第13話 成長の兆し

「おらああああ!!!」


「ぐおおおおおおおおお!!!」


グレイスさんと巨人の拳が激突する。

その背後に回ったハンターさんが

矢を放ったが、その強靭な肌を傷つけることも

できない


どこが弱点だ………

どうやって見るんだ……

本には書いてあったんだ。

モンスターの弱点を見抜く事ができるって!


ハンターさんとグレイスさんがヘイトを集めてくれている中、俺は忍び足を使って必死に弱点を探る。


たが、何も見えない。


「ぐはっ」


グレイスさんが血を吐いた。


「グレイス!

もうこれ以上防御力は上げれないわ!

回復ももう魔力が残ってないからできない!」


エリシアさんが叫ぶ。


「僕ももう魔力が……」


フェアリンも力なくそう口にする。


「くそ……僕の弓じゃ攻撃を加えることすら……」


遠くから攻撃のチャンスを窺っていた

ハンターさんの方を巨人が向いた。


瞬間、突き出した腕が伸びて

ハンターさんに迫った。


「ハンターさん!」


俺がそう叫ぶと


「大丈夫」


ハンターさんが俺の背後にワープで移動した。


「このモンスター……

体を伸ばせるみたいだね……

あれで僕たちの気配を察知して31層まで

手を伸ばしたのか。

どう? レオ、なにかわかった?」


「い、いえ……」


「なら、もう少し時間を稼ぐよ」


どうしてそんなにも……

俺を信頼してくれるんだ。


「ここだよ!」


ハンターさんの声に巨人がそちらを見る。


腕を伸ばしてくる。

そう考えていたハンターさんだったが、

巨人は胸を膨らませて大きく口を開いた。


そして、その口から


「なっ!?」


逃げる暇もない速度で何かを飛ばした。


風の斬撃!?

こいつもしかして、風を操れるのか!?


「うあああああ!!!!!」


「ハンターさん!!」


予想外の攻撃にハンターさんが巻き込まれる。


攻撃をまともにくらったハンターさんが

その場に倒れた。


「う、嘘………

俺のせいだ………俺が弱いから………

俺が…………………何もできないから」


何の力にもなれなかった。

このまま俺に手を差し伸べてくれた人たちを

失うのか?

こんなことなら、あの緊急ミッションのときに

死んでおけば、


「レオオオオオオオオ!!!!!!!」


グレイスさんの叫び声に反射的に振り向いた。


「お前ならできるはずだ!!!

本に書いてあったことを思い出せ!!!

集中しろ!! 他のことは考えるな!!」


その言葉にはっとした。


そうだ。落ち着け。

まだだ。

まだ大切な人たちを失っていない。


俺はすぅーと深呼吸をして、その巨大な

モンスターを見た。


考えるな。見ろ。

集中しろ。見えるものを疑うな。

自分の力を信じろ。


その直後だった。


俺のナイフから巨人の胸に一筋の線が見えた。


これ………もしかして!


「グレイスさん!!!

巨人から距離を取って!!!

拳の攻撃を避けまくってください!」


俺の意味のわからない作戦にも、


「了解!!!!」


疑問を持たずに後ろに下がる。


巨人は腕を伸ばして拳を飛ばす。


「おいしょっ! あらよっと!」


あんなにボロボロなのに軽々と避けた。


それに苛立ち始めた巨人が先ほど同じように

口を膨らませる。


「エリシアさん! フェアリン!!!

俺に攻撃強化魔法と跳躍強化魔法を!!! 

全部の魔力を使って!!!!」


「わかった!」


「了解だよ!」


体に力がみなぎってくる。

こんなパワーを感じたことはない。


俺は忍び足で巨人に気づかれず、

懐へと潜り込んだ。


見える………線が………


俺は跳躍し、全ての力を込めて

その膨らんだ胸元に斬撃を送り込んだ。


その膨らんだ胸は、まるで風船のように

パン!!! と音を立てて弾けた。


強靭な肌が吹き飛んで内臓が吹き飛び、

巨人が白目を向く。


勝った。

そう思った直後、着地した俺に巨人が最後の力を

振り絞って俺を殺そうと、拳を振り上げ、


「おらあああああ!!!」


瞬間、グレイスさんが肌が吹き飛んだ巨人の

胸元に飛び込んで、


ドカン!!!!


トドメを刺した。


「よくやった。レオ」


地面に落ちた俺にグレイスさんが

歩み寄る。


「やっぱお前は強くなれる」


そのグレイスさんの言葉が

嬉しすぎて体が震えた。


少しだけ、近づけた気がした。


「すごい!!!!!! 二人共!!」


「やったあああ!!!

大手柄だよレオ!」


エリシアさんとフェアリン、


「ほんと強くなったね」


傷だらけのハンターさんが駆け寄る。


「倒せたんですね……」


実感がない。

本当に力になれたのだろうか。


でも、とりあえず嬉しい。


めちゃくちゃ嬉しい。


「ほら、レオ。

こいつのドロップアイテムだ」


グレイスさんから渡されたのは赤色の石。


「なんですかこれ」


「これは魔法石って言ってな。

稀にドロップするんだが、これを材料にすると

強力な武器が作れる」


「こ、これはグレイスさんが」


「いや、お前のだ。

お前の力があったから倒せた。

だから、お前が受け取れ」


「……わ、わかりました」


「おし、じゃあ皆のところに帰るぞ」


「はい!」


グレイスさんに差し伸ばされた手を握った。


「……グレイスさん?」


けれど、グレイスさんが動かなくなった。

いや、グレイスさんだけじゃない。

俺の体もまるで金縛りにあったかのように

微動だにしない。



「………お前ら逃げろ!!!!」


突然、グレイスさんがそう叫んだ。


その直後、エリシアさんとハンターさん。

そして、俺の体から血が吹き出した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る