第3章 逆転 vol.3

どうしよう・・・。


紗希子は鞄を引っ掴むと、成世の部屋を飛び出し、彼らの屋敷からも飛び出した。


何事かと驚いたらしい春木やポラリズのメンバーから掛けられた声も、犬のポーが吠えるのも、全部振り払って。


仮にも私は先生なのに。あんな風に怒鳴ったりして・・・。しかも土佐弁が出てたような気がするし・・・恥ずかしすぎてどうにかなりそうだ。


けれど、お金目当てで彼の家庭教師をしているのだと思われていたと知り、紗希子はショックだった。


胸が・・・痛い。


もしかしたらまた、彼を怒らせて、今度こそ引導を渡されることになるやもしれない。


どうしてもっとうまくやれないのだろう。


まだ手のひらにはっきりと残る成世の髪の感触を胸に抱きながら、紗希子は夜道を一人歩く。


何者かに後をつけられていることにも気付かずに――。





「成世、早く寝ろよ?明日からツアーだぞ」

「ああ。あとこれだけやったら寝る」


隣の部屋でドタバタとツアーの準備をするマリオがうるさいので、リビングで勉強していると、風呂上がりの晃斗に声を掛けられた。


成世はペンを走らせるノートから顔を上げることなく応える。


「あんま無理すんな?」

「うん、さんきゅ」


紗希子がキレたあの一件で、初めこそ偉そうに!と怒りが込み上げたけれど。


成世はようやく目が醒めた。そして考えた。


俺はどうしたいんだろう。何が欲しいんだろう。


母親とか社長とか、そういうの関係なしで、俺がしたいこと、欲しいものを追い求めていいんだと、アイツに言われてようやく気付いた。


そして、俺をアイドルとか金を稼ぐための道具とかでなく、一人の人間として、俺のことを真剣に考え、応援し、信じてくれている人がいると知った。


その人のためにも、ちゃんと自分自身と向き合わなければならない。


そうして出した答えがこれだった。


俺は大学受験もポラリズも、両方本気で取り組みたい。


俺はやる。もう揺るがない。

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