられない」

それが現実だと言い払う。俺はそれを聞いて、確かにそうかもしれないなと思った。

身障者。左足が無い俺には、人助けなど無理だと感じるのが常識ある人間の感想だ。


「まあ、あいつはどうせすぐに死ぬよ。使い物にならねえもん」

けらけらと笑ってロッカールームを出ていく。

俺はロッカーにもたれかかって、息をついた。まだ死んでたまるか、と強く覚悟を決めながら。

 

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