第4話 父と子
あたりは暗くとても静か。風が山を追い越して、新緑の香りを届けてくれる。
風を身に纏う
屋根から下を見れば、いくつかの
「時間です。行きますか」
「しくじるなよ、新左衛門」
「……」
「新くん、気を付けてくださいね」
半歩後ろに立った
「
「「「殺生石に人の骸を」」」
応仁の乱より九十三年後、
三人は無駄のない動きで城内に忍び込んだ。情報通り、ここ十市城には同胞がいないらしく、予定通り誰にも感知されていない。
侵入後は四方に散る。移動速度は人知を超えており、それでいて音もしない。
草木も眠る丑三つ時。周りには低い山があり、夏の訪れを匂わす草の香りがする。彼らは伊賀国の忍び。
十市城に侵入してからおよそ五分。さやさやと奏でる癒やしの音が、人間の悲鳴によって侵された。
城のつくり、大きさなどは、城主の血と汗と涙、そして繁栄の結晶といえる。ひとつ前の城主の名は
現在の城主は息子の
★
「にゃーご、ごろにゃーご」
「報告しろ」
伊賀国、
「
「我ら伊賀国は人を駆逐する。滅ぼさねばならぬ。そうすべきなのだ……」
木猿の報告を聞く三太夫には、労いの心が感じられない。
三太夫は伊賀国随一の権力者。独自の文化を形成する伊賀国では、伊賀国全体の活動に対する方向性や運営に関して、みんなで話し合って決めている。
とはいえ合議が開かれても意味がない。百地の独壇場。三太夫の力が強すぎるのだ。
伊賀国に住まう左螺旋は、多かれ少なかれ三太夫の優生思想と人に対する憎しみの影響を色濃く受けている。
「……今回の成功で、忍び業だけでなく傭兵業の依頼も増えるといいのですが……」
先の白いふわふわの尻尾とぴんと立つ狐耳を持つ美青年。髪の色はブロンドで、瞳の色は青く美しい容姿。鍛え抜かれた身体に高い身長。この国の男性身長の平均値を優に超えている。新左衛門、五右衛門、小南、三人の師匠でもある下柘植木猿は、三太夫に十市城での働きを報告した。
「そうでなくては困る。わかるな新左衛門?」
「はい、父う──」
「あぁ⁉」
「……失礼いたしました」
木猿は悲しそうな顔をしながら、悪くなった空気を追いやるようにして報告を続けた。これ以上、親子の関係を悪化させないようにしているようにも見える。
「そういえば、
「そうか……。
「……松永が敵に回るようなことがあれば、苦しい戦いになることでしょう」
「とはいえ松永は、今のところは我らと仲良くしておきたいらしい。情報と高額な報酬は、お近づきの印というところか……」
「松永とは長い付き合いになりそうですね」
「利用するだけ利用してやろうではないか。そんなことより新左衛門。これまで通り強く、理想を体現し続けろ。それが伊賀国の、そしてお前のためになる。わかったらもう下がってよい。木猿とはもう少し話がある」
「……畏まりました」
庭にいた猫の気配は、いつの間にやら消えていた。
「監視役から前もって聞いてはいるが、新左衛門たちを独り立ちさせて問題ないか?」
「……新左衛門は短気なところがありますが、三人とも問題ありません。百人程度の人間では、三人の剣を止めることはできません」
「左螺旋の力を十分に見せつけることができたであろう。これからは、より金になる傭兵としての依頼も増えそうじゃな」
伊賀国最強の忍び三太夫は、笑みを隠すことなく満足そうにうなづいた。
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