第21話 そして再会

「どうしてと申されましても、こればかりは……。乙女の秘密、いや間違えました、神父の秘密にございますれば」


 ユキの『ねえねえ、どうしてなんだい?』攻撃を華麗に躱し続ける謎神父。


「子どもたち、どうしたんですか? みんなの大好きな精霊様ですよ!」


 その一声で砂糖に群がるアリのようにユキに殺到するちびっ子たち。ユキはそのアリというかかわいい猛獣たちに飲み込まれて見えなくなった。


「イオリ様、アンクウ殿より伝言でございます。ユキ様は、女神アンドラステとあの精霊たちに命を狙われております」


「そのようだね」


「ふむ。もうご存知のようで。それにいろいろとお気づきのご様子。ああ、ご記憶を取り戻されたのですね。なら、もう私が心配することもありませんか」


 なぜそんなことまで知っている? アンクウさんと知り合いだとしてもコイツの持つ情報量の多さは……。


「アンタ何者だ?」


「皆さん、イオリ様が退屈しておられる様子。集合ですよ」


 糞っ! この神父、俺の放った拘束魔法を回避しやがった。


 お、おうっ? 重たい。ちびっ子たちの次の獲物は俺に……。これでは俺が拘束されているみたいじゃないか。


「あの哀れなエルフの遺体はこちらで回収いたします。あと、子どもたちは教会のシスターたちが迎えに参りますのでご安心を」


 子どもたちに埋もれる俺に最後見えたのは、肩に死体を担ぐ神父の後ろ姿だった。



 しばらくして孤児院を運営する教会のシスターたちが子どもたちを迎えに来た。しかし、ユキの言っていたレンブラントという名前の神父は誰も知らないという。


「僕たちもあの神父さんは、初めて会ったよ。お歌を教えてもらえて楽しかった!」


「うん。お菓子もくれたし、いい人だよー」


 子どもたちの評価はとても高かった。悪い奴では無いと思いたい。


「それでユキは、あの神父のことどこまで知ってるの?」


「えっと、大昔の魔王との戦いのことは覚えてるのかな?」


「ああ」


「ボクはキミに転移させられて助けられたんだけど……」


 俺が魔王との戦いで殺された後のことを、ユキは語って教えてくれた。


 ああ、なるほどそういうことか……。


 謎神父にはいろいろと助けられたらしい。俺のいた世界に移ったのも謎神父の助言とトネリコの占いによるものだったらしい。

 



 その後、コッカ君とグルア君。いや、コッカ王とグルア王に俺たちは呼ばれた。


「この後、賢者様と精霊様は魔王領へと向かわれるとのこと」


 コッカ王が話を切り出す。


「えっと、護衛とかそういうのは大丈夫だから。さっき貰った地図の出来は素晴らしかったし、地形は変わってるかもしれないけど、大体の記憶はあるから迷わないで済みそうだよ」


「ん? それはボクが方向音痴ではないかと暗に言っているのではないのか。ねえイオリ、そうなのかい?」


 隣で深読みし過ぎの精霊様をなんとかなだめると、コッカ王が言いたかったことを続ける。


「は、はい。何もお二人のお力になれないことが心苦しいのですが、そのことは理解しております。いま、お二人に面会をと申す者たちが城に来ておると連絡がありまして。あのような事のあった後ですし、如何すべきかと……」


 なぜ王様二人が困ってるの? というか、俺とユキがこの城にいることを知っていて、会いにくるとは怪し過ぎる。女神に差し向けられた他の精霊と勇者か、それともあの謎神父の手の者か。いや、ユキや俺を害するつもりなら正面から堂々と来ることもないのか。


「会いますよ、その方たちに」


 気になるのでOKした。そう言えば日本勤務のときは、会社にくる保険や怪しい物品販売、宗教の勧誘に至るまで対応してたっけ。食わず嫌いは良くない。新たなビジネスチャンスに繋がる可能性もあるかもしれない。これから魔王討伐に向かうのにビジネスチャンスも無いのであるが。



 俺とユキは城の兵士に案内されて城門横の詰所に向かう。


「だからお前さ、そんな怪しい仮面をつけてる奴を中に通せるわけないだろ? たしかに教会の紹介状は本物のようだが、それでもな」


「何言っているのですか? お爺ちゃんは怪しいくないのです。立派な人なのです!」


 この声はまさか!


「アデル!」


 俺より先にユキが中に駆け込んでいく。


「ユキお姉ちゃん! それに、おじさん!」


 嬉しそうに抱き合う二人。詰所の衛兵も驚いた顔をしている。


「アンクウさんじゃないですか」


 北米ネイティブアメリカンのシャーマンが儀式で使いそうな、禍々しく大きな木彫りの仮面の人は間違いなくアンクウさんだ。これでは素顔の骨顔と怪しさでは大差ない。


「オオ、イオリ殿。会エテ良カッタ。ダガ、我ノ他所行キノ仮面ハ怪シイノデアロウカ? ショックナノダガ……」


「いえ……。俺は似合ってると思います。お洒落ですよ……」


「おじさん、会いたかったのです」


 満面の笑顔のアデルちゃん。


「アンクウさんのところでお留守番するように言ったよね。どうして来たんだい?」


「むぅ」


「でも、良くここに俺とユキがいるって分かったね?」


 俺に叱られると思ったのか一瞬不貞腐れた顔をしたが、そう言われると再び嬉しそうな顔で答える。


「お屋敷に神父さまがいらっしゃったのです。お爺ちゃんのお友達で、きっと南の国のお城におじさんたちが立ち寄るからと教えてくれたのです。それでいてもたってもいられなくなって……」


 神父って例のレンブラントのことか。


「まあ、来てしまったものは仕方ない。でもここだって俺とユキは命を狙われたばかりなんだ、すぐにお屋敷に戻って俺を安心させてくれよ。でも、お爺ちゃんか。アンクウさんと随分仲良くなったみたいで俺は嬉しいよ」


「むぅ、私は帰らないのです。それにお爺ちゃんはお爺ちゃんなのです」


 えっと、これはどうしたら。それに『お爺ちゃんはお爺ちゃん』ってなんだ? 哲学的な問いかけなのか。俺よりも賢いと思われるアデルちゃんの言いたいことの意味がわからなかった。

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