神雨、濡れ落ちて~水揺らしの乙女は運命の龍神に愛される縁を廻る~

遠野まさみ

序章

第1話

昔から時々見る悪夢。

鬼のような形相の男の人が、私に向かって牙を剥き、次の瞬間、喉に言いようのない痛みが走る夢。真っ赤に染まった視界の中で、その男の人を私から遠ざけて涙ながらに私を見る、もうひとりの男の人。どくんどくんと心臓が拍動するたびに喉から血が流れ出て、焼けそうに熱い。

「――――!」

意識が消えそうになった時に、私を呼ぶ声がする。そして私の体は、ふうっとあたたかいもので包まれて、あとは桜の花びらのようなものが空へと巻き上がっていく様子。

まるで自分の死に際を見るようなそんな悪夢を、子供の頃から何度となく夢に見て、今日も飛び起きた。

はあはあと肩で息をしながら、暗闇の中、目を閉じる。今日が、何事もなく平和に終わりますようにと、祈りを込めて――。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る