第53話 舞戻る風姿

 果たしてあれは夢だったのだろうか?

 途中から押しかけ女房なんて事は言わないが、ポポのおかげでぬるま湯から抜け出せたおかげで、こうして現実に戻って来ることが出来た。


 (おはよう)


 まだ起きてから間もたっていないためか体が覚醒しておらず、また何故か手足に力が入り辛く感じる。ふと体全体を見渡してみると、驚く事にドラゴンの体から人間だった元の姿に戻っている事に気付く。さらに右腕から自己主張をしている一本の枝が見える。


 「おはよう、ポポ。フォレストドラゴンの姿だったのが人間の姿へと元に戻ってる?」


 (世界樹の実を出す時に枝を出した事でぺぺの体に上手く干渉出来る様になった。フォレストドラゴンの体はぺぺが人間の体に戻りたいと願っていたから、この機会に戻した)


 なるほど、確かに人間の体は前世の経験もあり馴染み深く、人間社会で行動するのにも色々都合が良いのは確かだ。ドラゴンの姿は、戦闘力やフォレストドラゴンの能力を全て出し切れるため、争い事ではかなり強かった。まあ今ではエルフ達も魔法を使える様になったため、人間の姿も悪くないはずだ。また万が一の場合は、死ぬ様な目にあいながらドラゴンに変身するしかない。


 起きてからあまり気にしていなかったけれど、辺りを見回すとまゆのようなものに外側は包まれているみたいで、まるで保護されているようだ。


(そのとおり、フォレストドラゴンから人型に作り替える時は負荷はあまりないけど、時間はかかる。人型からフォレスドラゴンに戻る時は負荷はかなりかかるけど、一瞬で戻れる。だから今回は蕾を出しておいて他から、手出し出来ない様にした)


 なるほど、あくまでも本来の姿はフォレストドラゴンなわけだ。ただ、時間がかかるのは仕方ないけど、以前は2年位はかかると聞いた覚えがあったのだけど…。


 (色々な偶然が重なって、本来は1年半から2年はかかるけど、今回は8ヶ月程で大分短い時間で出来た。世界樹の実を作り出した事、一度フォレストドラゴンに戻っていたのも大きい。そのおかげで、人型でも少しフォレストドラゴンの能力が使いやすくなった)


 まあ8ヶ月で人型になれたのなら御の字としよう。自分の体がどうなったかを大分ポポに教えてもらい、把握出来たので安堵した。


 そして次に気になるのは、外がどうなっているのかだ。


 仰向けで寝ていた体をゆっくりと起こし、自分の体が全裸なのを確認し終えると、取り敢えずは腰蓑だけは作成する。

 どうやら以前よりは身長が伸びている様で、170cmはありそうだ。そして肌には樹皮がまだらに張り付いており、髪の色は茶色となっている。

 ある程度自分の体をチェックし終わると、蕾の内側へと歩き出す。壁はどうやらフワフワしている緩衝材の様だが、触っているとその周りが溶け出し、出口が出来る。

 体感では、1日も経ってないように感じるが8ヶ月もこの中にいたのだ。ドクンドクンと少し鼓動を感じながら外に出ると、変わり映えしない皆がこちらを待っていてホッとすると同時に嬉しくなってくる。


 「おはようございます。主人よ、世界樹であられるポポ様の息吹を感じられ、祝着至極でございます」


 「おはよう、ドレーク。心配かけたかな?皆もいつも通りで安心したよ」


 いつもの面子が揃い、この右腕に生えた世界樹の枝にも皆が挨拶してくる。それに応えるように枝がゆらゆらと動く。


 「正直なところ、心配は勿論ありましたが、命に別条はない事は確認できておりましたので」


 眷属であるドレーク達はもちろん、エルフの女王であるラズーシャも世界樹であるポポと繋がっているようで、無事なことは分かっていたらしい。


 「そっか。皆が変わらずにいるなら良かったよ。8ヶ月ほど眠っていたとポポから聞いていたんだけど、周辺国には変わりはないかな?」


 あまり聞いてはいけない内容だったのか、周りに一瞬緊張が走るのを感じる。


 「聖樹国は主人が眠られている間は問題なく、攻め寄せてくる魔物を撃退しております。ただ問題なのが周辺国でして…、主人が眠りについておられた時に冬がやって参りました。エルフ達にも聞きましたが、どうやら例年よりも寒いみたいで、他の国では凍死したものもいると聞いております。幸いながら、冬の間は魔物の進行はありませんでしたが。また聖樹国はポポ様の加護により寒さはかなり軽減されておりました」


 「自然の脅威はどうしようもないか…。でもまだ周辺国はまだ滅んでないよね?」


 「聖樹国で商いをしているウラゼー殿から情報が入りまして、冬が開けた1月前に港湾都市マガラカが魔物に陥落させられたと報告を聞きました。さらに南に位置するラスマータ領もかなり怪しいです。またウラゼー殿からガリバリアル帝国とロズライ連合国が冬を開けたと同時にいつもの小競り合いではなく本格的に開戦したと聞いております」


 ドレークの言葉により、場の雰囲気が一気に下がってしまう。だが、周辺国をほって置くのも不味い気がするが、なかなかに難しい問題だ。今回は、寒さの影響で人類側は大打撃を喰らったわけだが、前から聞いていた様に年々寒くなっているというのは、間違い無さそうだ。しかも、帝国と連合国が本格的に戦争をするだなんて、タイミング的にも宜しく無い。


 「分かった。まずは情報を知りたいからウラゼー殿がいるなら、話をしたい。あちらに合わすから準備が出来次第こちらから向かうよ」


 ドレークは、何か言いたげであったが御意と言うと執政官のアーバレスと共に退出していく。


 あまりにも状況が悪化する中でふと思う。


 この先生きのこる事が出来るのか?

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