第7話 出会い

「美琴ちゃんはさ、桜木のどこが好きなわけ?」

「え?」

「聞いてみたいんだよね。アイツのどこがいいか」


 ぎゅっと握る手が強められる。たぶんこんなこと聞きたいわけじゃないんだろう。声が震えてる。

 でもたしかな意思が伝わってきて。私は白状した。


「桜木先輩と出会ったのは、芽久が松木先輩に助けられたときで。今でも鮮明に覚えています」


 芽久と松木先輩が付き合ったのは先々月。だけど出会ったのは二年前の話。

 中学三年の時、芽久と出かけていると芽久と共にナンパされた。その男はとてもしつこくて何回断っても聞かなかった。そんな時に助けてくれたのが松木先輩で、桜木先輩は一直線に芽久の方へいく松木先輩を呆れたように見ているだけだった。

 芽久に大丈夫?、と声をかける松木先輩は私のことが目に入っていないのは今とあまり変わらなくて。でも一つ違うのはそんな私を気遣ったのか桜木先輩はだった。


「お前、大丈夫か?」


 って頭を撫でてくれて。それが嬉しかった。芽久の方にしか目がいかないのは芽久と出会って行動を共にしてから嫌と言うほど痛感してきた。でもそれが嫌なわけじゃなかった。ただ、少しだけ心配される彼女が羨ましかった。そして声をかけてくれた桜木先輩を、好きにならない理由はなかった。


 それから私は桜木先輩には会わなかった。芽久と松木先輩の交流は続いていたけれどその場に桜木先輩が来ることはなかった。一度だけ桜木先輩の連絡先を聞いたけれど松木先輩が少し顔を歪めたことで、深く聞くことをしなかった。今思えば、女嫌いだからだろう。


 そして高校に入学して桜木先輩が隣の高校だと気づいた。松木先輩と一緒にいることが多いと芽久から聞いていたから会えるかもしれないって嬉しかった。

 だけど、この恋は、この感情は不毛なものだと分かった。


 松木先輩と芽久が帰る時に、二人を見つめる桜木先輩の眼差し。それは〝恋〟を表していて。

 その時「ああ。この人も芽久のことを好きになった」そう思った。ずっとそれは嘘じゃないか、私の勘違いじゃないかって思いたかった。でも桜木先輩を好きになればなるほどそれが事実に近づいていくのが怖かった。

 そして私はこの二年で視界にすら入ってないことがはっきり分かった。一度目は芽久を待っていた時、二度目は今日。私はつくづくバカな女なんだ。


「私は夕暮先輩が思うような人じゃないです。桜木先輩の恋が叶わないように芽久と松木先輩の恋を必死で応援して、喧嘩しても仲直りするきっかけ作ってた。好きな人が、悲恋することを願ってたんです」


 いつかの日先輩に言った言葉。それは嘘じゃなかった。

 私は必死でズルして、自分の気持ちを隠せてないのに、好きな人を悲しませたくないのに幸せになることを願えなかった。その結果がこれだ。


 どうすればいいかなんて今だって分からない。でもこれが正解だって、誰かに認めてほしい。


「私、自分を虐めるのが好きなのかも」

「違う。頑張りすぎてるだけだよ」

「良いように、言わなくて大丈夫です。こんなこと、望んでする人なんていないですから」


 目元に乗せていたハンカチを退けるとそこには涙を流す夕暮先輩がいた。


「なんで。どうしたんですか? 私何か嫌なこと言いました? ごめんなさい」

「君は、自分のことを卑下しすぎている。もっと自分のことを愛してほしい」


 頬を伝う涙を拭うことをしない先輩。私だってまた涙が溢れる。

 公園で高校生が泣いてるなんておかしな光景だろう。滑稽だろう。


 でも、今の私にはそれが必要なことだった。

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