第26話「ひとりぼっちの球技大会」

 球技大会の日がやって来た。

 残念だが俺は風邪をひいたことにして欠席をしよう……と思っていたのだが、朝からリリアさんが迎えに来てしまったため、それも空振りとなってしまった。ああ、俺の人生短かったな……。

 ……ん? 球技大会くらいで人生終わらせてどうするのか。


『あー、ついにこの日がやって来たねー! ワクワクドキドキだよー!』


 俺の隣から流暢なフランス語が聞こえる。もちろんリリアさんだ。リリアさんは歩きながらスパイクを打つ格好をしてなんだか楽しそうだ。ま、まぁいいか。


『そ、そっか、そんなに楽しみだったか……俺は今日一日心を無にするよ……』

『あはは、ショウタ面白いこと言うねー! 私頑張るからね、見ててね!』


 ふんふんと鼻息を荒くするリリアさん。なんだかそれも可愛い感じがした。

 ……ん? 俺は何を考えているのだろうか。それは置いておいて、いつものように電車に乗って、学校に来た。クラスで着替えてから、グラウンドに集合だ。俺も着替えて靴を履き替えてグラウンドに行く。わいわいとみんなの楽しそうな声が聞こえてきた。


「俺、サッカー頑張っちゃうもんねー!」

「お前茶道部だろー、サッカーできるのかよー」


 ……ほんとどうでもいいことでみんな盛り上がって、それはそれですごいなと思う俺だった。まぁ他人はどうでもいい。俺は一日気配を消して行動するのみ。


 グラウンドで挨拶と準備体操があって、各競技場所へ移動となった。男子はグラウンド、女子は体育館だ。俺はサッカーの組み合わせを見る。あ、いきなり隣のクラスと試合があるのか。めんどくさいな……。


 まぁ、文句を言っても仕方がない。とりあえずクラスの男子の端っこの方でみんなの話を聞いていた。みんな楽しそうだな、俺はそれの邪魔さえしなければいいだろう。


 試合が始まった。俺は気配を消すように動いていた。ボールを追いかけているふりをして、ボールには触らない。これはひとりぼっちのスキルの一つ、『なんとなく参加している風を見せる』だ。なんだそのスキルっていうツッコミは入れないでくれ。


 そんな感じで動いている……と、なんとクラスメイトがこっちにパスを出してきた。お、おい、なぜパスを出す……と思ったら、目の前に相手がいた。俺はとっさにドリブルで避けて、他のクラスメイトにパスを出した。危なかった……。


 試合は点の取り合いで、二対二となった。このまま時間切れかな……と思ったら、一瞬のスキを突かれて相手チームがゴール。そのまま試合は終わった。


「くそー、もう少しだったのになー」

「お前陸上部だろー、突っ走りすぎなんだよー」


 クラスメイトの声が聞こえてくる。ああ、負けたけど楽しそうでなにより。俺は何度かパスを受けてしまったが、なんとか避けて味方にパスを出すことができた。スキルは役に立たなかったようだが、みんなの邪魔はしてないからいいかなと思った。


「……綿貫くん、意外と動けるんですね」


 その時、後ろから声をかけられた。あれ? リリアさんか? と思ったが、日本語なので違う……見ると女子の学級委員がいた。名前は……ごめん覚えてないや。この前機械的なやりとりはしたけど、クラスメイトの名前なんていちいち覚えていられなくてな。ちょっとひどいだろうか。


「あ、ああ、大して動いてはないと思うが……」

「……勉強では一番だけど、スポーツではもっと何もできないのかと思っていました。特にサッカーのようなチームスポーツでは……ごめんなさい、ひどいこと言いましたね」


 学級委員のメガネがきらりと光った。ま、まぁ、何もできないと思われている方が普通だよな……俺みたいなひとりぼっちで勉強しか取り柄のない奴は、スポーツする姿なんて想像できないだろう。


「い、いや、別に……何もできないと思うのが普通だと思う……」

「ちょっとあなたのこと見直しました。あ、別に好意を持っているとかではないので、勘違いしないでください」

「お、おう、な、なんかよく分からんが、分かった……」

「ふふふ、面白いこと言いますね。もうすぐリリアさんがバレーの試合に出る頃じゃないでしょうか、見に行かないんですか?」

「あ、そ、そうなのか、まぁ……行ってもいいけど……」

「リリアさん、あなたとよく一緒にいますよね。まぁクラスでフランス語話せる人なんて、あなた以外いないから仕方ないのですが」

「お、おう……」

「……ごめんなさい、別に何か言いたいわけじゃないです。体育館に行きましょうか」


 学級委員はそう言って、スタスタと体育館の方へ歩き始めた。な、なんかよく分からんが、俺も一応後をついて行く。

 

 ……なんか、リリアさん以外のクラスメイトとこんなに話すのは初めてで、俺は変な気持ちになっていた。

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