第36話『みんなも来てくれた。』

 千弦からのマッサージが終わったときには午後5時半近くになっていた。

 琢磨も吉岡さんも神崎さんもそれぞれの部活が終わるのは午後6時。結菜も中学の部活が終わるのが午後6時なので、千弦と星野さんは結菜達と会ってからみんなで一緒に帰るという。2人はその旨をグループトークにメッセージしていた。

 千弦も星野さんも課題が終わっているので、結菜達が来るまでの間は3人とも好きな現在放送中のラブコメアニメと日常系のアニメを一緒に観た。2人と一緒にアニメを観るのは楽しいな。今朝も病院に行く前に時間潰しの目的でアニメを観たけど、あのときは体調が悪かったから、ここまで楽しくは感じなかった。病院から帰ってきてから数時間寝ていたし、さっきまでは2人から授業のノートを写してもらったのもあり、普段よりも楽しく思えた。


「このアニメも楽しかったね」

「楽しかったよね、千弦ちゃん」


 2つ目に観た日常系アニメを観終わったとき、千弦と星野さんは笑顔でそんな感想を口にした。2人にとっても楽しい時間になって何よりだ。


「俺も楽しかったよ。2人と一緒にアニメを観てより元気になった」

「それは良かった」

「そうだね。アニメが好きだから、白石君がアニメを観て元気になるのが分かるな。私も風邪で学校を休んだとき、ベッドで横になりながらアニメを観ることがあるよ」

「私もある。熱とかあって、なかなか眠れないときとかに」

「今朝、まさにその理由でなかなか眠れないから、病院に行く前にアニメを観たよ。そのおかげで。時間の流れがちょっと早く感じたな」

「好きなことをしていると、時間の進みが早くなるよね」


 千弦はいつもの落ち着いた笑顔でそう言ってくれた。星野さんも笑顔で「うんうん」と頷いている。2人に共感してもらえることが嬉しい。


「今は……6時10分過ぎか。もうそろそろ結菜ちゃんが帰ってきたり、玲央達がお見舞いに来たりするかな?」

「たぶんな。結菜は寄り道しなければ今くらいの時間に帰ってくるし、去年、体調を崩したときもこのくらいの時間に琢磨と吉岡さんがお見舞いに来てくれたから」


 もうすぐ4人に会えると思うと楽しみだ。

 俺達が結菜達の話をしたからだろうか。部屋の外から、誰かが階段を上がってくる音が聞こえてきた。この音の響き方は1人や2人ではなく、もっと多いだろう。それに、男女の話声も聞こえてくるし。


 ――コンコン。

『お兄ちゃん。玲央さん達と一緒に帰ってきたよ』


 部屋の扉がノックされた後、部屋の外から結菜の声が聞こえてきた。やっぱり、この足音や話し声の正体は結菜達だったか。そうだと分かってか、千弦と星野さんは楽しそうな様子に。


「そうか。どうぞ」

『はーい。……みなさん、どうぞ』


 結菜がそう言うと、結菜が部屋の扉をゆっくりと開けた。

 扉が開くと、中学の制服を着た結菜と、高校の制服を着た琢磨と吉岡さんと神崎さんが部屋の中に入ってきた。みんな運動系の部活動をした帰りなのもあり、スクールバッグの他に部活用のバッグを持っている。


「結菜、おかえり。琢磨、吉岡さん、神崎さん、こんばんは。夕方に俺達がメッセージを送った通り、体調が結構良くなったよ」


 俺は結菜達のことを見ながらそう挨拶する。

 俺の言葉や今の俺の姿を見てか、結菜達は安堵した様子になる。結菜は「ただいま」、琢磨と吉岡さんと神崎さんは「こんばんは」と挨拶した。


「お兄ちゃんの具合が良くなってきて安心したよ」

「あたしも安心したわ。体調を崩したって知ったときは心配になったし」

「玲央にとっては、仲良くなってから初めて体調不良で休んだもんね。去年も白石君が体調不良で休んだことがあったから、玲央ほど心配はしてなかったけど……元気そうな顔を見られて良かった」

「まあ、洋平は毎年何日かは体調不良で休むし、夕方に洋平達から体調が良くなってきたってメッセージは来たけど、実際に洋平のいい顔を見られて安心したぜ」


 結菜達はみんな優しい笑顔でそう言ってくれる。そんな中、神崎さんはほっと胸を撫で下ろしていた。

 みんなの思いを言葉にして伝えられ、申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが心の中で混ざり合う。


「……そうか。夕方に千弦と星野さんには言ったけど、みんな心配掛けてごめん。あと、琢磨達はお見舞いに来てくれてありがとう」


 みんなのことを見ながらそう言って、俺は深く頭を下げた。

 頭を下げていると、頭には優しい感触と温もりが感じられるように。


「気にしないでいいよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんが元気になって良かったよ」


 すぐ近くから結菜がそう言ってくれて。

 ゆっくりと顔を上げると、俺の目の前には結菜がいて。俺と目が合うと結菜はニッコリと笑って、俺の頭を優しく撫でてくれる。


「結菜ちゃんの言う通りだぜ」

「そうだね、琢磨君」

「別に謝るほどじゃないわ。ただ、今後は気をつけなさいよ。由美さんから聞いたけど、体調を崩したのは過労が原因だそうじゃない。連休中は遊んだり、バイトしたり、課題やったり、夜遅くまでラノベ読んだりであまり休まなかったみたいだし」


 琢磨と吉岡さんは朗らかな笑顔でそう言ってくれたけど、神崎さんはムッとした様子で俺に注意もしてくれた。それだけ、俺が体調不良で休んだことを心配してくれたってことか。神崎さんは優しいな。こうして注意してくれる友達がいるのは有り難い。


「ああ。今回のことを教訓に、しっかりと休息を取るように心がけるよ。注意してくれてありがとう、神崎さん」

「……いえいえ。心配だったし。そもそも、体調を崩したら白石が苦しむことになるし。だから、友達として注意したの」


 神崎さんは照れくさそうな様子でそう言った。視線をちらつかせていて。そんなところが可愛くて。ただ、それを言ったら怒られそうな気がしたので胸の内に留めておこう。


「洋平。藤原と星野がメッセージで言っていたけど、明日は学校に来られそうなんだよな?」

「ああ。薬が効いているし、お見舞いに来てくれた千弦と星野さんが色々と看病してくれたからな。このままゆっくりしていれば、明日は学校に行けると思う」

「そうか! それなら良かったぜ!」


 琢磨は持ち前の明るい笑顔でそう言うと、俺の肩をポンポンと優しく叩いてくれた。普段、嬉しいときや楽しいときに俺の体を力強く叩くけど、今回は優しいな。体調を崩していた俺への気遣いなのだろう。


「千弦さんと彩葉さんに看病してもらった……か。お兄ちゃん、2人にどんなことをしてもらったのぉ?」

「あたしも気になるな」

「お、教えなさい! 白石!」


 結菜はニヤニヤして、吉岡さんは明るい笑顔で、神崎さんは興味津々そうな様子でそう問いかける。


「千弦には上半身の汗を拭いてもらったり、肩のマッサージをしてもらったりしたよ。星野さんには買ってきてくれた桃のゼリーを食べさせてもらったんだ」

「熱が出て汗を掻いていたし、私と彩葉のノートを写した後に肩が凝っていたからね」

「千弦ちゃんが汗を拭いた後だから、私も白石君のために何かしたくて。楽しかったよ」

「楽しかったよね」


 と、千弦と星野さんは笑顔で頷いている。2人は俺に色々としてくれたけど、楽しいと思ってくれていて良かったよ。


「そうだったんですね。良かったね、お兄ちゃん」

「良かったじゃねえか、洋平」

「白石君、良かったね。楽しめた2人もね」

「2人に看病してもらえて良かったじゃない。あと、白石がちょっと羨ましいわ」

「ふふっ。もし、玲央が体調を崩したときには、お見舞いに行って看病するよ」

「一緒に行こうね、千弦ちゃん」

「ありがとう」


 神崎さんは嬉しそうにお礼を言った。もし、今日の俺と同じことを千弦と星野さんにしてもらったら、神崎さんはどんなに体調が悪くても元気になりそうだ。

 それから少しの間、7人で今日のことを話題に談笑する。

 自宅にいるけど、こうしてみんなに会って話して、笑い合えることが嬉しい。それもあり、明日は元気になって学校で千弦や琢磨達と会いたいと思うのであった。

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