第17話 通話中!

 『概ね詳細はわかった、私もそちらに向かおう——と言いたいところだが……少々時間がかかる』


 「そんな……朝陽は重症なんです悠長なこと言ってたらどうなるか」


 『……こればかりは私の判断ではどうしようできない、『賢者の堂』とは国有企業みたいなものでね、統轄する私は国の所有物なんだ」


 「国の所有物って……意味わかんないですよ」


 『心情的には駆け付けたい、だが君達が現世に降りることと私が降りることは訳が変わってくる……私はね国の許可なくこの建物から出ることを許されていないんだよ。少々知的好奇心を抑えられず悪戯に国をかき回した時期があってね、特級•永年拘束指定生物になってしまってねぇ、いやはやまいったよ」


 緊張感にかけるイリスに苛立ちを募らせる僕は語気を強める。


 「し、知りませんよそんなの! じゃあどうしろって言うんです?! このままじゃ朝陽が死んじゃうじゃないか!! 他に退魔師はいないんですか!?」


 イリスは煙草を吸っているのか息を吐く音が聞こえる。


 『命、朝陽は身代わりになって人を助けても、けして自分の命を諦めたりはしない。意外と泥臭い子なんだよあの子は、だから安心した前、蝋燭程度の灯火ならまだ残っているさ、ただその灯火に私が間に合うかどうかは定かではないのが現状だ、それにこの街以外にも我々のような組織は存在しているのだが、どこも閉鎖的だし協力を仰いだとしても時間の無駄だろう』


 「そんな……」


 『残念な事に今現状を打破できる適者は君しかいないんだよ佐野命。だが逃げる事は君の権利でもある、現に朝陽を残し敵前逃亡をしてのけたわけだ』


 「逃げた訳じゃ……」


 『朝陽が逃げろと言ったから仕方なく逃げた、と、でもいいたけだね。君は面白いね独りに憧れて孤高に焦がれているくせに、他者の意見を滔々と受け入れている。何故だい? それは責任が伴う決断をしたくないからではないのかい? 朝陽はね君のその弱さも含めて逃げろと言ったんだよ、後に尾を引かぬよう人命救助と言う免罪符まであたえてね』


 「……」


 『逡巡するのは悪い事ではない、だが今必要なのはまさに逡巡する事だ。考え、そして君ができる取捨選択を行動したまえ。責任云々何てものは大人がとることだ。他力本願、これも使いようなんだよ、君に足りないのは他人を頼り信じる事でもある、自責の念などただの足かせでしかない。いいんだ、若さを振りかざし我が物顔で我儘に生きて、たとえ転じた先が、地獄だろうと決して見捨てたりしない、必ず私が君を救おう……遠回りになってしまったが、私は、必ず君達の元に駆けつける、だからそれまで朝陽の灯火が尽きないよう助けてやってほしい、これが私の他力本願だ』


 頼んだよ。とイリスさんは通話を切った。


 「僕が朝陽を助ける……」


 僕が助ける……イリスさんの言った通り、逃げ出した僕に何ができるんだ……出会って数週間しかたっていないような関係性の女の子の為に僕はどうかしているのではないか? ……でも初めは退魔師なんて胡散臭いし、その能力を盗んだら、とんずらしようと思っていたのに、流されやすい性分からか、朝陽は良き隣人になって世話焼きで、僕を独りにはさせてくれなかった、現に商店街にも駆けつけてきてくれた……僕は無意識に朝陽に心を許していたんだ。認めたくないけど、僕は他人以上の感情を抱いているんだ、好意があるとかそんな高尚な想いじゃない、ただ単純に端的に僕の物語に必要な人間で、大切な人間なんだ。朝陽とバカみたいな談笑をするのが好きだ、初めて赤の他人とする会話が楽しいと思えたんだ。ちっぽけで誰にでもある交友関係の一頁かもしれないけど……それは誰しもあることかもしれない、でも誰とでもいいわけじゃない。それは空気感が合うとか、笑いのツボが合うとか、求めている言葉を自然と言ってくれているとか、連絡をしようと思った瞬間に相手から連絡が来たり、そんな小さな心地良さの集合体が親友や恋人になってくんだ僕は朝陽に大それたことは言わない――だけどただ、ただまだ、離れたくないんだ、まだ君と一緒にいたい。


 僕しかいない、朝陽を助けられるのは僕しかいないんだ……やれ、動け、考えろ、我が物顔で我儘に生きろ!!


 しゃがみ込み泣きじゃくるクラスメイトHの目線までひざを曲げ声をかける。

 

 「H聞け、僕は今からあの倉庫に戻って仲間を助けてくる。……お前はここから逃げて警察や消防に連絡を取ってほしいんだ頼まれてくれないか?」


 Hは顔を上げ苦慮の表情でこちら見つめている。こいつもきっと怖くてたまらなかったのだろう、友人を目の前で亡くしているんだ当然だ。


 「……うん分かった。伝える」震える足を抑えながら立ち上がり歩き出すH


 「ありがとう佐野……後アタシの名前は葉月、Hって呼ぶな」


 僕は少し驚く、意外とみんな知っているんだな、僕の名前。それにイニシャル合ってたのかよ。


 「ああ、善処するよ」


 葉月を見送り僕は改めて店内に入った。


 やってやる何に変えても朝陽を助ける。僕が自暴自棄になったらどうなるか思い知らせてやるよ、我儘に生きる? 急に言われたってわかんねーよ、それならもうどうにかなれ!! 作戦名『後は野となれ山となれ』覚悟しやがれ油目ころも!! 


 interlude————。








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