第十八話:魔王様と契約
「はーっはっはっはっはっ! 弱すぎる、弱すぎるぞ人間!」
それは戦場を業火で燃やし、一騎討を申し込まれた相手を圧倒的な力でねじ伏せ、最後に跡形もなく消し炭にしていた。
彼の名はザルバード=レナ・ド・モンテカルロッシュ・ビザーグ。
東の魔王にして、グランドクロスと名乗る世界四大魔王の一人。
騎士団長の申し込んだその一騎討に、魔王自らが相手をしたのだが哀れ騎士団長は最後に一瞬で消し炭と化した。
「魔王様、そろそろお戯れもよろしいのではないでしょうか?」
「我々の出番も残しておいて欲しいものですな」
「我が君が相手するほどの者ですらなかったですな」
「残りの者はいかがいたしましょう?」
戦場であると言うにもかかわらず、魔王の前に四つの魔族が膝をつきかしこまる。
それを見た魔王は、面白く無さそうに鼻を鳴らし、マントを翻して踵を返す。
「つまらん。少しは骨があると思ったが、あれで騎士団長だと? 駆け出しの騎士かと思ったわ! 俺様は勇者を待つ。お前たちはこいつらを皆殺しにしない様に遊んでやれ」
「「「「はっ!」」」」
魔王のその言葉に四つの魔族、そう四天王たちは一礼をしてその場を飛び去る。
「まったく、いくら勇者をおびき寄せる為とは言え暇つぶしにもならん。わざわざこの俺様が姿を現してやったと言うのにな……」
魔王はそう言って口元をニヤリと歪ませる。
「しかしもうじきだ! やっと勇者のヤローをぶちのめられる!!」
魔王はそう言って自分の陣営へと戻ってゆくのだった。
* * * * *
「何と言う事だ……我が国の騎士団長ですらあの魔王には全くと言っていいほど歯が立たなかったのか」
国王のその言葉に、家臣たちも勢いを失う。
開戦から一日と経っていないと言うのに、こちらは既に全軍の二割の被害を出していた。
魔族は強い。
しかし決して倒せないと言う事は無かった。
だから勢いのある、数で優位であるうちにその頭である魔王の首さえ取れればこの戦い、勝てると踏んでいた。
なので騎士団長はドリガー国軍の期待を背負い、魔王にダメもとで一騎討を申し込んだ。
当然、そんな申し込みは断られると思っていたが、魔王はその一騎討に応じた。
これは好機ばかりに勇んで騎士団長が一騎討に出たが、周りの兵士が見守る中、剣同士での戦いでも魔王が圧倒的に強く、そして最後には騎士団長は一瞬で消し炭になってしまった。
こうなってしまえばドリガー国軍は総崩れになってしまう。
撤退に遅れた部隊は取り残され、四天王たちに次々と倒されていった。
だが、魔王軍はそれ以上攻め入る事無く砦を襲う事は無かった。
砦から少し離れた所に陣を構え、こちらの様子をうかがっている様だった。
「ゆ、勇者殿はまだか!?」
家臣の誰かがそう言うと、慌てた伝令がやって来た。
「伝令っ!」
「おおっ! 勇者殿が到着したか!?」
みながその伝令に期待をしていると、その伝令は絶望的な事を報告してきた。
「伝令、み、南の魔王軍がウルグスアイ王国を迂回して我がドリガー王国の南部より侵攻してまいりました!!」
「「「なんだとっ!?」」」
その伝令に誰もが驚きの声を上げる。
まさか、北と南から魔王軍が攻め入るとは想定していなかった。
「それは本当か!?」
「はっ、既に我が南の国境の砦は突破され、南の森のエルフたちが応戦に協力していますが、時間の問題かと……」
それを聞いたドリガー王は歯ぎしりする。
本来であれば北の魔王の進軍を食い止め、その間に到着する勇者によって、今世の魔王の中で一番力のある東の魔王を打ち取る。
そうすれば、他の魔王たちもその侵攻する力を落すと思われていた。
しかし、今南の魔王の襲来を受けてしまえばドリガー王国一国ではとても太刀打ちできない。
ましてやその戦力の大半をこの東の魔王軍に当てている。
「ゆ、勇者殿はどうなっている?」
「レントの街で我が国が準備した早馬にてこちらに向かっているとの情報です」
ドリガー王のその質問に、勇者がこちらに向かっているとの情報を受け彼は歯ぎしりをする。
「今から近隣諸国に増援を要請しても間に合わぬ。このままでは我がドリガー国軍は壊滅。この戦況を打開するには、南の守備を引かせ時間稼ぎをしつつ、その間に東の魔王を勇者に討ちとってもらうしかない」
ドリガー王のその言葉に、家臣たちも頷き指示をする。
「南の防衛は時間稼ぎしつつ引かせろ!」
「この砦を死守しろ! 勇者殿が来るまで何としても持たせるのだ!!」
次々と家臣たちが指示を飛ばす中、ドリガー王は東の魔王の陣営を睨みつける。
「まさかこれほどまでとは……おのれ、魔王めっ!!」
ドリガー王は、手に持つ宝剣の柄を地面にたたきつけるのだった。
* * * * *
「ふん、全く相手にならんな。四天王たちも雑魚相手では暇つぶしにもならんだろう?」
「はっ、魔王様の仰る通りです」
「……」
本陣のテントで魔王は椅子に腰かけてそう言う。
それにカイトが頭を下げながら、恍惚とした表情で魔王に答える。
しかしユーリィだけは複雑な顔をしていた。
自分は元ドリガー王国の住人で、約束の為に魔王のものとなった。
しかし、人族の国に侵攻すると言う事は、流石に思う所がある。
シーラは無事であろうか?
魔王は、シーラだけは魔族たちに襲わせないと約束してくれた。
しかしそれはあの時の話であって、この戦争でシーラの身の安全が保障される事はない。
ここへ来るまでにサルバスの村を通ったが、シーラの姿は勿論なかった。
多分近くの街か何処かへ逃げて行ったと思われるが、その後のシーラがどうなったかは全く分からない。
もし、この砦付近で戦争に巻き込まれたら……
「ね、ねぇ魔王。僕との約束、シーラだけは助けてくれるって話。ちゃんと守っているよね?」
「ん? ああ、あのメスか。それは約束する。魔族が約束するってのは契約と同じだ。そして俺様がそう約束したんだ、配下の者にはあのメスの姿を伝えてある。魔族はあのメスだけは襲わねぇ。これは約束であり、俺様とお前の契約だからな」
そう言って魔王はユーリィの顎に指をあてる。
「心配するな、契約はぜてぇだ。あのメスの安全は俺たち魔族が約束してやる」
「ほん、とうに?」
「ああ、俺様を誰だと思っているんだ?」
魔王にそう言われながらユーリィはそっと目を閉じる。
そして、またユーリィは魔王に唇を奪われるのだった。
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