口述書

千田美咲

プロローグ

(プロローグ)


(通りを行き交う人々。雑踏の音)


 ええと、そうですね。これはわたしの友だちにほんとうに起こったことです。ここでは仮名をつかわしていただいて、隆一くんとでもしておきましょう。そうしておかないとあとで面倒ですから。

 それでですね、隆一くんはですね、この話を長電話でタラタラと話したあと、どういうわけか大学をやめてっというか、おんなじ研究室だったので、先生からきいたところでは、なんの手続きもせずに、行方不明になってしまったみたいなんですよね。

 それで、いまどうしているのかは、ほんとうにわかりません。当時はメールこそありましたが、いまのような生活に根づいた✕✕✕や✕✕✕のようなSNSもなかったので、いまさら連絡をこっちからとろうとしても、もうどうしようもないんですよね。

 そう、手遅れです。

 それで、その長電話で隆一くんがしゃべったことを、これからお話しようと思っているのですが、ほんとうに気分がわるくなったら、遠慮なくそこはカットなりピー音なり編集を入れてもらってかまいません。

 では。


(急に咳こむ)


 すいません、緊張しちゃって。カメラには慣れていなんですよ。おねがいだからモザイクくらいはかけておいてくださいね。そうしないと、もし隆一くんがこの話を聞いていたらまずいことになるので。


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