迷宮転生記

こなぴ

プロローグ

「んんぅ・・・ここは・・・?どこだ・・・?暗くて何も見えない・・・」

 俺は起きると同時に困惑することになった。

 周囲は暗闇に包まれており、何があるのか、ここがどこなのかわからない。

 一度、目を瞑りつぶり、再度、恐る恐る目を開けてみるも状況は変わらない。

 そこで自分の体を確認してみると、あることに気づいた。

 体の感覚がないのだ。

 意識だけが宙に浮かんでいるような、水中を漂っているような奇妙な感覚、視線をさまよわすと360度見回せる。

 しかし、目で見る視線とは違う気がするし、見回せると言っても周りが暗闇のため、本当に見回せてるのか定かではないが。

 まるで悪い夢の中にいるようだ。

「なんだこりゃ・・・?俺は・・・どうなったんだ・・・?死んだのか・・・?」

 ふと、記憶を思い出してみる。


 俺の名前は明宮真人めいぐうまひと

 納期間際の残業はあるが、ブラックでもなんでもない、ごく普通の印刷会社に勤める36歳だ。

 両親は共に他界し、身寄りや彼女もなく1人でアパートに住んでいる。

 もちろんちゃんと友と呼べる者はいる。

 趣味は料理をすることと、アニメやラノベを読むことだ。

 その日は日曜日で、仕事も休みですることもなかったため、駅近くの書店に行くことにした。

 ちなみに、自転車で15分程度の距離だが、快晴ということもあり、歩いて向かうことにした。

 街路樹が立ち並んでいる歩道を歩いていると、春の心地いい日差しに爽やかな風が吹いて眠気を誘ってくる。

 歩いて10分ぐらい進んだところで前方から

「おーい!真人くーん!」

 小柄な女性が手を振りながら駆け寄ってくるのが見えた。

 彼女は同じ職場の遠阪 綾とおさか あやである。

「おはよう。真人君。どこ行くの?」

「おはようって綾先輩、もう昼前ですよ」

「あははっ!休みだからゆっくりだよっ!」

 活発で明るい性格であることから社内でも人気だ。

「俺は今から駅前の書店に行くとこですよ。綾先輩は?」

「そうなんだっ!私は書店の隣のスーパーに買い物だよっ!」

「へー。じゃあ一緒に行きますか?」

「いこいこ。その前にご飯行かない?」

「いいですけど、近くにご飯食べるとこありましたっけ?」

「駅裏の方にレストランがあるよっ!」

 俺は綾先輩の隣に並んで歩き始めた。

 しばらく談笑しながら歩いていると

「ここのビル、ずっと前から工事してるよね?何ができるのかな?」

 綾先輩は、工場中の看板が掲げられたビルを見ながら問いかけてきた。

 確かに10階建て程の縦長のビルに足場や防護ネットが設置してある。

 それもずっと前からと言うように、所々防護ネットが破けて白色の壁や窓ガラスが見えていたり、足場が錆びてる場所もある。

「うーん。ずっとこの状態ってことは、あんまり期待はできなそうですよ。そんなことより綾先輩。危ないから早く行きましょう」

 先に進みながら声をかける。

 そこでというような突風が吹き荒れた。

 綾先輩!と叫ぶも上を見るばかりでこちらに反応しない。

 視線を上に向けると、さっきの突風で錆びた部分の足場がくずれて落ちてきているのである。

「なっ!?綾先輩!早くこっちに!」

 しかし、綾先輩は腰を抜かしたのか顔を青くして地面にへたり込んでしまった。

「あ、あぁ・・・」

 声も出せずに震えている綾先輩。

「ちくしょう!綾先輩!」

 俺は叫びながら綾先輩の元へと駆け寄った。

 足場はビルの壁一面に設置してあり、錆びて崩れた部分を支点にして広範囲で倒れてきている。

 これは絶対に連れ出すのは間に合わないと思い、すぐに俺は綾先輩に覆い被さった。


「真人君!真人君!」

 耳元で叫ぶ声でふと目が覚めた。

 どうやら綾先輩が泣きながら呼んでいるようだ。

「よかった。助かったんですね」と言おうして起き上がろうとするが、力がはいらず体の感覚もなくなってきた。

「真人君!しっかりして!私はあなたのことが・・・」

 綾先輩は泣きながら必死に俺を呼んでいるが、徐々にその声も遠くなっていき、ついに俺の意識は暗闇に吸い込まれるように落ちていった。

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