第7話

 同じ頃、王都から離れたある町ではこんな話が、男二人の間で交わされていた。


「おい聞いたか?」

「何をだよ」

「うちの町の商人ギルドもようやく合流するらしいぜ」

「合流って、もしかして――」

「ああ、《同盟》だ」

「そうか、この町のジジイ共もようやく重い腰を上げたか」

「まだ上の方は必死に隠してるがな。だが、戦争続きでどこもかしこも品不足に陥っているのに、いきなり明日から取引量が三倍、一品当たりの金額に至ってはむしろ下がるって聞いたら、同盟入り以外に考えられねえからな」

「そりゃ間違いねえな。これで売るもんが無くて閉まってた酒場や出店も再開できるだろ。俺達にとっちゃ良いこと尽くしだ。だがよ、同盟はなんでそんなことができるんだ? 俺が聞いた話じゃ、今でこそ同盟なんて大層な名前がついちゃいるが、元々はただの互助会みたいなもんだったらしいじゃねえか。どうやったらそんな採算度外視みたいな取引を、しかも王国中をまたぐような大規模にできるんだ?」

「それがな、どうやら同盟立ち上げの中心的役割を担った人物がいるらしいんだが、全部その人の伝手らしいぜ」

「……いや、それはさすがに嘘だろう? ていうか、なんでそんなこと知ってるんだよ?」

「俺も噂を聞いただけじゃさすがに信じなかったさ。だけどな、この間見ちまったんだよ」

「見ちまったって、何をだよ?」

「たまたま仕事で商人ギルドに用があった時に、ちょうどお偉いさんと同盟の盟主が会談を終えた直後に出くわしてな、その盟主の顔を拝む機会があったんだよ。それで確信しちまったってわけだ」

「なんだよ、もったいぶらずに言えよ」

「言葉じゃ伝わらねえ気がするんだが、……なんていうか、この人が言うことだったら間違いねえ、そんな気にさせるオーラっつうか、とにかくすごかったんだよ!」

「おおう、いきなりテンション上げてくるなよ、びっくりするじゃねえか。それに、そんなこといきなり言われてもさっぱりわからねえよ」

「ああ、すまんすまん。まあ、あれは実際に自分の目で見た人間じゃないと伝わらねえよな。まあ見てろよ、すぐに町の景気がガラリと良くなるからよ。そうすりゃお前も、あの人のすごさがちょっとは分かるだろうぜ」

「ふうん、まあ期待しないで待ってるよ。ていうか、その同盟の盟主ってのを実際に見たんだろ?もうちょっと年恰好とか、言えることがあるだろ」

「んー、変な風に誤解されそうだからあんまり言いたくないんだがな。背格好はちょっと細身で背が高い方かな。んで、年はちょうど俺達の半分くらいだ」

「なんだそりゃ? 俺達の半分っていやあ、まだガキじゃねえか!?」

「バカ野郎! あの人は年なんか関係なくすげえんだよ! なんつうか、生まれながらの気品っつうか、人の上に立つ器っつうか、とにかく一度見たらわかるんだよ! あのアベルさんのすごさはな!」

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