第7話 観察眼

イーターの能力の詳細は女神の神殿に

保管されている【イーター目録】という本に

記されている。


何千年も前のイーター達が自分たちの能力の情報を

残してくれていたそうだ。


自分が観察眼という能力を持っていることが

判明したあの日、神の使いの老婆が

その本を読ませてくれた。


その本には同じ観察眼を発現させた

二人の冒険者の記録が残されていた。


5800年前と680年前。


どちらも最初は視界から不安や恐怖、安堵、興奮などの感情が流れ込んできたと書き残している。


同じだ。


俺もダンジョンの中、敵を視認して、

この敵は危ないだとか、ここの場所は

安全だと直感する。


これが初期状態。


そこから、更に能力を鍛えることで、

この能力は―――


俺は鳥肌が立った。

もしも、これが本当だとしたら。

とんでもないことになる。


俺は続いてこの能力の鍛え方について

読んだ。

それは常にこの能力を意識すること。

そうすることで、次第に

その感情はより具体的なものとなっていく。


『とにかく、意識しろ。集中しろ。目を凝らせ。

自分の目で見たものを疑うな。

それが観察眼にしか見ることの

できない景色である』


それから半年が過ぎた。


「ローズさん。そこの角の奥に3体の

スケルトンがいます」


イーター目録に記されていた観察眼の能力。


それが索敵に適しているとグレイスさんに

言われて、アサシンに転職して半年。


ひたすらに、双剣をふるい、モンスターを食らい、目を鍛えた。


おかげで、星4クラスのモンスターなら

一人で倒せるようになった。


なにより、自分を中心とした半径15メートルの

円内にいるモンスターなら、

壁の向こう側だろうが、水中だろうが

視認できるようになった。


おまけに、前からあった直感もより

頻繁に起こるようになっている。


あの本に記されていた最後の文。


それをずっと頭に入れていた。


俺の双剣がスケルトンの首をはねる。


「へぇ〜ほんとにスケルトンがいた」


後から駆けつけたローズさんが

少し感心したように言うのだった。


―――――――――――――――――――――――


この半年間、一週間に一度、

パーティーメンバーによるダンジョン攻略。


週4でスリーマンセルでダンジョンに

潜るのを繰り返した。


グレイスパーティーのメンバーは個々として強力な力を有しており、舞い込んで来る仕事も多い。

常に全員が俺の修行に時間を割けないため、

ヒーラーのエリシアさんと俺を固定して、

残りの一枠を誰かがするという形が

ほとんどだった。


大抵がハンターさんとグレイスさん。

たまにベルニアさんとローズさん。

餓狼さんは一度もなかった。


「はい、エリシアさん、ローズさん」


俺は倒したモンスターを調理して

二人に提供した。


最初はエリシアさんが料理をしてくれたのだが、

流石に付き添いで来てもらっている彼女に毎日料理をしてもらうのは申し訳ないということで、

彼女に教わりながら俺も料理をするようになった。


「ありがとう、レオ」


「……とう」


はっきりお礼を言ってくれるエリシアさんと、

恥ずかしげにぼそぼそっと何かを言いながら

男のように飯を口にかきこむローズさん。


流石に半年も同じギルドにいれば

二人の性格も理解できるし、慣れる。


ローズさんは凶暴であるが、根は優しい人だ。

以前、彼女が恋愛小説を書店で購入しているのを

目撃してガチで殺されかけたことが

一度だけあるが、本当は優しい人だ。

そう思いたい。そう思わなければ近くに

いられない。


エリシアさんはこの美貌で120才らしい。

あのグレイスさんよりも年齢が4倍以上

あるなんて。

なんでも、このアブソリュート・ルーラーズの

設立メンバーの一人だとか。

ちなみに、他はグレイスさんと餓狼さんらしい。

グレイスさんは彼女が最も信頼の置ける

仲間だと言っていた。

対して、彼女は当初の仲間だった餓狼さんと

グレイスさんがどんどん強くなっていって

寂しいとたまに弱音を吐いてくれる。

それを俺に話してくれるほどエリシアさんと

仲良くなれたのは嬉しいが、レッズとのことも

あって、段々仲間と能力の差が開いていって

寂しいという言葉はすごく共感できてしまう。


「レオもたくさん食べてね」


その寂しさがあってなのか、グレイスさんの

昔の面影をオレに重ねているからなのか。

エリシアさんはめちゃくちゃ面倒を見てくれる。


「好き嫌いしちゃだめよ?」


「はい」


「アンタら親子か」


そんな会話をしながら飯を

食べ終わろうとしていたそのとき。


「にしても、いよいよね」


珍しくローズさんから興奮した様子が見て取れた。


「31層に行けるの」


その言葉に、ローズさんも俺と同じ

冒険者なのだと思ってしまった。

いつも圧倒的なまでの力で敵を

蹂躙するものだから、彼女と俺は全く

別の生き物だと錯覚していたが、

未開の地にワクワクしてしまうのは、

冒険者皆同じらしい。


「明日ってその会議をするんでしたっけ?」


「うん。他の二つのギルドがどこか知ってる?」


エリシアさんが試すように尋ねてきた。


「えっとーその……」


「ホーリーガーディアンズと雲隠れの衆よ。

アンタ……相手側のギルドの前で

答えられなかったら殺されるから。

それくらい気を許せない化け物たちなのよ。

肝に命じておきなさい」


「は、はい!」











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