第6話 義姉と義弟

「弟君弟君、新くんが派手に負けたらしいですよ」

「だな。新左衛門、派手に負けたな?」

「……みたいですね」

 五右衛門に、ふてくされたような返事をしながら状況把握を行う新左衛門。どうやら屋敷の部屋に寝かされていたらしい。

「新くん、身体に痛みはありませんか?」

 新左衛門の頭や頬、肩を優しく撫でつける小南の表情は、慈愛に満ちている。

「ん、問題ないみたい……。それで?」

服部半蔵はっとりはんぞう。己の父だ……」

「……そうか」

「まさか、こんな風に会うことになろうとは思わなかった……」

 白い髪、二尾、そして金色の瞳。新左衛門と五右衛門は、特徴を挙げてみれば似たような見た目をしているが、実の兄弟ではない。新左衛門だけが三太夫の実の息子だ。

 布団の上で話を聞く新左衛門。言葉こそ少ないものの、心境としては複雑だ。

 初めて実の父の顔を見るはずの五右衛門は、煩わしそうに含み笑いをしている。

「……どれくらい落ちてた?」

半刻はんときも立っていないんじゃないか? 一人で突っ込むなと言ったろ?」

「すまなかった……。で、半蔵殿、はいかがしに参った? 我を殴りに来たのか?」

「依頼だ」

「依頼? 依頼相手に殴りこみ?」

「気づいていたか? 父上と戦っていたのは全員、若い忍びだけだ」

「そこまで気が回らなかった。それに何の関係がある?」

千賀地ちがち家。今は旧姓の服部を名乗っているんだと」

「五右衛門のお父上は、伊賀の上忍三家の一人だったのですね。どおりで強いわけだ……。あぁ、だから歴戦の忍びは傍観していたと」

「新くんが気絶したせいで、紅葉様がとても怖かったのですよ?」

「ん? どうして母上が?」

「紅葉様は、新左衛門が気絶する瞬間を見ていたのです」

「あの底冷えするような鋭い目つきはやばかったな」

「それほどですか? 我はそんな表情をする母上を見たことがありません」

「そりゃ愛する新左衛門にそんな表情するワケねぇだろ。まぁ、己も初めて見たがな」

「ふふふ。半蔵様も三太夫様も、一生懸命にして紅葉様に謝罪されていました」

「三太夫様も? そりゃいいところを見逃してしまった」

「そうだ。父上から依頼があると言ったろ? 紅葉様に元気な顔を見せたあと、対面所に来いってよ」

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